軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-9 発見したもの

二時間程が経ち、アルは濡れた髪を拭きながら、二人が見張りを続ける南側の出入り口にやってきた。二人は少し手持ち無沙汰気に何か話をしながらではあるが、しっかりと見張りをしてくれているようだ。

「おはよう、すこしは寝れたか?」

ジョアンナの問いに、アルは少し頭を掻きながら、マジックバッグから剣を二本取り出す。

「ジョアンナさん。これ、つかいます?」

遺跡で見つけたバスタードソードである。飾り気はあまりなく鞘は艶消しの黒い革に金属で補強されているだけのシンプルな拵えの物であった。鍔もなく、グリップと柄頭部分も無骨な艶消しの金属製だ。おそらくそういった装飾が施される前の状態なのだろう。

「無事回収できたのか?」

ジョアンナは驚きに目を見開きながらも、そのうちの一本を受け取る。

「抜いても?」

「ええ、大丈夫です。僕も一度抜いてみました。刀身は錆どころか曇り一つなく、すごく綺麗な状態でした。でも、僕は剣とかあまり得意じゃないし」

ジョアンナは黒光りする鞘を左手に持ち、右手で柄を持つと、ゆっくりと抜いた。刀身は少し青白い銀色で綺麗に磨かれており、ジョアンナの顔が映っている。刃は滑らかでいかにも切れそうだ。

「まるで出来上がったばかりのようだな」

ジョアンナの言葉にアルは頷く。

「たぶん、 梱包(パッキング) 呪文とか 保持(リテント) 呪文の効果で保護されてるんでしょう。すっごく斬れそうだけど、僕みたいな剣の心得がない人間が持っていてももったいないだけ。使えそうなら、ジョアンナさんどうぞ」

「え?」

ジョアンナは驚いた顔をした。古代の技術で作られたであろう剣、売れればかなりの値段がつくだろう。だが……。

「いいんです。これ程の品なので、知らない商人のところに持ち込んでもなかなか売れないと思います。正直にどこで手に入れたかと話をしても信じて貰えるかどうかわかりませんし、よしんば信じてもらえたとしても、結局献上するとかいう話になるかもしれません。もちろんその場合、それなりの褒美はもらえるかもしれませんが、どちらにせよ時間がかかっちゃう。それならジョアンナさんに使ってもらってパトリシアを守ってもらったほうが良い。もう一本はナレシュ様に贈ろうと思ってます」

「姫を守る……か」

ジョアンナはパトリシアをちらりと見た。アルの言葉にパトリシアの頬はすこし赤くなっていた。ジョアンナは軽く苦笑いを浮かべ、剣を軽く振った。

「なるほどな……。わかった。パトリシア様を守る剣として預かろう。バランスはかなり良い。切れ味を試したいところだが、もう夜だ。明日、一緒に出掛けるか?」

「うん、僕もやりたいことあるし、みんなで行きましょう」

「あのカニか?」

アルは微笑みを浮かべた。最初にカニの話が出て来るあたり、ジョアンナはかなり気に入ったようだ。

「カニもできれば獲りたいですね。でも、とりあえず、追っ手が来た時に備えて幾つかやっておこうと思う事があって……」

「その時は単に逃げ出すだけだろう? それとも何か他にするのか?」

ジョアンナの問いに、アルは腕を組んで少し首をひねる。

「もちろん逃げ出すつもりです。でも、目の前で 飛行(フライ) 呪文を使うより、筏みたいなのに乗って移動しているように見せかけたほうが良いかなぁと思うんです。とは言っても、筏は昔、村の大人が伐採した丸太を下流に出荷するときに作ったのをちょっとだけ見たことがあるだけだから、うまく作れるかどうかすこし自信がない」

「姫をそれに乗せるつもりか?」

不安そうにジョアンナが尋ねるが、アルはそれには軽く首を振って否定した。

「大丈夫です。そこは来た時とおなじように 飛行(フライ) 呪文と 運搬(キャリアー) 呪文を使います。あくまで見せかけるだけ」

「ふむ、なるほどな……」

「もう一箇所、呪文の書とおっしゃっていたのは、どうでした? うまく行きそうですか?」

ジョアンナと話をしていると、パトリシアがそう聞いてきた。アルは頷きながらも思わずニヤリと笑ってしまった。

「うん、そっちも採れたよ。それも五つ、最初一つだけだとおもってたんだけど、泥の中に埋もれててさ」

「五つも?」

「どれも微妙ではあるんだけどね。 梱包(パッキング) 呪文、 保持(リテント) 呪文、 精製(リファイン) 呪文、 抽出(エクストラクト) 呪文、 分析(アナライズ) 呪文の五つ。そして、呪文の書じゃないけど、同じように保護されている資料で、 物質(サブスタンス) 索引(インデックス) っていう辞書みたいなのもあったんだ」

このうち、 分析(アナライズ) 呪文はアルが習得済みの呪文であった。金や鉄といったものをサンプルとしてあらかじめ登録しておき、それと形や材質、色がどれぐらい一致しているのかの割合を知ることできる呪文であるというところまでは確認していたが、アルとしては使い道があまりなく、せいぜい偽硬貨の識別に使う程度だなと思っていた呪文である。

あと 梱包(パッキング) 呪文は呪文の書などを保全するために使われていることはよく知っていた。呪文を習得するためには 梱包(パッキング) を解除してしまうので、旅で持ち歩いたりするのに有用かもしれない。この 梱包(パッキング) 呪文と 保持(リテント) 呪文はテンペストの遺体を保全するのに使う板の話を聞いた時に、マラキが言っていた。似たような効果の気もするが、何か使い分けがあるのだろう。

後の 精製(リファイン) 呪文、 抽出(エクストラクト) 呪文については聞いたことがない。だが、呪文の名前から想像するに、素材に関係しそうな呪文である。違う部屋で何らかの呪文の効果で新品同様に保たれた剣が二本あったところを見ると、ここは何らかの工房の遺跡なのかもしれない。もちろん、 物質(サブスタンス) 索引(インデックス) もそういった事に何らかの関わりがあるのだろう。

「何かすごいことが出来そうですね」

「うん、一気に状況が解決できるような呪文じゃないけど、どれも面白そう」

アルがパトリシアと微笑みながら話しているとジョアンナはため息をついた。

「とりあえずは、この状況をなんとかしてからで頼む」

ジョアンナの苦言は確かにその通りだ。呪文の書を見つけて少し浮かれすぎていたようだ。アルは頭を掻いた。パトリシアも軽く肩をすくめている。

「そうですね。じゃぁ、見張りは交代します」

そう言ったアルにジョアンナは首を振った。

「交代は仮眠を取ってからで良い。その様子だと、ずっと宝探しをしていて結局寝てないのだろう? 姫、アル殿がちゃんと眠るかすこし見ていてあげてください。そうしないと、ずっと起きていそうだ」

「うふふ、そうですね。アル様、すこし眠りましょう。私、横で見ています」

お見通しらしい。アルは肩をすくめた。呪文の書や魔道具に関わった話になるといつもこうなってしまう。

「わかりました。ちょっとだけ寝てきます。ジョアンナさん。見張りお願いします」

パトリシアがアルの後ろについてきた。本当に横で眠るのかどうか見るつもりらしい。そんな事をされて寝られるだろうか。少し不安になるアルであった。