軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9-19 《明るい休日》亭 偵察

「アルもこれを着な」

バーバラはアルから警備用の魔道具を受け取ると、代わりにうす汚れた頭巾つきの外套を手渡してきた。

「これは?」

「東四番街から南にいくんだ。綺麗な恰好だと浮くからね。それに、うまく行きゃぁ、向こうが侮って攻撃してきてくれるかもしれない」

バーバラはあくまでもそれを狙っているようだ。

確かに今回の件は、レビ商会を監視する 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼を発見した事、そこからアルがパトリシア・レビ商会襲撃の計画を立ち聞きした事以外には何もなく、衛兵隊に動いてもらえる程の証拠が何もない。今の時点で衛兵隊に情報を提供しても、レビ会頭が躊躇したようにナレシュの兄であるサンジェイを支持し、レビ商会を煙たがっている連中にもみ消され、逆に何らかの政争の具に使われたり、テンペストの間諜なりに情報が流れて対策される可能性すらある。

そんなことをするぐらいなら、実際に攻撃されて反撃という形をとり、そこで顔見知りの衛兵隊を巻き込むほうがマシだと考えているのだろう。さらに、レビ商会に襲撃を受けるより、被害が少ないという計算なのかもしれない。

「そこまでは、やりすぎなんじゃないです? 僕はとりあえず相手に見つからないように調査が出来れば良いとおもうんですけどね」

「まぁ、それは成り行きだね」

バーバラはそう言ってにやりと笑う。何か怪しい気もするが、ここまでくれば乗るしかないだろう。アルも覚悟を決めて外套を着た。

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東四番街からすこし南に行くと、辺りの様子はがらりと変わった。汚物や何か物が腐ったような酸っぱい臭いが漂っており、明かりは酒場らしいところの窓から漏れてくる程度しかない。道を歩くときには、ゴミや正体の判らないものを踏まないように注意が必要だった。浮浪者かただの酔っ払いか、見分けのつかない連中が建物の陰などで座り込んでいる。

行きかう連中もそこそこいるが、アルが今着ている外套よりもさらに薄汚れた服を着ている肉体労働者らしい連中が多い。酒が入っているのか、声高になにかを叫んでいるのもいる。

アルたち三人は、目的の《明るい休日》亭から三十メートルほど離れたあたりで一度立ち止まった。バーバラの指示でちかくの物陰に移動する。魔道具の反応を確認するためだ。アルは付近の警戒を続けた、レジナルドとバーバラは警備用の魔道具をとりだすと、それをちらちらと見ながら、なにか手元の木片に印を刻み、同じく手に持った羊皮紙と見比べている。

「どうですか? 反応はありました?」

「ああ、今計算してるんだが、ここにある緑の光点4つ、これは《明るい休日》亭の三階、たぶん、この部屋だろう。光点はここにしかないから、アルの言う魔法使いはこの部屋に居る可能性が高い」

アルの問いに、レジナルドは羊皮紙を見せる。描かれていたのは建物の見取り図だった。三階で南側に面した一番広い部屋だ。おそらくここを自分の部屋としているのだろう。その時、警備用の魔道具に赤と緑の光点が同時に灯った。

「透明で魔法のものが増えた。 透明(インビジブル) 呪文か 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼、それか 隠蔽(コンシール) 呪文だな」

レジナルドの言葉にアルも頷いた。警備用の魔道具を借りて、ここにどのように表示されるのかはアルも詳しく検証したのだ。厳密には、 隠蔽(コンシール) 呪文は魔法を示す緑の光点は付かず、透明を示す赤の光点だけであったが、それは特に指摘せずにおく。

「とりあえず、こっちに気付いて調べようとしてるんじゃないかね。ひとまず素知らぬふりで警備用の魔道具は一旦隠して、人通りのないところに移動しようか」

バーバラは緊張した顔だが、すこし嬉しそうだ。彼女の思惑通りというところか。 魔法発見(デテクトマジック) を使っているであろう相手に警戒されないために最低限という事で、アルが自分にかけている呪文は 魔法感知(センスマジック) だけだ。相手がいくら透明になっていても、これで見つけることが出来るはずだが、 知覚強化(センソリーブースト) はしていないので不安が残る。夜の暗闇で何かを見落とすかもしれない。

周囲に目を配りながら、三人は通りを移動しはじめた。五十メートルほど移動したところでバーバラの合図があり、脇道に入る。そこからさらに十メートル程、細い路地を通る。すこし広場になっている所に出た。バーバラはこのあたりの道にも詳しいらしい。顔を寄せ合う。

「どうだい? 付いてきてるかわかるかい?」

小さな声でバーバラが聞いてきた。アルは頭巾で顔を隠し、周囲をこっそりと見回した。 魔法感知(センスマジック) に反応した青白い光……小さな球が、アルたちが来た路地の上空に浮かんでいた。

「居ました。小さな球なので 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼だと思います」

三人は、しばらく何か相談しているふりを続けた。今にも誰かが三人のところに近づいてくるかもしれない。緊張が続く。バーバラは自らの頭巾を外し、周囲の音に注意を払っていた。だが、しばらくして、青白い光を発していた小さな球はふっと姿を消し、その後も三人のところには何もやってこなかった。

「ちっ、誘いが足らなかったかね」

バーバラは残念そうに言う。

「魔道具を持っている人間を片っ端から襲うなんてことはないんじゃないのかな」

「だから、顔を見せたんじゃないか。向こうは私がレビ商会の人間だと気づいたはず。それでも襲ってはこなかった。相手の人数が少ないって事さ。きっと、増援を待っているんだろう。やっぱり会頭には襲撃をもう一度提案すべきだね」

アルは首を傾げた。レビ会頭の口ぶりでは襲撃などは考えられないという様子だった。しかし、増援があるとするならこのまま何もしないのはかなりの危険がありそうだ。バーバラの意見のほうが正しいかもしれない。

アルは一体どうすべきだろうかと考え、大きなため息をついたのだった。