軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9-12 初恋?

どれぐらいの時間が経っていたのだろうか。アルの部屋の扉をノックする音がした。

「アル、起きてるか?」

オーソンの声だった。アルはふと我に返って周囲を見回す。窓からほんのりと月明りが入っていたが、部屋の中は暗いままだった。

『 光(ライト) 』

アルは部屋に明かりを灯してから、扉の閂を開け、オーソンを部屋に迎え入れる。オーソンは酒瓶とカップを二つ、そしてなにかつまみでも入っているのであろう布袋を下げて入って来た。

「たまには部屋で男同士、話をするのも良いなと思ってな」

アルは普段、あまり好んで酒を飲んだりはしないのだが、今日は飲んでみようかという気になった。

「いいね」

布の袋に入っていたのは炒ったひよこ豆だった。酒瓶にはワインが入っていた。

「乾杯」「乾杯」

オーソンとアルは杯を上げてワインを飲み始めた。豆は少し塩が効いていて美味しい。二人で組み始めておよそ半年、アルはいろいろな事をオーソンから教わったし、オーソンがテンペストの墓に迷い込んで帰れなくなった時にはアルが彼を救い出した。かなりの金も稼いだし、良い仕事が出来た。

「で、何があったんだ?」

少し酒も回った頃、オーソンがアルに尋ねた。最初はアルも躊躇していたが、ぽつりぽつりとパトリシアとの事を話したのだった。

「ふぅーん。そして、今更、好きだったって事に気付いたってわけか」

「ち、ちがうよ。ち、ちがう……と思ってた」

アルは赤い顔をして答えた。オーソンはにやにやしている。

「どうすれば、良かったのかな?」

アルはポツリと呟いた。

「お前さんの話を聞く限りは、どうしようもねぇと思うぜ。お前さんの腕なら知らない町に行っても稼げるだろう。攫って逃げるってこともできなくはねぇと思うが、まずは、パトリシア様がどう考えるかだ。俺はちょっとしか話をしたことはねぇが、彼女は国を逃げ出してきたことをかなり後ろめたく思ってた。どんなにアルが好きだとしても逃げ出すことは承知しねぇだろう」

「そうだよね……」

オーソンの言葉にアルは頷いた。オーソンの顔もかなり赤い。酔っぱらっているように見える。

「まぁ、初恋なんて実らねぇものだって相場は決まってる。俺の初恋は初級学校の時の女の先生だった。尻がこう、ぷりっと大きくてよ……」

オーソンは手でおおきく輪をつくってにやにやと笑みを浮かべたが、アルが冷たい目で見ているのに気が付いて、続きの話をするのは止めてしまった。

「ゴホン、別に忘れる必要なんてねぇんだよ。心の中に仕舞っておきゃぁいい。誰だってこういう事の一つや二つあるだろうぜ」

「ありがと、オーソン」

アルはそう呟いて、手に持ったワインのカップをぐいっと飲んだ。

“別にあきらめなくていいよ。すぐには無理ってだけ。きっとテンペストの研究塔に何かすごいのがある”

ルエラのところで話を聞いてから、グリィは何度も声をかけてくれていた。あきらめなくていいと彼女はずっと言い続けてくれていた。しかし、あきらめずにどうしろというのだ。アルがトントンと膝を叩く。

“ようやく聞く気になった? 慰めじゃないって。だから、ねっ。パトリシアが選ばないといけなくなる前に行こう。猶予はパトリシアの婚約者の生死が判明するまでだよ。すこしでも可能性がある事に賭けるべきだと私は思う”

アルは苦笑いを浮かべた。塔で何かをみつけたとしても、それはエリックが発表した魔法のオプション以上の事はあるまい。評価されるのに時間が掛かるのは同じだろう。とは言え、じっとしていても何も変わらないのは事実だ。そう考えると、アルは手に入れたばかりの 飛行(フライ) の呪文の書が少し気になってきた。

「まぁ、今日は飲んで寝ちまえ。明日は狩りに行こうぜ」

「えっ? その前にちょっと呪文の書を……」

アルの様子を見て、オーソンはにやりと笑った。

「少し調子が戻ってきたみたいだな。まぁ、今日遠征から帰ってきたばっかりか。じゃぁ、明日は休みにしよう。明後日な、明後日。南門から出てホールデン川下流のほうに行ってみようと思う」

グリィはアルの耳元で早く 飛行(フライ) 呪文を習得して塔に行こうよと言い続けていたが、アルは軽く首を振った。オーソンが話を聞いてくれてアルはすこし冷静になれた気がした。明日、ジョアンナに会おう。そうすればパトリシアの意思も確認できるだろう。可能性は薄いだろうが、もし彼女がアルと共に逃げたいというのなら、それからやり方を考えてもいい。

「わかったよ。じゃぁ、一応明後日」

「残ったワインはアルにやるよ。袋の中にはパンも入ってる。晩飯食ってなかったろ。少しは足しにしな」

オーソンは自分のカップに残ったワインを飲み干し、部屋を出て行った。