軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-14 取り調べ

全員を拘束し終え一人ずつ話を聞くという事になり、その前にアルがナレシュにどうして降伏をうけいれるような態度をとったのかと聞くと、それを餌に魔導士たちが行った行為の自白を勧めるといった狙いがあったらしい。そのやり取りの結果、テンペスト王国の間諜と思われる連中はそれ以上の抵抗をせずに、素直に逮捕されたというのは、それだけでも効果が有ったと考えるべきだろう。

そして、一番最初にナレシュが話を聞くことにしたのはフレッチャーと名乗った男だった。彼は最初に降伏を申し出た男である。アルは魔法使いが口枷を外したところでいきなり呪文を使われると困るので、ナレシュのすぐ横で彼の取り調べに立ち会う事になった。素直に自白をしてくれると楽なのにと考えていると、彼は本当にナレシュの思惑通りシグムンドの質問にあまり躊躇う事もなく、すらすらと答え始めたのだった。

彼の話によると、本来の任務はこの施設の工事であったらしい。この施設はテンペスト王国が将来的に攻めこむ可能性を踏まえて、ひと月ほど前から建設工事を始めたばかりであったようだ。部屋の奥にあった階段はまだ数段しか出来ていなかったが、これから地下に掘り進め、そこから掘り出した岩を利用して、今は一メートル程度の壁をさらに高く積み上げ、その上で土を盛り植物などを植えてカモフラージュをする予定であったようだ。

そのための道具として、 石軟化(ソフテンストーン) 呪文が使える杖と、その魔力の補充用に大量の魔石を渡されていたのだという。彼としては、その杖を使い工事を進めるためにここに来ており、戦闘に参加する予定はなかったらしい。

だが、つい先日、メルヴィルという名の一緒に捕まったもう一人の魔法使いがやってきて、彼の任務を手伝うように言われたのだと言う。彼とフレッチャーとは同じ魔導士という身分でしかないが、彼は自分より先任であり、大魔導士からの命令だと言われて従うしかなかったのだという話だった。そして、その任務というのが、そのもう一人の魔法使いが集落の長に化けて、別の集落の井戸に羊の死体を放り込むという仕事で、フレッチャー自身はなんのためにそんなことをするのかよく判らなかったという。

彼自身としては、もちろん戦争準備のために潜入工作はしているというのは認識していたが、それほどたいしたことはしていないと思っていたようだ。

「その集落の長に化けるというのは、魔道具か何かですか?」

アルはその他人に化けるという方法について思わず訊ねた。

「私には使えないが、 動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) という呪文だそうだ」

動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) ? 予想外の答えにアルは驚いた。 動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) というのはアル自身も習得している呪文だ。動物だけでなく、鳥や虫、魚などにもなれる呪文ではあるが、人間が対象になるとはアル自身全く知らなかった。人間も動物ということだろうか?しかし、変身したとしても、どうやって誰に変身するのか決めるというのか。意外そうな顔をしているアルにフレッチャーは逆に知らないのかと不思議そうな顔をしていた。

「テンペスト王国の人間で、今回の作戦に関わっている人間はどれぐらい居るのだ? その大魔導士というのが今回の作戦の責任者なのか?」

アルが考え込んでいる横で、デズモンドが尋ねた。彼としては相手の戦力に関する情報のほうが気になるようだ。だが、アルとしてはそれに関してはあまり興味がない。はやく話を終わらせて人間に変身するのを試してみたい。しかし、許しもなく変身すると怒られるだろう。どうしようかと考えている横で尋問は進んでいく。

「私に何人と聞かれてもよくわからない。私は第二魔導士団で、大魔導士はケリー男爵閣下だが、ケリー閣下は、国境の旧セネット伯爵領で対シルヴェスター王国のための指揮をとられている。メルヴィル卿は第三魔導士団でヴェール卿の指揮で動いており、私にメルヴィル卿に協力せよという命令書にもヴェール卿の署名があったので、おそらく国境都市パーカーに潜入されているのだろう。だが、昨日のような事は稀で、基本的にはそれぞれ別に動いているのだ」

アルははっとしてナレシュとデズモンドの顔を交互に見た。ヴェール卿が居るのか……。 動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) を試している場合ではなさそうだ。

「第二魔導士団と第三魔導士団の目的は?」

「我々第二魔導士団の役目は基本的に騎士団の援護だ。今回のように間接的な支援として拠点作成をするという任務を受けたのは初めてだ。第三魔導士団については、潜入、陽動任務と聞いたことがあるが、実態はよく知らない」

なるほど、二人居た魔法使いのうち、フレッチャーというのは第二魔導士団所属で間諜行為などにはほぼ知識がなく、そのために戦時とおなじ感覚で降伏などを申し出てきたのではないだろうか。すこしかわいそうな話だ。

「今回、どうして第三魔導士団は協力を依頼して来たのか知っているか?」

「詳しくは知らない。単純に手が足りなかっただけではないのか? 今回の任務にメルヴィル卿は配下を一人しか連れてこなかったからな。口頭だけなら拒否もできたが、大魔導士であるヴェール卿の正式な書類があれば従わざるを得ない」

フレッチャーと名乗った魔導士の話でとりあえず一番北の村での騒ぎがどのようにして行われたのかはなんとなくわかってきた。そして目的については、フレッチャーは何もよく知らないようだった。それについては、メルヴィルに話を聞かねばならないだろう。

「第一魔導士団は何をしているのだ?」

デズモンドの質問にフレッチャーは首を振る。第二、第三魔導士団の名前が出てきたからには、第一魔導士団というのもあるのか。

「それは、今回の私の任務とは関係のない情報だ。私が答える範囲ではない。それについての回答は拒否する」

先程とは全く違う反応が返って来た。デズモンドとナレシュは苦笑を浮かべる。捕虜になった時の条件は今回の作戦に限定した話だった。もっと曖昧にしておけば、もう少し情報がとれたかもしれない。だが、行っていた事は少なくとも正直に説明してくれた。それだけでもナレシュの思惑はうまく行ったと判断すべきだろう。

「わかった。では、メルヴィル殿にも話を聞くことにしよう。フレッチャー殿の話については了解した。パーカー子爵には包み隠さず話してくれたと報告させてもらう事にする」

ナレシュがそう言うと、フレッチャーは大きく頷いた。彼の意図した通りの反応だったのだろう。フレッチャーに話を聞くのはここまでにして、アルたちは次のメルヴィルに話を聞くことにしたのだった。

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だが、メルヴィルの反応はフレッチャーとは異なり、何を聞いても、私は知らないの一点張りだった。おそらく彼はフレッチャーとは異なり第三魔導士団の所属であり、間諜として動いていたことを認める事は犯罪者となることだと理解しているのだろう。三十分ほど言い聞かせたり、脅したりといったことを繰り返したが全く反応は変わらなかったのだ。それどころか、隙を見て再び 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文を使い、アルやナレシュを攻撃しようとした位である。これ以上の取り調べは専門の者に任せないと危険だし、実際に口を開かせようとするのなら、もっと強硬な手段を取る必要がありそうだった。

「アル君。君は先にパーカーに行ってくれないか? シグムンドとクレイグに、僕はこの捕虜たちを一番北の集落に連行して、爺たちと合流し、まずは井戸の件を片付けてから、改めてパーカーまで連行すると伝えて欲しい」

これ以上の取り調べを断念したナレシュはアルにそうお願いした。だが、アルは不安そうに首を振った。魔法使い二人とその手下が八人に対して、こちらは、アルとナレシュ、デズモンド、そして従士が二人の五人だけだ。アルが離れると残るナレシュたちは四人になってしまうのである。せめて、一番北の集落までは一緒に行った方が良いのではないのだろうか。

「二人だけでなく八人とも手枷はしているから大丈夫だよ。それよりはパーカーのほうが気になる。ヴェール卿というのは、パトリシア様をずっと追っていた魔法使いなのだろう? それもかなり用心深く残虐だと言っていたじゃないか」

ナレシュの言葉にアルは頷いた。たしかにそう言われると国境都市パーカーのほうが心配になって来た。相手は辺境都市レスターの人が多い所で集団に対する攻撃魔法を使おうとした魔法使いである。トネリコ通りの拠点への調査を衛兵隊がしようとしたときに、彼が居合わせれば相当な被害が出る恐れもある。パトリシアの話なども絡むのでヴェール卿の詳しい説明はできないが、敵の魔導士団の大隊長クラスが居るというだけでも、パーカー子爵は警戒するだろう。

「わかったよ。行ってくる。ナレシュく……いや、ナレシュ様とデズモンドさんたちも気を付けてね」

また、君と呼ぼうとしてしまった。アルは慌てて様と言い直す。それにナレシュは少し寂しそうな顔を一瞬浮かべたが、気を取り直し、よろしく頼むと頷いたのだった。