軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9-18 調査準備

「アル、何を思いついたんだい?」

レビ会頭とルエラが去り、借りた魔道具をアルが調べようとしていると、バーバラが話しかけてきた。

「え? はい。まぁ、そうですね。こんなに大きくて重いとは思いませんでしたけど」

アルの手元にある警備用の魔道具、 透明発見(デテクトインビジブル) 、 幻覚発見(デテクトイリュージョン) 、 魔法発見(デテクトマジック) の機能をもつ魔道具というのは、直径三十センチ程ある半球の円盤型であった。重さも二キロほどある。

「古代遺跡からみつかるのはもっと小さいらしいけどね。今の技術だとそれが精一杯らしい。それでも一個百金貨ぐらいするらしいよ」

「これが百金貨……」

アルはすこし驚いて魔道具をじっと見た。半球型の上面は光沢のある深い紺色の金属で覆われており、魔道回路は見えない。何らかの方法で表面からは見えないような仕組みになっているのだろう。ここ数カ月、ララに魔道具について教えてもらい、アルはかなり魔道回路を読めるようになっていた。時間があったら詳しく見てみたいものだ。

「これって、方向と距離が出るんです? どれに反応したかとかわかるんですか?」

せっかくだからバーバラに少し教えてもらおう。以前、エリックが 透明発見(デテクトインビジブル) 呪文を使って 隠蔽(コンシール) 呪文を使った賊を見破った時、おおよその位置、つまり方向と距離が判るのでそれで 魔法解除(ディスペルマジック) 呪文の対象とできるのだと言っていた。

「この装置を見ていると、この装置からの方角が光るんだ。透明なものは赤、幻覚は青、魔法は緑だよ。距離はその光の強さでおおまかにわかる。あとは屋敷には複数の装置が設置されているから、それぞれの担当が方向から屋敷の見取り図と照らし合わせる。そういった情報を合わせて対象がどこにいるというのが判るって寸法さ」

なるほど、以前 契(ちぎり) の指輪を試した時は、対となる指輪の位置は方向しかわからないのかと思ったが、あれも、同じように離れると光の強さが異なるのかもしれない。あの時はジョアンナに渡した後だったのであまり試すことはできなかったが、もうすこし調べておくべきか。この魔道具の効果範囲は五十メートル。もしかしたらあの指輪も効果範囲があるのかもしれない。そういえば、以前、エリックが高価で盗まれる可能性もあるので街の入り口などには設置されていないという話をしていたが、それは理由の全てではなかったということか。チェックする人間も必要だというのなら、さらに設置は難しいだろう。アルが考え込んでいると、バーバラがさらに聞いてきた。

「で、どうするんだい? 普通に待ち構えているだけじゃ、とても防ぎきれないと私は思ってる。でも、何か思いついたからあんなやり取りをしたんだろ? アルがそう言いだしたから私はあれ以上言うのをやめたんだ。レビ会頭もその雰囲気を感じてアルに私の調査を手伝ってくれって言いだしたんだと思うよ」

あれほど襲撃を主張していたバーバラが素直に引き下がったのはそう言う事か。信用されるようになったものだ。

「単に連中の魔法使いや魔道具の数を知りたかっただけです。持ち出して連中が根城にしている近くで使えば、相手は何かするでしょう。でも、これほど大きいとなると、どうやって持ち歩こうかと考えていたんです」

「へぇ、なるほどね。その魔道具を持ち歩く……か。挑発にもなるだろうね。向こうが何かして来たらこっち側も身を守るために戦えるね」

バーバラの反応にアルは軽く肩をすくめた。彼女は相変わらず過激な発想をする。

「本当は自分で 魔法発見(デテクトマジック) とかが使えれば良かったんですけど、さすがにそこまでは手が回りません。とは言っても、すぐには行きませんよ? 他の準備もありますし、この魔道具の使い方とかも確認しておかないといけない。早くても明日の夜ですね」

「今日じゃなくて明日の夜かい?」

「ええ、もしかしてついてこようとか考えてます?」

「当り前さ。それにアル一人じゃ、もし連中が出てきたら対応できないだろ?」

バーバラは嬉しそうだ。そんなに派手にやるつもりはないのだが……。かなり鬱憤が溜まっているのだろうか? だが、丁度良い。アルだけではどこまで出来るか不安なところだった。

「わかりました。せっかくですから手伝ってもらう事にします。襲撃を提案したぐらいですからあそこの図面は作れているんでしょう?」

「《明るい休日》亭かい? おおよそはね」

さすが仕事が早い。建てた業者か、或いは以前の従業員でも見つけたのか

「あともう一つ、ここの警備で、僕が借りた魔道具を使ってた人を明日の夜、バーバラさんと一緒に来てもらうことはできます?」

「ああ、何人か居るけど、他の連中にはまだ事情を話してないからねぇ……。レジナルドにやってもらおうか。もちろん、あいつも駆け出しのころはやってたし、ああいうのは得意だったはずだよ。あいつは色々と器用なんだ。……ああ!」

言いながら、バーバラは気が付いたようだった。

「わかったよ。警備の時と逆のことをするんだね」

さすがバーバラ、察しが良い。アルだけなら人数や魔道具の数の把握が精一杯かと思っていたが、それが出来れば理想的だ。アルはバーバラに頷く。警備の時は固定した位置にこの魔道具を置いて、方向や距離、部屋の間取りを参考に警備する対象を確認する。それが出来るのなら、この警備する魔道具を持ち歩くことによって、《明るい休日》亭に居るはずの魔法使いの部屋や設置されているかもしれない魔道具などを確認できるはずだ。もちろん、効果範囲はお互い五十メートルぐらいだろうから、向こうからも感知される可能性がある。光の魔道具あたりに偽装して近くを通るにしてもせいぜい一回か二回。うまくできればよいのだが。

「それはいいね。人間の数は出入りを監視すればわかるけど、そういうのは調査が難しいんだ。でも、それにはすこし慣れが必要かもしれないね。レジナルドと一緒にちょっと練習をしておくよ。明日の夜だね」

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翌日、待ち合わせの《赤顔の羊》亭にアルが予定の時間に帰ってくると、バーバラとレジナルドの二人はすでに来ていて、食堂で食事を摂っていた。アルもアイリスに夕食をお願いして二人が座る席に着く。

「早かったですね」

「ああ、バーバラにここの食事は美味しいって聞いてね。どうせ食べるんだから、ここでアルを待ちながら食べようって話になったんだ」

レジナルドがラスさんお得意料理であるタテガミウサギのクリーム煮をおいしそうに食べていた。以前、アルも食べたことがある。一緒に煮込んだゴールデンフリルという葉野菜の辛みが、ピリッと効いていて好きな味だなと思ったのを憶えている。

「ここの食事は美味しいでしょう? 野菜の仕入れが大変らしいです。物によってはミルトンまで行ってるんですよ」

アルもつい自慢げに答える。

「いいよね、私もたまに食べに来てるんだよ。日替わりで飽きないしね。それで、アルのほうの準備は大丈夫かい?」

バーバラの問いに、アルは自信なさげにすこしだけ頷く。

「もうちょっと練習は必要だと思いますが、なんとか……」

実は待ち合わせの時間に帰ってくるまで、アルはなんとか憶えた 痙攣(スパズム) 呪文をゴブリンを相手にずっと練習をしてきたのだ。カギ爪をつかってつかみかかろうとしてくる相手に、 痙攣(スパズム) 呪文でその動きを止め、躱す練習だ。最初の頃はうまく行かないことが多かったが、なんとか成功するようになった。すこし無茶をしたなとは自分でも思っていたが、パトリシアたちが攻撃魔法の対象になると考えれば、これに成功することが必要だった。以前に作った大口トカゲの革鎧のおかげで大きな怪我をすることはなかったが、もし、これがなかったら今頃傷だらけになっていただろう。

とはいえ、人間の魔法使いの呪文の詠唱がゴブリンの攻撃よりどれぐらい早いのかはわからない。ただ、まったく何もできないという訳ではなく、呪文を阻止できる可能性が見えてきたのは確かだ。

しかし、このテンペスト王国の間諜騒ぎのおかげで、もうすぐ使えそうだった 念話(テレパシー) 呪文も、 飛行(フライ) 呪文の習得もお預け状態である。さっさと片付けてしまいたいものだ。

「じゃぁ、食べたら行くかい?」

「ですね。がんばりましょう」

三人は美味しい夕食をしっかり堪能し、《明るい休日》亭に向かったのだった。