軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26 ノンナのお留守番(1)

仕事の帰り道、手を繋いで歩きながらノンナにお留守番を頼んだ。予想通りノンナは不安そうな顔になった。

「ビッキー、どうしてもお留守番しなきゃだめなの?」

「今回はノンナは絶対に連れて行けないの。これは譲れないわ。なるべく早く帰るから」

私は今までノンナを留守番させないで暮らして来た。だけどどうしても今回は連れては行けない。

「今回のお留守番はノンナの大切な仕事だと思ってちょうだい。しばらくの間、毎日夕方にお留守番してもらわなければならないの。できるだけ急いで行ってくるし、なるべく早く帰ってくる。私を信じて。もし留守番中に困ったことがあったら母屋に行きなさい」

返事がない。

「どうしても留守番が嫌だったら最初から母屋で留守番させてもらうように頼んでくるけど、どうする?ただ、スーザンさんは母屋で働いているから、こういうことであなたの相手はできないの。一人にはならないけど、母屋のどこかでいい子にしてることになる」

「……家で待ってる」

「助かるわ。ありがとうノンナ」

ごめんね、と心で謝るが口には出さない。私が謝ればノンナは文句を一切言わなくなるだろう。文句くらいは言わせてやりたいし聞いてやりたい。

ノンナと家に戻ってからすぐに一人で外出することにした。ノンナが何を聞いても「大切な用事だから」としか言わなかった。

「三時間くらいで帰って来るつもりだけど、もしかしたら四時間になるかもしれない。おなかが空いたらここにある物はなんでも食べていいわ」

「ビッキーと一緒に食べる」

「そうね。私も夕飯はノンナと一緒がいいわ。よし、大急ぎで帰ってくるからね!」

「さて。ノンナのお留守番を短くしたいから馬を借りますか」

貸し馬を前払いでとりあえず二週間分借りた。これで好きな時に馬が使える。気に入ったら買うこともできるそうだ。馬は用事を終えたら毎回また店に戻す。自宅まで連れて行くとヨラナ様への説明が面倒だ。

「お客さん、馬の扱いはわかるの?」

「もちろん」

「小まめに休憩させてくださいね」

「大切に扱うわ。母のお見舞いに行く時の行き帰りに乗るだけだから安心してね」

今度は赤毛の女に変装して入り組んだ路地の一番奥の酒場に行った。

「あなたがヘクターさん?」

「誰だあんた?」

「アタシの名前はケイト。あなたはお金を払えば助けてくれるって、とある人に聞いて来たの」

「用件と金によるな」

そこで私は駆け落ちの相談をした。

「好きな人が既婚者なのよ。二人で駆け落ちしたいんだけど、奥さんが毎日彼の勤め先の出口で待ってるわけ。そんなことするから嫌われるってわかんない人なのよ。だから仕事の途中で奥さんに見つからないようにこっそり抜け出させて欲しいの」

ヘクターは眉を寄せた。

「具合が悪いとでも言って早引けすりゃいいだろうが」

「アタシも彼も奥さんも、部署こそ違うけどみーんな同じ職場なのよ。駆け落ちがすぐばれちゃうわ」

「ああなるほど。勤め先は?」

「お城」

「城か……少し料金は高くなるな」

「おいくらくらい?」

言われた額をその場で支払った。

「もうお金はこれだけだから。ほんとに大丈夫なのよね?」

「ああ。城を抜け出すだけだろ?問題はない」

「できれば王都からも逃げ出したいから外門の前まで頼みたいんだけど」

「いいだろう。明日、いや、明後日またここに来な。詳しい手筈はその時知らせる」

「わかったわ。ありがとう」

その足で王城の牢獄へ面会に行った。ケイトという名の身分証を見せて

「夜会で刃物を振り回して捕まった男の恋人です。面会に来ました」

と涙目で面会を申し込んだ。

「ああ、カールか。悪いが身体検査をさせてもらうよ」

「はい。お願いします」

覚悟の上だけど、入念に身体検査をされるのはとても気持ちが悪い。ポケットどころか下着の中まで探られる。ニヤニヤして見ている他の牢番たちに腹が立つが、どこの国でも死刑囚の面会を女が申し込めば扱いはこんなものだ。

牢番に付き添われて一番奥の石造りの牢獄にたどり着く。

「おい!恋人が来たぞ」

四十過ぎの牢番が声をかけると粗末なベッドに寝ていた男が起き上がった。

さあ、ここが最初の関門だ。

これに比べたら身体検査なんてどうってことない。私は目で男に「余計なことは言うな」と訴えた。通じてくれ!

男は私を見たあとで牢番に「ありがとうございます」と深く頭を下げた。

「もうすぐ死刑だという噂を聞いています。牢番さん、どうか彼と二人きりで話をさせてもらえませんか?」

「ああ、いいだろう。面会時間は一時間までだ。時間が来たら迎えに来る」

「ありがとうございます!」

行き止まりの牢獄。石造りの建物。大きな鍵のついた鉄格子。入念な身体検査。

安心材料ばかりだからか、牢番はあっさりうなずいて立ち去った。

牢番が立ち去るや否や「あんた誰だ?」という男に「助かりたいなら恋人のふりをして。それと今は黙ってて」とだけ答えた。

鉄格子の外から牢獄の窓の外を見つめ、耳を澄ませる。軍靴はカツカツと音を立てる。一時間かけて音を頼りに兵士が巡回する間隔を数を数えながら記憶した。

牢屋の鍵は簡単に開けられることを確認してすぐに閉めた。それを見て驚く男に

「この扉から出たって逃げ道はないわ。すぐ兵士に殺されるだけ」

と言い聞かせる。

牢番たちにお礼を言って城を出た。

馬に乗り、貸し馬屋に馬を返す。さあ、急いで帰らなくては。

商店街でパンと肉と果物を買って家に小走りで帰った。

「ただいま!」

「おかえり!」

買ってきた物をテーブルに置いてノンナを抱きしめた。

「お留守番ありがとう」

「平気だったよ」

「よかった」

「ビッキー、汗かいてる?」

「うん。早くノンナに会いたくて、走れるところは全部走ったから」

ノンナが眩しいものを見たような顔で目を細めた。

「ビッキー、走ってこなくても待てるよ」

「うん、ありがとう。あなたは本当にいい子だわ。そして強い子ね」

二人で食べる夕食は簡単なものだったけど美味しかった。