軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-17 真夜中の異変

夜中、アルは激しいノックの音で目が覚めた。

「アル、起きてくれ。アル! アル!」

デズモンドの声だった。ということは、ナレシュと共に帰って来たのだろう。感覚からするとトネリコ通りへの立ち入り検査に出発する時刻にはまだ少し間がある。何か起こったのだろうか。

「はい……少し待って……」

割り当てられた部屋の仮眠していたベッドから身を起こして、扉を開ける。次の仕事が夜明け前で、ぐっすり寝てしまうと起きれないので、革鎧などは身に付けたままである。

「どうしました?」

「悪いな。手伝ってくれ。トネリコ通りで火事だ」

勘付かれたのか。ということは、テンペスト王国の間諜連中は逃げ出したのだろうか。

「衛兵隊本部は大騒ぎになってて、ニコラス男爵閣下とはうまく連絡がとれてねぇ。衛兵隊の下っ端の話によると、消火に協力する部隊、門を警戒する部隊とスラムを探し回って怪しい連中を捕まえる部隊と衛兵隊は三つに分かれて対応中って話だ。ただ、ゾラ男爵邸を見張っていた馬車も姿を消してるらしくて、ナレシュ様はそっちのほうが気になるって 仰(おっしゃ) ってる。アルなら馬車を呪文で探せるかと思って、寝てるところ悪いが起こさせてもらった」

ニコラス男爵というのは衛兵隊の長官である。衛兵隊の指揮だけで手一杯ということだろうか。

「わかりました。ナレシュ様は?」

「今は会議室だ。ラドヤード卿、シグムンド様も一緒に居る」

アルは乱れていた髪を軽く直し、忘れ物がないか確かめてから、会議室に向かう。ナレシュたちは既に金属の甲冑を身に付けていつでも戦えるような恰好に着替えていた。

「おはようございます」

「おはよう、アル君、悪いね」

全然大丈夫ですと答えつつ、アルは 物品探索(ロケイトオブジェクト) 呪文を使って黒い馬車を探す。

「西北西に一キロというと何かあります?」

そこが呪文に反応した場所だった。アルの言葉に、ナレシュたちは考え込む。

「衛兵隊本部だな」

「衛兵隊本部? それだと、この反応は……」

物品探索(ロケイトオブジェクト) 呪文というのは、明確に記憶にある物体を探す呪文だが、そっくりな物体が複数あれば、一番近いものの位置が示される。もちろんこの反応が目的の馬車である可能性もあるが、ナレシュたちが捕虜を衛兵隊本部に護送したあと、衛兵隊本部の敷地に馬車を残してきたとすれば、この反応はその残した馬車かもしれない。

「そうか」

アルの説明を聞いて、ラドヤード卿はすこしがっかりした様子だった。期待してくれていたのに申し訳ないが、呪文にも限界はある。

「とりあえず衛兵隊本部に向かおう。目的の馬車という可能性も、十分にある。あてもなく探しても仕方ないし、どうせニコラス男爵閣下と合流する必要もある」

ナレシュの言葉に、シグムンドとデズモンドは頷く。そうしてアルたちは衛兵隊本部に向かう事にしたのだった。

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アルとナレシュたちが真夜中の道を馬と徒歩で衛兵隊本部に近づいていく。幸い月があり真っ暗闇ではない。と、その少し手前で道を曲がったところで黒い馬車が一台停まっていた。御者台に一人、黒いフードをかぶった男が顔を伏せて座っている。それに気付いたアルが慌てて立ち止まると、ナレシュたちも続けて乗っていた馬の手綱を引いた。

「居たな」

「はい」

アルが緊張した顔をしつつ答える。馬車との距離は二十メートルほどしかない。 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文には当然反応する距離であるし、馬の足音などで相手は当然気が付いているだろう。もちろん黒く紋章なども描かれていない馬車というだけで、テンペスト王国に関連しない馬車という可能性もないわけではないが、この状況ではかなり疑わしいと言えた。

「どうする? やるか?」

ナレシュは後ろについてきている者たちをちらりと見た。ラドヤード卿、シグムンド、デスモンド、そして従士が四名、アルを入れると九人で、アルと従士は徒歩だ。向こうは四人乗り、御者を入れても最大5人だろう。そのうち、魔法使いが何人いるかはわからない。

「やりましょう」

ラドヤード卿が小さな声で応えた。馬の手綱を握り直し、走り出そうとするナレシュの足にアルは急いで触れる。ナレシュが頷いた。この辺りの呼吸は辺境への遠征に備えて以前訓練したときの賜物だ。 肉体強化(フィジカルブースト) 呪文。 知覚強化(センソリーブースト) 呪文なども使いたかったが、強化系の呪文は接触でしか使えないので一人ずつになってしまうし、第一時間がない。自分以外には効果時間が限られているので衛兵隊本部に到着してから使うつもりでいたのは少し失敗だった。

黒い馬車の御者はアルたちに気が付いた様子で出発しようとした。だが、ラドヤード卿たちの馬がすぐそれに追いつき、先回りして進路を塞ぐ。ガタンと音がして馬車の天井が開いた。ローブを身にまとった男が顔を出す。ヴェール卿ではない。

『 魔法の(マジック) ……『 痙攣(スパズム) 』

何を使うつもりだったのだろうかわからないが、アルがなんとか呪文を止めた。ローブを身にまとった男は驚きに目を見開いている。

馬車の扉が開き、黒いフードの男たちが三人、剣を片手に飛び出してきた。御者台からも黒いフードの男が一人飛び降りる。

「ナレシュだ。大人しくせよ!」

真夜中の静かな街角で馬の蹄とナレシュの声が響く。だが、男たちはひるむ様子もなく、ナレシュたちに襲いかかって来た。

<円剣> 直剣闘技 --- 全周囲攻撃

ナレシュが地を蹴り、一気にその四人の前に走ると、剣を一回転させた。フードの男たちは剣を立てて、ナレシュの剣を防ごうとしたが、その速さと勢いに吹き飛ばされた。

「おおっ?!」

あまりの速さにラドヤード卿たちも思わず驚きの声を上げる。

それを見た魔法使いが次の呪文を唱え始めた。だが、ナレシュに少し遅れて馬車に到着したラドヤード卿たちに剣をつきつけられると、抵抗をあきらめた様子で両手を上げた。