軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5 部屋探し

「ノンナと二人で暮らすお部屋を探さなくてはね。台所があるお部屋を借りたらノンナにお料理を作ってあげられるわ」

ノンナはどんなものを食べて育ったのかな、好物は何かな、とちょっと楽しみになる。

「料理?」

「そうよ。料理は得意なの。今日から私とノンナは家族だからね。ノンナに美味しい料理を作ってあげたいの。それとお姉さんじゃなくてビクトリアって呼んで。ビッキーでもいいわよ」

「ビッキー」

「よろしくね、ノンナ。今日は二人で貸し部屋を探しに行こう。そして夜は団長さんと三人で夕食よ」

「わかった」

ノンナは相変わらず無表情だ。

かくいう私も仕事でならいくらでも表情豊かになれるけど、普段の生活ではあまり感情表現が得意ではない。そんな育ち方をしていないのだ。

「ノンナ、二人でたくさん笑って暮らそうね」

「笑う?」

「そうよ。こんなふうにね!」

ノンナの脇腹をくすぐった。ノンナは最初『なに?』みたいに驚いていたけど、そのうち身をくねらせて笑い出した。キャッキャ笑うノンナは普通の六歳児に見えた。そしてすごく愛らしかった。

「ノンナ、あなたほんとに可愛いわ。気をつけないと悪い人に連れて行かれそう。私が身を守る 術(すべ) を教えてあげなきゃね」

「身を守る?」

「そう。自分の身を守る技よ。怖い目に遭った時にキャーキャー騒いだり泣いたりしてるだけではだめなの。自分のことは自分で守る。知っておいたほうがいいわ」

「わかった」

「毎日少しずつ教えてあげるね。でもまずは部屋探しから」

「うん!」

二人でいくつか貸し部屋業者を回り、書類で候補を二つに絞って一度ホテルに帰った。

「この子はおとなしい」と言っても子供がいるならだめという物件が結構あった。その大家だって昔は子供だったろうに。

そんな大家は出かけるたびにうっかり犬の糞を踏め、と呪っておく。

「ノンナ、私は今夜遅くなってから今日書類で見た部屋を見に行くの。だからもし寝てる時に目が覚めて私がいなくても、心配しないで待っていてね」

「一緒に行く」

「夜遅い時間だから子供は連れて行けないのよ」

「……」

夜に一人は嫌だよね。

でも夜遅くに六歳児を連れて歩いてたら厄介ごとのタネを撒きながら歩いてるようなものだし。

「どうしてもだめ?」

「夜遅くは悪い人に出会っちゃうことがあるから。私一人ならやっつけられるけど、ノンナがいたら戦えないでしょう?」

「お留守番……やだ」

そっか。

散々留守番をした挙句に親に捨てられたばっかりだものね。また捨てられるかもって思っても仕方ないか。

「じゃあ……約束して。私が声を出すなと言ったら何があっても声を出さない」

「わかった」

「走れと言ったら私のことは気にせず全力で走って隠れる」

「できる」

「叫べと言ったら思いっきり叫ぶ」

「できる」

「動くなと言ったらじっと動かない」

「わかった」

必死な顔のノンナを見たらそれでも一人で留守番して待てとは言えなかった。不安に駆られて部屋を出られても困るし。この子がいてもたいていのことは回避できるとは思うが。今までも怯えて動けない対象者を励ましつつ守りながら逃げたり戦ったりしてきたんだし。体が小さいノンナなら最悪担いで走ればいいか。

いや、普通に暮らしてる人間はそうそう敵と戦わないのはわかってるけど。そもそも今の私には敵がいないんだし。

「じゃあ、団長さんと夕食を食べる前にたっぷりお昼寝しようか」

「うん!」

夕方、二人でベッドに入ってノンナの背中をトントンしながら向かい合って寝た。ノンナは案外早く眠った。私はそっとベッドから抜け出して静かにトレーニングを始めた。組織から抜ける準備で食事を減らし、運動をしないで暮らしていたからかなり体がなまっている。

筋肉を鍛える運動をひと通りこなしてからお湯を使って汗を流した。

お化粧をし、隣国ランダルを横断中に買ったワンピースに着替えてからノンナを起こした。ノンナはぐずらない。子供らしい文句も言わない。子供らしくないのは子供でいられない環境だったからか。

やがてノンナがちゃんと目を覚ました。

「ビッキーきれい」

「ありがとう。ノンナも着替えようね」

詰め所の帰りに買ったワンピースに着替えさせて髪をとかした。うん、可愛い。ノンナが青いリボンを手に取る。昨日自分で大切そうに畳んで置いていたっけ。

「それを結びたいの?」

「うん。リボン、初めて」

「……」

ノンナがそれを嬉しそうに言うのが余計に切ない。柔らかい金髪の頭に青いリボンを回して頭の上で蝶結びにするとお人形さんのようだった。

「団長さんはこんな美人さんと食事ができて幸せね。ノンナ、好きな食べ物はなあに?」

「丸パン」

「……そっか。これからは好きな食べ物を増やそう。毎日美味しいものをたくさん食べよう。私が料理をするから」

「料理したい」

「いいわよ。教えてあげるね。私が知ってることは何でも教えてあげるわ」

「ありがとう」

「どういたしまして、ノンナ。二人で楽しく暮らそうね」

悪くない。

子供のいる生活は思っていたよりもずっと楽しそうだ。

時間ぴったりにドアがノックされた。

「はあい。どなた?」

「俺です。ジェフリー・アッシャー」

「今開けます」

すぐにノンナに小声で説明した。

「ノックされても、約束があっても、すぐにドアを開けてはいけないのよ。覗き窓があれば覗く。覗き窓が無ければ声を聞く。覚えてね」

「わかった」

ドアを開けると黒に近い濃紺色のスーツを着たアッシャー氏が立っていた。私より頭ひとつ高い。(この人、モテるんだろうな)とまた思う。そもそも既婚者か独身かも知らないけど、まあ、こちらは子連れだからそこは気にしなくてもいいのか。

「こんばんは、団長さん」

「やあ、二人とも綺麗だな。楽しい夕食になりそうだ」

私はノンナと手をつなぎ、アッシャー氏と三人でレストランに向かった。アッシャー氏は私たちの歩く速さに配慮して歩いてくれた。よく気がつく人だ。

ノンナの足取りが軽い。私も食事が楽しみだ。