軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

表彰式

王女の出現に、クラウスは驚いた顔をしている。

王子たちが隠れて観戦していたことなど知るはずもない。

クラウスは何かを飲み込んだようで、顔を整え、スマートに片膝をつき頭を垂れる。

「よき戦い、見事でした」

少し甲高い少女の声でそう言った。

なにやらくすんだオレンジ色の帯のような物を箱から取り出した。

クラウスが差し出した両手が震えているのに、王女は気づいた。侍女が「限界を超えて戦ったのでしょう」と囁く。

王女はうなずくと二歩前に進み、クラウスの肩にそれをかけた。

クラウスは記念品について問うこともせずに立ち上がり、王女と共に観客席に手を振る。

その後ろで主催者と司会がひそひそ話をする。

「授けるのはカタリーナのはずだったろう?」

「王女殿下が望まれたら断れんて」

「……まあ、そうだな」

司会はパッと顔を切り替えて、次に進めた。

「勝者は王女殿下をエスコートしてから、一旦お席にお戻りください。皆様、今一度大きな拍手を」

会場が再び沸き、やがて静まるのを待つ。

「では、カタリーナ嬢。壇上へ」

司会に呼ばれて、カタリーナが登壇した。

「わたくしは何をしたらよろしくて?」

こうして取り澄ましていると、ちゃんとした令嬢に見える。

「さあ、本日の戦いでお眼鏡にかなった男性を発表してください!」

「あら、今日は武芸を拝見できる鑑賞会ではございませんでしたの?」

カタリーナがとぼけたことを宣った。

一部の人々にウケて、笑いが起きた。

ハインリヒが前に出る。

「自分より弱い男には嫁がないと言ったじゃないですか。

今日の皆様はお強い方々ばかりでしたね」

さあ、誰かを選べと圧をかける。

「そんなこと、言いましたか?」

淑女の笑みで、圧を跳ね返す。

「カティ。あなた、自分が大会に出たいとごねたときに、そのようなことを言っていましたわ」

ゲルトルートがハインリヒに味方する。

「お姉様まで――。売り言葉に買い言葉、かも」

カタリーナは人差し指を頬に添えて、小首をかしげる。

カタリーナが人を煙に巻こうとしていると、騎士団の方から大声が聞こえた。

「これ、サラマンダーの革じゃないか?」

三、四人で記念品をのぞき込んでいて、そのうちの一人が叫んだのだ。

あっという間にクラウスは分厚い肉の壁に囲まれて、見えなくなった。

「何?」

魔法使いと魔法騎士たちも色めき立った。

「火魔法を通さない、最高級の防具になる?」

「討伐数が少なくて、研究用に回ってこないサラマンダー?」

観客席を移動する者、演習場を横切って騎士団の方に駆け寄る者……騒然となった。

カタリーナが師匠に何の革か大声で尋ねた。

「火トカゲの革じゃ! 切れっ端しか残ってないが、剣帯くらいは作れるじゃろ」

師匠が観客席から口元に手を添えて、大声で怒鳴り返す。

正解を知り、更に騒ぎが大きくなる。

あんな声を出したら、カタリーナが淑女ではないことがバレてしまうではないか。

ハインリヒは肩を落としたが、それよりもサラマンダーの革の方が重要らしい。

「あの騒ぎ、どうすんの?」

司会に尋ねられたが、本当にどうすればいいのだろうか。

「カタリーナが誰かを指名して、強制終了したらいいのよ」

いつの間にかゲルトルートも降りてきて、本題を持ち出した。

「本当に、誰でもいいのね?」

カタリーナの目が怪しく光る。

「最終的にはお父様の判断でしょう」

ゲルトルートは片方の眉を上げ、明言を避けた。

「えっと、じゃあ……」

カタリーナは、うふふと何か企んでいる悪ガキのような顔をした。

「ヴォルフガング!」

カタリーナは声を大きくする魔道具に向かって、はっきりと断言した。

「そんな選手いましたっけ?」

司会が名簿に目を落とす。

「俺?」

師匠の息子が、木の武器を片付ける手を止めて、舞台を見上げた。

「今日はたくさん武器を作って、この大会で皆さまが実力を発揮できるように裏方をしてくれたじゃない。いつも助けてくれて、ありがとう」

「でも、俺、片足引きずってて、強くないよ」

「魔物と戦った怪我じゃない。勲章よ。

その代わりに目がいいし、頭もいい。

わたくしをお嫁さんにするのは嫌なの?」

カタリーナが拗ねてみせる。だが、断られるとはまったく考えていないのが透けて見えた。

「いや、光栄ですけど。貴族じゃないし」

ヴォルフは武器を抱えたまま、困って立ち尽くす。

「わたくし、平民になってもいいのよ」

カタリーナは壇上から降りて、ヴォルフの方に歩いて行く。

「幼なじみカップルが誕生しました。微笑ましいですね」

司会がなんとかまとめようとした。

「……微笑ましいが、この大会を開催した意味がなくないか?」

思わずぼやいてしまう。

相手がいるなら、招待状を出す前に言ってほしかった。

「参加者のみなさま、身内で盛り上がってごめんなさい。

では、ご令嬢がたの告白タイムということで、いかがでしょう?」

ヴォルフの手を取って壇上に戻ってきたカタリーナは、拡声魔道具を司会から奪って言い出した。

「さすがに、それはいけません!

見学するだけということでお許しになった親御さんも多いでしょう」

ゲルトルートが拡声魔道具を取り上げた。

――なんだかご令嬢からの期待の視線が刺さる。

私はこほんと咳払いをして、拡声魔道具を手に持った。

「それでは親御さんとご相談の上で、お許しを得たご令嬢は下まで降りて、ご歓談ください」

早足で親の元に行く令嬢たち。こんなときでも走らないのは見事だ。

快諾する親もいれば、渋る親もいる。

おねだり上手な令嬢もいれば、しゅんとなって席に戻る令嬢もいる。

サラマンダーの革に群がっていない出場者が、令嬢に話しかけられて真っ赤になっている。

お目当ての人がサラマンダーに夢中で、話しかけられずに観客席に戻る令嬢もいた。

「革に触るだけでもいい」と言う騎士もいた。お見合いより男の浪漫だそうだ。

妻に「わたくしと離婚してでも大会に参加したかった――と考えているのでは?」と嫌味を言われている夫もいた。

ぐだぐだになり、最後は「気をつけてお帰りください」と強制的に終了させた。

帰る皆が笑顔だったので、成功したと言ってよいだろう。

ちなみに、五組ほど縁談が成立したそうだ。