軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

006_貴族と魔力

この世界――――オルディーヌ王国は、魔力がすべてといっても過言ではない。

魔力がある者は、風、水、火、地、そして、特殊な光属性を生まれながらにして持ち、属性に関係する自然現象を操ることができる。

その属性ごとの魔法の知識と使い方を教えるのが、リサたちが通う王立魔法学園。

知らない、知らせていない場合を除き、魔力を持つ者はすべて王立魔法学園に入学させられ、将来は国の要職につくことを約束される。

なぜなら、魔力を持つ子が生まれる確率は一万人に一人程度で、貴重な存在だからだ。

ただ例外として、魔力を持つ家系では、魔力を持って生まれてくる確率が大幅に上がる。

よって、自然と貴族は魔法使いの家系と同義になっていくが、当然、魔力を持つ者が何代も生まれないこともあった。

しかし、ある時、一変する出来事が起こる。

国が突如、貴族の条件に「魔力を持つこと」を加えたのだ。

貴族は、三世代にわたって当主に魔力を持つ者が就かなかった場合、爵位を没収される。

この爵位魔法令により、貴族は否が応でも魔力を一族に取り入る必要があった。

爵位が取り上げられることを防ぐため、庶民から魔力が持つ子が現れると、貴族による養子縁組の争奪戦となる。

デイジーのように貴族ではないが、裕福な家の場合、男爵・女男爵を国王から賜り、学園卒業後に家名と領地を賜った。

すべては、国を滅ぼすと伝えられている闇の魔力を倒すためと言われていた。

――――ヒースクリフに魔力はないから、攻略対象として一緒に学園へ通うことはできない。

彼は公爵家の跡取りとして認められず、魔力を持つ者から蔑まれることも少なくない。

「学園は、貴族だらけで、選び放題なのよ。そもそも魔力がない人を選ぶ理由がないわ」

だから、デイジーの言っていることは、貴族としては至極真っ当なこと。

選び放題って言葉は、さすがに他の二人も呆れているけれど。

「今年度は王子様だっているし! そうそう、ステファン王子はアンナマリーの婚約者だから手出しは禁止よ!」

口にした途端に、デイジーがハッとした顔をする。

「あっ、今日あなたを呼んだ理由はこれだった。あたしが言っちゃったわ」

アンナマリーは呆れ顔のまま、苦笑いする。

「もうそのことはいいですわ……リサったら、ステファンにまったく興味なさそうですもの」

「悪役令嬢になるのは諦めたけれど、ヒースクリフ様との日常はまだ諦めてませんから」

当然とばかりにリサはうんうんと頷くと、またしてもぽろりと本音を口にしてしまう。

「誰が悪役令嬢ですって!?」

その言葉にアンナマリーが烈火の如く怒り始めるも、今のリサはそれどころではなかった。

――――閃いたかも!

ヒースクリフとお近づきになり、できる限り日常をともにする方法。

ガバッと席から立ち上がって、アンナマリーのほうを向く。

「な、なんですの?」

「アンナマリー!」

リサの意味不明の行動にうろたえるアンナマリーの手を、がっしりと掴む。

「お願い、私を貴女の取り巻きにしてください!」

膝をついて、許しを請う。

さらに手を離すと、地面に頭を擦りつけるかの勢いで下げた。

「取り巻き? お友達という意味ならもうなっているのでは?」

アンナマリーが首を傾げ、綺麗なロール髪が揺れる。

「というか、立ちなさい。レディが膝をつくなんてはしたな、い……えっ?」

アンナマリーがリサの斜め後ろを見て固まっている。

何事かと振り向く前に、すっと執事らしき男性が姿を見せた。

「お嬢様、ステファン王子がお見えになったのでお連れしたのですが……」

ヴァルモット家の執事が言葉を濁す

――――ステファン王子!?

今度こそ首だけ回して後ろを見ると、そこにはアンナマリーの婚約者で第二王子のステファンと、その友人で伯爵家次男のセオ・ラサウェイの姿があった。

ステファン王子は金色の髪に、青い瞳のザ・王子様な眩しい容姿で、

セオは、青みがかった銀色の波打つ髪をさらりと横に流した、ご学友的な貴公子だ。

「心配で来てみたら……アンナマリー、これは……」

リサとアンナマリーの位置関係を見て、ステファンが立ち尽くしている。

「おや、いじめかな?」

なぜかセオのほうは楽しそうに微笑んでいた。

「ち、違いますの……」

慌てて顔を横に振って否定するものの、状況が物語っている。

――――あっ! これってイベントの!?

今までの会話を聞いていない人からしたら、リサが虐められて、アンナマリーに許しを請う場面に見えてしまう。

入学式で目立ったリサがアンナマリーに意地悪される様子を、婚約者のステファンに見られるという、元のイベントとほとんど差がなかった。

やっぱり強くないとはいえ“マジラバ”の強制力はあるみたいだ。

運命とでも呼ぶべきだろうか。

――――けれど、我に秘策あり!

「リサ!?」

いきなりすくっと立ち上がったリサに、アンナマリーが驚く。

「ここは、私に任せて、アンナマリー」

「任せてって……?」

学園に来る前から覚えている魔法で、最も得意なもの。

今こそ、それを使う時。

「眩忘の光<ニフライト>!」

ステファンとセオに向かって手を掲げて、魔法を詠唱する。

眩忘の光<ニフライト>とは、光属性特有の魔法の一つで、複数対象を忘却の彼方に消し去る。

弱い魔物なら文字どおり消えてなくなり、強い魔物や人ならば、現れた理由を忘れて、その場を離れていく。

経験値が入らないので、魔物との戦闘では出番が少ないけれど、誰かに忘れて欲しい時にも使えてしまう便利な魔法だ。

「「…………?」」

リサの光を浴びた途端、ステファンとセオの表情が呆然としたものになる。

やがて、ハッと気がついた。

「っ、僕はいつの間に……ここは?」

「あれ? どうしてここに来たんだっけ」

二人の様子に、アンナマリーたちが唖然とする。

「これが光魔法、初めて見ましたわ……」

「……なかなか便利ね」

「リサさん、本当に光魔法をお使いになれるのですね。すごいです」

三人の尊敬のまなざしにえへへと照れながら、リサはつつっとステファンとセオに近づいた。

「えっと……コルテリーア伯爵家のリサさんだよね。貴女はどうしてここに?」

「私がヴァルモット公爵家の場所を知らなかったので、案内してくださったのです。アンナマリー、ありがとうございました」

「そ、そう。邪魔をしたね、お茶会楽しんで」

さようならと手を振ると、首を傾げながらもステファンとセオが帰って行く。

魔法の効果は抜群だ。

「誤解されるところでした。ごめんなさい、危なかったです」

彼らの姿が見えなくなったところで、今度は立ったまま、リサはアンナマリーに頭を下げた。

「いえ、感謝するのはわたくしのほうですわ。危うくステファンに嫌われるところでしたから。ありがとう、リサ」

「原因を作ったのは私ですから、当然のことをしたまでです。それで、取り巻きのことなのですけど……やっぱりだめ、ですか?」

強引に先ほどの話に戻す。

「す、好きなだけ遊びに来ていいですわ! 貴女は面白い方のようですし」

「ありがとう、アンナマリー!」

困惑はしていたものの、アンナマリーは照れながら答えてくれた。

手を取って感謝を示す。

「ただ! お友達になってあげるのですから、ステファンにはほいほい魔法を使わないでもらいたいわ」

アンナマリーなりに、婚約者のステファンのことを大事にしているのだろう。

思わず、にんまりとしてしまう。

「な、なんですの?」

「ふふっ、なんでもありません……でも、攻撃魔法じゃないなら、学園ルール的にセーフですよ」

アンナマリーを見ているとついつい、からかいたくなってしまう。

思いつきで考えた悪役令嬢の取り巻きという案だったけれど、悪くないどころか、これから楽しくなりそうだ。

「もう……大変な子とお友達になってしまいましたわ」

「だったら、今から撤回すれば?」

「デイジーさん、アンナマリーさんは友達になりたいと言われて、照れているだけですから」

ふふふとローズが笑う。

「そ、そんなことありませんわ!」

それからもお茶会は盛り上がり、リサは三人の輪になんとか入ることができた。

※※※

ヴァルモット公爵邸の一室、閉め切った薄暗い部屋の中で、ヒースクリフは窓部に立っていた。

カーテンを指で少し開けると、光がもれて揺れながら床を照らす。

隙間からは、楽しそうに話している妹たちの姿があった。

「……っ」

リサに触れた手袋を取ろうとすると、微かに痛みが走る。

「へぇ……本当に火傷した」

確認すると指先には、はっきりと火傷の跡が見て取れた。

その顔には、いつもの軽薄な色はない。

「光属性、本当にいたんだ」

感慨深くつぶやくと、火傷した指を見ながら詠唱を開始する。

「闇戻り<ダーク・リワインディング>」

青く、黒い炎が指先を燃やすと、先ほどの火傷の跡は綺麗に消えてなくなった。

両親も、妹も、誰もヒースクリフが魔法を使えることは知らない。

言えない訳があった。

「あーあ、熱かったな」

真面目な顔でぼやくと、視線を指から妹の隣に座って笑っているリサに合わせた。

「光の、あの子なら……もしかすると……」

ヒースクリフは呟きながらカーテンを閉めると、目をつむる。

次にすべきことを思案し始めた。