軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

049_不運と幸運と悪魔

「“饗宴の闇”」

一方その頃、リサを追ってきたアンナマリー達もちょうどカジノに入ったところだった。

「まあ……」

中の様子に驚き、思わず口に手を当てて隠す。

考えていたよりも規模が大きく、多くの者がギャンブルに興じている。

「けしからん場所だ」

グンラムの意見に賛成だった。

たしかに煌びやかといえば煌びやかだけれど、品がない。

ただ輝いて存在感だけを示すシャンデリア、下品なほどの真っ赤な絨毯、そして仮面の下に隠しきれない人々の欲望。

フロアに足を踏み入れるのも躊躇してしまう。

けれど、自分からリサ達を追うと言い出したので、逃げ帰るわけにはいかない。

アンナマリーのプライドがそんなことを許さなかった。

「リサ達を捜しま――――」

せめてステファンの力を借りて進もうと、隣にいるはずの彼を見る。

しかし、そこには彼の姿はなかった。

「あっちで、チップが交換できるみたいだ」

すでに彼はフロア内に立っていて、入り口横のカウンターを指している。

アンナマリーは腕を組んで、じとっとステファンを睨んだ。

「まさかステファン? 賭け事をしたことがあるの?」

「いや、お金をかけないゲームしかしたことないけど、会場に溶け込まないと怪しまれるよ。それとも……ダンスのほうにする?」

ステファンがちらりと中央のダンスフロアに顔を向ける。

つられたアンナマリーは慌てて視線を逸らした。

フロア中央には、抱き合うかのように身体を寄せて踊る男女が何組もいる。

しかも、そんな親密な様子なのにパートナーを入れ替えるところまで目撃してしまう。

「む、無理ですわ」

アンナマリーは真っ赤になって、ブンブンと首を横に振った。

ステファンとあんな近距離になるのも、あの場に溶け込むのも、自分にはできないことだ。

「じゃあ、ゲームにするしかないね」

仕方なく頷くと、ステファンが楽しそうにチップの交換に行く。

その後、彼がルールを知っているというゲームのテーブルに三人でついたのだけれど――――。

……。

…………。

「おかしいな……父上とやった時は、負けなしなのに」

たくさんあったはずのチップが、ステファンの前に今は一つも残っていなかった。

もともと、優しい王はステファンに手加減していたのだろう。

「…………」

大金を失ったのに、気にした様子もないステファンをみつめた。

彼は「どうしたの?」と首を傾げている。

ステファンに、賭け事……今後、要注意ですわ!

アンナマリーは一人頷くと、彼を賭け事に近づけないと心に決めた。

「そもそも、この手のものは店が勝つようにできているのかしら」

不意にギャンブルのからくりに気づく。

客が勝ちすぎては、店は儲からず、商売として成り立たない。

この繁盛と金を掛けた造りからしても、店側が儲けているのは明白だ。

ステファンが弱すぎるから、というわけでもないのかもしれない。

「いや、向こうは大勝ちしているぞ」

それまでじっと辺りを窺っていたらしいグンラムが、顎で示す。

その先はルーレットのテーブルで、男女のカップルの前にチップが山と積まれている。

「すごいな、豪運の持ち主なのかもね」

「そうかしら?」

ステファンの言葉に、同意しない。

アンナマリーは、すぐ店側の用意した勝てると思わせる策略かもしれないと考えたからだ。

店ばかり儲けて、客が勝てないとなれば、これだけ人が集まると思えない。

儲けなければ商売として成り立たないだろう。

ならば、何らかの方法で客を呼ぶ必要があるはずだ。

その最も簡単なのは、小さい勝ちをばらまくのではなく、大勝ちするところを見せつけることだ。そうすれば、客は自分も勝てるかもしれないと錯覚する。

これを考えた人は頭がいいかもしれないけれど……やはり品がないわ。

元々ギャンブルを好ましく思っていなかったけれど、もっと嫌いになりそう。

「ステファン、ゲームは諦めて、さっさとリサ達を捜しましょう」

まだ未練のあるステファンの腕を取って立たせようとした。

「あそこにいるんじゃないか?」

「えっ!?」

グンラムの言葉に慌てて、彼の指すほうを見る。

そこは先ほどの大勝ちしているテーブルだった。

※※※

ボールがルーレット台の上をカツカツと音を立てて転がる。

吸い込まれるように、赤く塗られ、Ⅲと書かれたポケットに落ちた。

「レッド、3<スリー>!」

仮面をつけたディーラーが汗をふきながら告げる。

「やったー! また、当たった」

興奮して思わずヒースクリフとハイタッチする。

同じ台についたプレイヤーからチップをすべて回収し、リサには賭けたチップの倍が戻ってきた。

「すごいな、お嬢さん十回連続だ」

隣に座るライオンの仮面の男性が感心する声をあげる。

彼の言う通り、連続で、しかも先ほどから一人勝ちだった。

席についた時にヒースクリフに難しいルールは分からないというと、赤か黒のどちらかに賭ければいいと言われたので、リサとしてはその通りにしたのだけだ。

すると、チップは倍から倍に増えていって、とんでもない枚数になってしまった。

「では皆さんベットをどうぞ」

次のゲームが始まり、ディーラーが声を掛ける。

「うーんと、次も赤!」

ルーレットにボールが投入されたところで、リサが次の色を決める。

すると、今まで好きに掛けていた同じ台の客が「乗っかるぜ」「私も」と次々同じ場所にチップを置いていく。

ボールは勢いよく転がり、そしてやはり赤いポケットに落ちた。

「……レ、レッド、21<トゥエンティワン>……」

ディーラーが震えながら宣言する。

「きゃーっ!」

「すごいぞ、リサ!」

参加せずに遠回しに見ていた客達からも「おおおっ!」と歓声が上がった。

ふふっ、ヒロインズスキル“超幸運の星<ラッキースタージャックポット>”きてる!

「この流れで、一数字賭け<ストレートアップ>で勝とう。支配人が駆けつけずにはいられない」

今までリサの賭けるをただ見ていたヒースクリフが、急にリサの耳元で囁いた。

小さく頷く。

「お嬢さん次も頼むぜ」

「よーし、まかせて! 次は数字でいくよー」

倍率三十六倍の賭けに、周囲がどよめく。

「…………」

必中、目瞑り賭け! なんちゃって。

リサは目を瞑ると、掴めるだけのチップを無造作に置いた。

賭けたのは、数字の赤Ⅶだ。

周りは追従するのも忘れて、リサの勝負の行方を見守っている。

「ノ、ノーモアベット」

結局、他に誰も賭けないまま、ルーレットにボールが投入されていく。

ディーラーは仮面の上からでもわかるほど、焦っているのがわかる。

「おっ!」

ボールが一瞬、ポケットに落ちそうになるも、寸前で弾かれる。

その後も、何度も他の数字の書かれたポケットに落ちそうになっては、飛び跳ねて転がり続ける動きを繰り返す。

その度に周囲からは興奮の声がもれた。

「あっ……あっ!」

それはディーラーも同様だった。

ボールの行方に皆が一喜一憂する中、ついにポケットへと吸い込まれた。

「あぁぁ……」

当りを宣言するのも忘れて、ディーラーがうなだれる。

「当りー!」

ルーレットをのぞき込んだリサは思わず声を上げた。

周囲から羨望の声が一斉にもれる。

「誰だ? 何をした?」

しかし、そんな中から誰かがぬっと声をかけてきた。

いつの間にかディーラーの隣に立っている。

リサはまったく気づかなかった。

「当然ゲームだ。ここはカジノだろ?」

素早くヒースクリフが答えると、リサに「支配人だ」と囁く。

男は表情が乏しいけれど、それ以外、特に変わった様子はない。

「あぁ、お前達か」

しかし、次の瞬間、支配人の身体が伸びたように見えた。

「現れたな」

ヒースクリフが答えると、肩の辺りから角を生やした悪魔の顔がぬっと出てくる。

上半身だけ抜け出た状態で、それはニヤリとこちらを見ていた。