軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-5 古代遺跡探索

アルは慎重に巨大な石造りの建造物に近づいて行く。

空を飛ぶ相手に攻撃する手段を持つ蛮族というのはあまりいないはずだが、以前、ナレシュたちの遠征に同行した時、リザードマンにゴブリンメイジが同行していたことがあった。 魔法の矢(マジックミサイル) などが飛んでくるかもしれないし、 魔法解除(ディスペルマジック) で 飛行(フライ) 呪文が解除されたら、悲惨な事になるのだ。

アルたちは 浮遊眼(フローティングアイ) の眼を先行させ、蛮族の姿がない事を確認してから、南側の入口近くに降り立った。ジョアンナは急いでアルの 運搬(キャリアー) の椅子から立ち上がり、剣を抜き周囲を警戒する。石造りのこの建造物は何なのだろう。アルたちが降り立ったところは、崩れた石造りの手すりなどもあり、バルコニーのようだ。廊下らしきものが奥に続いているのが見える。その先には広い吹き抜けの空間があるようだった。

「きっと、中には明かりがないだろうから、二人にも 知覚強化(センソリーブースト) で暗視を付与しておくね。ちゃんと受け入れてよ?」

アルはそういって、二人にも 知覚強化(センソリーブースト) 呪文を使う。 閃光(フラッシュ) 呪文などに対する注意点も説明した。

「なるほど、暗い所でも良く見えるのか。これは便利だ。 知覚強化(センソリーブースト) 呪文か。あまり習得しても有意義な呪文ではないと聞いていたが、そうではなかったのだな」

ジョアンナは感心したようにつぶやき、廊下の奥を覗き込んだ。パトリシアも彼女に隠れるようにしながら同じように覗き込む。

「蛮族がねぐらにしているのかとおもったが、そうでもなさそうだな。静かなものだ」

ジョアンナの言葉にアルも頷き、臭いを嗅いだ。リザードマンは魚の腐ったような体臭を持っている。ねぐらにしているのならその臭いが染みついているはずであるが、それはあまり感じられなかった。

バルコニーから水面までは建物そのものが傾いていて、二メートルぐらいの距離があった。よじ登れないわけではないだろうが、少し苦労しそうである。

「こっちからは空からじゃないと入れない感じだね。僕が先に行くね。ジョアンナさんは、パトリシアを守って」

アルが先頭に立って廊下を進んでいく。三人は手すりのある回廊に囲まれたおよそ三十メートル四方の大きな吹き抜けに出た。内側は水が溜まっていたが、水は少し濁っていて深さはよくわからない。アルたちからいうと左手、西側に下に降りる階段が壁沿いにあるのが見えた。吹き抜けを囲む廊下の外周には規則的に部屋の入口らしいものが並んでいた。そして吹き抜けの対面にはさらに奥に進む通路があるが、そちらは途中から水の中に沈んでいた。おそらく、上空から見たときに見えた北側の入口につながっているのだろう。石造りの通路は泥だらけでところどころ大きな卵の殻が散乱している。卵自体はすこし古いものだ。リザードマンは卵生でアルはその殻を見たことがある。散乱している卵の殻はそれに似ている感じがした。

「ここで卵を産んでいたことはあったみたいだね」

アルの説明に、ジョアンナとパトリシアはさも嫌なものをみたといった様子で眉をしかめ、首を振る。アルたちは回廊を進み、その外周に並んだ部屋の中をひとつずつ確認していく。部屋の中は殺風景で調度品などは残されていない。この遺跡は調査済みという話であったので、全て持ち出されてしまったのだろう。部屋の中にあるのは廊下と同じように泥と床に散乱した卵の殻ぐらいである。

「中にもリザードマンが居た痕跡はあるけど、すこし古いね。今は居なさそう。あと、気になるのはこの建物には入口がないね。水没してしまっているのかな?」

もしかしたらこの建造物は一階部分が完全に水の中で、今居るところは二階部分、或いはさらにその上の階層かもしれない。

「どうする? ここで連中の出方を見るか? 水に囲まれたこのような立地であれば、空を飛ぶか舟を調達するかしなければ来られまい。卵の殻があって、あまり気は進まぬが……」

ジョアンナの言葉にアルはなるほどと頷いた。たしかにこの古代遺跡にあのテンペスト王国の間諜連中が来るには舟が必要だろうが、このような辺境で調達できるとは思えない。となると空を飛べる魔法使いだけで乗り込んでくるという事になるが、それならば昨日空振りした方法で迎え撃つことが出来るかもしれない。

「良いね。水や食料はある。しばらくの間、ここで様子を見よう。でも、そうするのなら念のために真ん中の水たまりの底も見たほうが良いね」

今は出入口が二か所しかないと思っているが、水たまりの底にはこの建造物の出入口がある可能性が高いだろう。リザードマンがそこを通れるか確認はするべきだ。

「とはいっても、深そうだぞ? それに水の中には何が居るかわからない。潜るのは危険だろう」

ジョアンナの言葉にパトリシアも不安そうな顔をする。

「大丈夫だよ。 浮遊眼(フローティングアイ) の眼は水の中に入れる」

浮遊眼(フローティングアイ) の眼は透明ではあるものの実体はあり、閉まっている扉や窓をすり抜けて中には入ることはできないのは知られた話だ。だが、空中を進むことができるのと同様に、水の中も進むことはできる。欠点があるとすれば、透明だとしても水の中ではその存在は微かに見えてしまうという事だろう。

「そうなのか。ならば、見てきてもらえるだろうか?」

アルは頷き、自分の頭の上に浮かべたままであった 浮遊眼(フローティングアイ) の眼を建造物の中心にある吹き抜けの中にたまった水の中に潜らせた。

水はすこし濁っていて、あまり視界は良くない。眼が完全に水の中に入ると、辛うじて底が見えた。深さはおよそ五メートルだ。西側にあった階段は吹き抜けの周囲をらせん状に回っており、アルたちのいる階層は三階であるのがわかった。一階部分と二階部分は、アルたちが居る三階と造りは同じで、吹き抜けを取り囲むように回廊があり、その外側には同じように規則正しく部屋があるようで出入口が並んでいた。吹き抜けの床部分には、テーブルや椅子らしきものの残骸の他、卵のかけらや骨のようなものが雑然と散らばっており、その上に泥がかなり積もっていた。

アルは部屋の中を探ろうと、 浮遊眼(フローティングアイ) の眼を床の近くまで沈めた。そして、そこで泥の中に 魔法感知(センスマジック) に反応したとおぼしきかすかな光を見つけたのだった。