作品タイトル不明
9-17 対策会議
「相手の魔法を防ぐ魔法ですか?」
アルの問いにエリックは軽く首を傾げて考え込んだ。
「そうですね、一番有名なのは 魔法無効化(アンチマジックフィールド) 呪文でしょうか。有名な物語です。アル君も御存じでしょう」
魔法無効化(アンチマジックフィールド) 呪文、それはこのシルヴェスター王国の建国物語で、初代国王となる騎士シルヴェスターが悪い魔法使いアーサーを倒すときに、魔法使いマーリンがシルヴェスターに使ったという魔法で、この呪文を使うと全ての魔法が効かなくなるという、ある意味究極の魔法である。もちろんアルも名前は聞いたことがある。だが、これは、第四階層の呪文とされ、シルヴェスター王国内ではシルヴェスター王家とマーリン侯爵家のみに使用が許され、呪文の書も厳しく管理されている。この第四階層の呪文というのは、難易度が高いというのももちろんだが、他に国が特別に流出を防ぎたい、或いは、特定の家系のみに特権として与えているというものが定義されているのだ。
その認定は国が行うのだが、それを補佐する魔法使いが判断する重要性(戦略的呪文というらしい)が高いという価値基準はよく似ており、どの国に行っても第四階層に認定されている呪文はほぼ同じだ。他に認定されているものでは 転移(テレポート) 呪文、 隕石(フォーリングスター) 呪文などが知られている。これらがもし遺跡などで見つかれば、特権を与えられている貴族やそれを保護する王家に献上すると定められていた。もちろん、献上すれば対価としてそれ相応のものが与えられるはずだ。
「それ以外でいうと、防護系の呪文、例えば 盾(シールド) 呪文や司祭が主につかう 防護(プロテクション) 呪文でしょうか。これらは、主にダメージを防ぐことに主眼がおかれることになります。 麻痺(パラライズ) といった弱体系の呪文を防ぐためには 魔法抵抗(レジストマジック) 呪文、あとは司祭の 加護(デバインプロテクション) 呪文、他にもそれぞれの呪文の抵抗力を高める 麻痺抵抗(レジストパラライズ) 、 鈍化抵抗(レジストスロウ) のようなものもあります」
それについては、アルも理解しているし、 盾(シールド) 呪文はすでに習得済だ。他にやり方は無いのだろうか?
「後思いつくものとしては 痙攣(スパズム) 呪文ぐらいでしょうか。これは相手の動きを一瞬止める効果を持つ呪文です。この呪文を使えば、相手の身体はピリッと痺れて、呪文だけでなく闘技なども阻止できるようです。とはいっても、使うタイミングはかなりシビアで、さらにこの呪文にダメージ効果はほとんどない。それらの事から、実用的ではないと言われています。かく言う私も習得していませんので真偽は定かではないのですが……」
確かにそれは使うのは難しいだろう。だが、今回のようなシチュエーションであれば使えるかもしれない。襲撃してくる相手や時間などはおよそわかっているのだ。
「それって、第三階層ですか? 第二階層?」
そう問われてエリックは首を傾げた。とりあえず呪文の概要は憶えているものの詳細は憶えていないということか。それだけ一般的ではない呪文ということなのかもしれない。
「きっと第二階層でしょう。 魔法の矢(マジックミサイル) と似ていると思います」
それなら襲撃を受けるまでに習得できるかもしれない。以前のときにエリックは呪文の書はいくらでも貸してくれるような事を言っていた。持っているのなら借りれるだろうか?そう申し出ると、エリックはもちろんと微笑み、こころよく書庫からとりよせて渡してくれた。
「ありがとうございます」
アルは呪文の書を受け取って、おもわず握りこぶしをつくった。これで一つ対抗できる糸口ができたかもしれない。
「じゃぁ、帰ります」
大事そうに呪文の書を抱えてアルは立ちあがる。エリックやレダはその様子をみて微笑ましく頷いたのだった。
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翌日の昼、アルはレビ商会の裏の詰め所に顔を出した。既にレビ会頭、ルエラ、バーバラ、レジナルドの四人は集まっていて深刻そうな顔をして何かを話し合っていた。
「こんにちは」
アルが顔を出すと、さっそく席に着くように促される。
「残念ながら、テンペスト王国の密偵が言っていた子爵についてはなにも判らなかった。何度も聞いて悪いが、本当に子爵といっていたのか?」
レビ会頭の問いにアルは頷いた。あの 壱(アン) の兄貴と呼ばれた年嵩の男はたしかにバカ子爵と言っていた。アルの答えを聞いて、レビ会頭は深く首を傾げる。
「考え得るとすれば、その密偵の男がバカ子爵と呼んでいるのは内通工作をしているテンペスト王国の人間で、その人間がこのレスターに同じように潜入してきている可能性ぐらいか。ユージン子爵閣下はすこし表裏がある人物だということは見えてきたが、内通していると判断するほどの根拠は全くない。これは領都の方まで情報を集めなければとても判断できそうもない。とりあえず時間がなさすぎる」
ルエラもレビ会頭の言葉に頷いた。
「レスター子爵閣下は大丈夫だと断定できるのであれば、今回の件を相談はできないでしょうか?」
アルの問いにレビ会頭は、うーむと唸った。
「襲撃をうけるかもしれないという事に関してはもちろん衛兵隊に捜査の指示はしてくれるだろう。だが……」
レビ会頭の口ぶりからすると、かなり煮え切らない感じだ。
「アル君、ややこしい話だが、今、この辺境都市レスターの代官であるスカリー男爵閣下は子爵の第二夫人、嫡男サンジェイの生母であるアグネス様の実の兄であり、第一夫人であるタラ子爵夫人やナレシュ様にはあまり良い感情を抱いていらっしゃらないようだ。そして、レスター子爵領の衛兵隊を束ねる隊長のパンクラフト男爵閣下はスカリー男爵閣下と非常に仲が良い」
以前に聞いたナレシュがらみの敵味方の話のようだ。衛兵隊の隊長がナレシュをもし邪魔だと考えているなら、さすがに表向きは大丈夫だろうが、どこまで守ってもらえるか安心できなくなる。相談する意味は薄いかもしれない。だが、サンジェイの婚約者であり、辺境伯の娘であるセレナがパトリシアと一緒に襲撃される状況になっているのであれば、敵とは限らないのか。どんどんよくわからない話になっている。
「エリック様は信頼しても大丈夫ですか?」
アルがそう問うと、レビ会頭はゆっくりとだが頷いた。
「彼は私とはあまり親しいわけではないが、特に誰の陣営に属しているというのは聞いたことがない。どちらかというと辺境の開発を担当されているホーソン男爵閣下と親しいはずだ。ホーソン男爵閣下は我々も親しくさせていただいているし、ルエラが攫われた時もエリック様はきちんと対処してくださった。アル君が信頼してもよいと判断するのであれば大丈夫だろう」
ならば、もう少し話しても良かったか。個人で判断できれば楽なのだが、お家騒動や国が絡む話が出て来るとどういう利害関係が絡むのか難しくて本当に面倒だ。だから関わりたくなかった。
「エリック様から聞いた話によると、ストラウド様が来られるのは三日、いえ二日後だそうです。その日の晩に歓迎会が開かれてそこでパトリシア様と初めて会われる予定だとか」
「うむ、私もそう聞いた。領都に帰られるときにパトリシア様も伴いたいという御意向だという」
そこまで話をしてバーバラがもう駄目だと手を左右に振った。
「レビ様。そっちの話はもうずっと話しているけど、情報がやっぱり少なくて結論は出ないと思う。とりあえず子爵様とかの話は棚上げして、襲撃の実行部隊になると思われる連中をなんとかするのはどうだろう。幸い、アルが根城らしき場所を突き止めてきた。連中を捕まえて話を聞くってことじゃだめかな」
しびれをきらしたのか、バーバラがかなり乱暴な話を持ち出してきた。都市内で戦闘をするというのか。
「あいつらの根城は西四番街のスラムだ。あのあたりは抗争事件も時々起こってるようなところだし、《明るい休日》亭もそういったのを繰り返してるグループが根城にしてた店だ。レジナルドが調べてきたところによると、そのグループは元々20人ぐらいの構成員を抱える程度の小さな組織だったらしい。最近ボスが交代して店はずっと閉店してるらしいね。それぐらいの規模ならアルに手伝ってもらえば大丈夫だと思う」
その提案にレビ会頭は首を振った。
「我々が裁くというのは驕りだ。簡単に選択するべきではない。最終的に身を護るためであれば仕方ないが、それは最後の手段だ」
バーバラはぐっと唇を噛みしめ、わかりましたと頷いた。彼女に代わってルエラが口を開く。
「お父様、話はおよそ出尽くしたと思います。結論は出せない。とりあえず調査は継続しましょう。あと、いままでの状況をナレシュ様とエドモンド兄様に伝える事だけはすべきです。エドモンド兄様には領都でユージン子爵閣下について調べていただくこともできるはず」
「そうだな。二人には使者を送ろう。ただ、パトリシア様に連絡するのは少し保留だ。周囲にどれほどの監視の目があるかわからぬし、アグネス夫人が彼女に送った髪飾りの魔道具も気になる。会話はすべて盗聴されているやもしれぬからな。アル君はバーバラと協力してその《明るい休日》亭を根城にしている連中の調査を行ってくれるか。できれば明確な犯罪の証拠を手に入れてもらえるのが一番望ましい」
バーバラの提案に比べれば穏便に聞こえるが、かなり危険がつきまとう方法だ。明確な犯罪の証拠が簡単につかめるのなら彼女も襲撃を提案はしなかっただろう。襲撃よりも難易度は高い。だが、方法はあるかもしれない。
「一つお願いがあります。相手は探知系の魔法を使って警戒をしています。その裏をかく方法がないか検討してみたいです。 透明発見(デテクトインビジブル) 、 幻覚発見(デテクトイリュージョン) 、 魔法発見(デテクトマジック) の機能をもつ魔道具がこちらにはあるはず。お貸しいただけませんか?」