軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9-15 《明るい休日》亭

アル(コマドリ)は、すぐ近くの街路樹の枝に止まり、たまに近くを通り過ぎる猫や烏に注意を払いながらも監視を続けた。 動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) 呪文を練習し始めた頃、鳥の活動時間は昼間が多いので、日が暮れるとあまり目が見えなくなるのではないかと心配したこともあったが、暗くなっても視力が落ちるようなことは不思議と無かった。それに、今日は事前に 知覚強化(センソリーブースト) 呪文を自分に使い知覚能力を上げているので夜になったとしても、特に問題は発生しないだろう。

日がほとんど沈んだ頃になって、 壱(アン) と呼ばれていた男がやってきた。以前も一緒に馬車に乗っていた革鎧を着た女、そして三人の少年が一緒である。三人の少年は正門の近くでアルが見つけた表情のあまりない連中であった。

「ようやく交代か。こっちは全く何もなかったぜ。ヴェール様も心配しすぎなんじゃねぇのか?」

「そうだよねぇ。私も神経質すぎると思うわ。 魔法発見(デテクトマジック) 呪文なんて、ただの光の魔道具にも反応しちゃうんだから」

若い男の言葉に、女も頷いた。二人ともヴェールには不満があるらしい。

「気持ちはわかるが、偶然にもみつかった小鳥、残された唯一の血縁者であるあの女を逃がすわけには絶対にゆかぬというのは、ヴェール様だけでなく、本部からもしつこい程念押しされている。失敗するわけには行かぬのだ」

壱(アン) と呼ばれた男は二人にそう説明した。残された唯一の血縁者、つまりテンペスト王家の血縁ということだろうか。テンペスト王国にはテンペストの血を引くことにそれほど重要性はあるのだろうか。

「そうは言ってもなぁ。ヴェール様のチェックの邪魔になるとか言われて、こっちが持ってる魔道具まで詮索されたり、使うのを規制されたりとか、正直うんざりしてるんだ。そもそもあの 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼というのも本当だったのかよ」

「そうよねぇ、つまらないことばっかり言って、これじゃぁ成功するものでも失敗……」

「もう、やめろ」

不満が止まらない二人を 壱(アン) と呼ばれた男が強く止めた。

「 肆(キャトル) 、言っても仕方がねぇことだ。俺たちはヴェール様には従わないといけない。 参(トロワ) もいいな? そうじゃなきゃ……」

壱(アン) は顎をしゃくって、三人の少年を示して見せた。彼らの様子を見て若い男、そして女もしぶしぶといった様子で掌を広げて見せる。あの表情もない少年たちには命令に従わなかった罰としてあの状態になっているのか? 何か薬でも飲まされているのだろうか。

「とりあえず夜の間の監視は 参(トロワ) 、しっかり頼むぞ。 肆(キャトル) は帰るぞ」

参(トロワ) とよばれた女、 肆(キャトル) とよばれた若い男はしぶしぶといった様子で共に頷く。 参(トロワ) を残し、 壱(アン) と 肆(キャトル) 、そして三人の少年はそれ以上何も喋らずに領主館から離れていった。アル(コマドリ)は当然その後を尾行することにした。ただし、念のため距離は五十メートル以上離れてだ。日は沈んで辺りは暗いが、そこは 知覚強化(センソリーブースト) された鳥の視力で見失う事はない。さらに、コマドリが後ろをついてきているというのは三人も予想だにしていない様子で、特に 肆(キャトル) は時折後ろを振り返るが、その視線は通行人などの人間にしか注がれていなかった。

その後、 壱(アン) たちは、尾行対策であるのか、かなりうろうろと歩き回った。そして三十分ほどしてようやく到着したのは東四番街、それも東大通りからすこし南に行ったところにある《明るい休日》亭という宿屋兼酒場であった。アルが泊っている《赤顔の羊》亭の二倍ほどの大きさである。店の入り口には休業中という札がかかっていた。東大通りから南というと、アルがこの辺境都市レスターに来たばかりの時に襲われたことも有るあまり治安のよくない地域である。

この《明るい休日》亭にはヴェールが居るのかもしれない。アルが近づけば魔法に反応してしまうだろう。 徒(いたずら) に刺激をするのは考えものだ。ここに立ち寄ったのもフェイクかもしれないと、アルは五十メートル以上離れた距離を保ったまましばらく様子を見た。だが、二人が店に入った後はまるで動きはなかった。ということは、ここが連中の根城だろうか。アルは一度《赤顔の羊亭》の自室を経由して、レビ商会にわかったことを報告することにしたのだった。

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「アル、お疲れさん。よかった。無事帰って来たな」

レビ商会の裏の詰め所に顔を出すと、レジナルドが居て、アルの顔を見ると何か安堵したようすで嬉しそうに出迎えてくれた。

「みなさん、いらっしゃいます?」

アルの問いに、レジナルドは申し訳なさそうに首を振った。

「レビ会頭とルエラお嬢様は知己を通じて情報収集すると仰って出かけられた。バーバラも衛兵隊の詰め所とかの知り合いを回ってみるって出かけて行ったよ。俺はここで留守番だ。お前さんが帰ってくるのを待ってた」

話が話だけに、情報の扱いも難しいのだろう。心配もしてくれていたようだ。

「ありがとうございます。僕が調べてきたところでは……」

そう言ってアルは 壱(アン) と 参(トロワ) 、 肆(キャトル) が話していた内容、《明るい休日》亭の話、そして少年たちの挙動が気になるという話をレジナルドに説明した。

「《明るい休日》亭って店は何かで聞いたことがある気がするな。スラムに勢力をもつグループというのが複数あるんだが、たしか、そのうちの一つが根城にしていた店だったような気がする。わかった。それについてはこちらで調べてみよう」

なるほど、そういう連中と結びつく可能性もあるのか。アルは軽く頷いた。

「レビ会頭は、とりあえず今日一日はそれぞれ気になるところを調査してから判断しようとおっしゃっている。申し訳ないが、アルも明日の昼、もう一度ここに来てくれないか?」

テンペスト王国や子爵が絡む話となるとそちらはアルにはとても手が出せない。そちらはレビ会頭やルエラに任せるしかないだろう。バーバラも色々な所に顔が利きそうだ。明日の昼までか……。アルが増やせる手札とすれば魔法しかない。あの連中は吹き飛ばすと言っていた。そんなことが出来るとすれば魔法を使うのだろう。なにか対抗策などないものだろうか。かなり遅い時間になってしまったが、のんびりしている時間はない。アルはエリックの家を訪れることにした。