軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編② 少女と副官と冒険団

ぱちり、と暖炉の奥で小さく火花が弾けた。

老婆はその音に目を細め、湯呑に手を添えたまま、ぽつりと語り出した。

「まず、冒険団が――ある少女を見つけたところから、話は始まります」

勇者が身を乗り出した。

王女と剣士も、静かに顔を上げる。

「その日、森が焼けていたの。……夜のうちに火が走って、朝には木々の一部が炭みたいになっていてね。煙のにおいがまだ残る中、崖のふちを通っていた冒険団が、その子を見つけたの」

老婆は、少しだけ遠くを見るような目をした。

「雨が降っていました。しとしとと、静かな雨。……崖の下、泥の中に、うつぶせになって倒れていた女の子がひとり。泥まみれで、服もぐちゃぐちゃで……でも、ちゃんと生きていた」

王女が、痛ましい話を聞いたように、そっと口に手を添えた。

「でも、それよりも、あの子はひとりぼっちだった。名前も話さない。どこから来たかも分からない。あの子のことを知っている者は、誰ひとりいなかったそうです」

剣士が短く呟く。

「……まるで、突然そこに落ちてきたみたいだな」

老婆は小さく頷いた。

「ええ、まさにそんな感じ。でもね……そこから、少しずつ居場所ができていったのよ」

そして――と、湯呑のふちに指を添えて、次の言葉をゆっくり口にした。

「その子の世話をしていたのは、フィリナという副官でした」

老婆はそこで、少し口をつぐむ。

勇者たちは、黙って話の続きを待っていた。

老婆は、少し泣きたいような、それとも笑ったような顔になった。けれど、それはほんの一瞬のことで、すぐに真面目な声で口を再度、開いた。

「背の高い、無口な女の人でした。白い外套を着て、背筋をぴんと伸ばしてね。槍の名手でもあったそうで、先端を布で覆った愛用の槍を、いつも近くに置いていました」

「冒険団の帳簿係もしていて……なんでも数の計算ができるのは、冒険団でも彼女だけだったそうです。けれど、いつも難しい顔をしていて、団の中では「ちょっと怖い」って思われていたみたいですね」

勇者が腕組みをして、小さく首を振った。

「見つかった少女の、保護者のような立場だったんですか?」

老婆は首をかしげる。

「……どうでしょうね。けれど、あの子の隣にいたのは、いつも彼女だった。あの子も、最初は怖がってたみたいでしたけどね」

そして、語りはふたたび――静かに、しかし確かに、次の過去へと移っていく。

* * * * * * * * * * * *

朝食時。団員が並ぶ配膳台の前に、副官フィリナが静かに立っていた。背筋を真っすぐに伸ばし、足元の位置さえ微塵も狂いがない。

目線は正面のまま、動きは必要最小限に抑えられている。皿を取る、差し出す、引く。それだけを、まるでよく調整された機械のように繰り返す。

列の最後尾に並んでいた小柄な少女が、一歩前に出た。あわあわとした動きで手を伸ばす。

フィリナは、まるでそれすら予測していたかのように、さっと寸分違わぬ手順で皿を差し出した。

少女が「あっ……ありがとうございます」とおずおず声をかけた。

フィリナは返事をしない。首も動かず、まぶたすら瞬かない。

まるで「礼など不要」と言わんばかりに。フィリナは一礼もせず、無言のままその持ち場を守り続けた。

その様子を、少し離れた場所から見ていた団員が、こっそりと少女に囁いた。

「……あれが副官。基本的に誰とも目を合わせない。気にするな」

「話しかけると、噛みつかれるって噂もあるぞ」

夕食も終わり、夜も更けようとしているころ。少女が空の水袋を持って戻ってきたとき、フィリナは焚き火のそばに腰を下ろし、膝の上で帳簿を広げていた。焔の明滅が、その無表情な横顔をぼんやりと照らしていた。

少女は、ふと視線を感じて振り返った。

一瞬、確かにこちらを見ていた気がした。けれどフィリナの目はすぐに帳簿へと戻る。

少女がそのまま腰を下ろすと、フィリナはときおり顔を上げては、険しい顔で何かを数え続けた。数字の羅列と、物資の残数と、補給予定日――そこに感情の入り込む余地はなく、彼女たちの間に、会話はなかった。

またある日、町の入り口で、買い出しから戻ってきた少女は、突如、見知らぬ旅人に呼び止められた。

「君、どこから来たの? このあたり、よく通ってるのかな?」

軽い調子で話しかけてくる男に、少女は戸惑った様子で首をかしげる。

そのとき、不意に影が伸びた。

フィリナが、音もなくその場に立っていた。

その威圧的な身長に、旅人がびくりと肩をすくめる。

「――この団の者への接触は、団長の許可を取ってからにしてください」

その声は驚くほど丁寧だった。冷たい水面のように澄んでいるのに、底がまったく見えない。感情というものが完全に削ぎ落とされているような声音だった。

旅人は口元を引きつらせ、言い訳がましく笑いながらその場を立ち去った。

フィリナは少女には一瞥もくれず、無言のまま踵を返して歩き出す。

少女はなにも言えず、ただその背中を追った。

* * * * * * * * * * * *

「なんか、聞いてたら、怖いっていうイメージとも違うような……。いちおう、助けてくれてるんだし」

勇者の感想に、王女が微笑みを浮かべて応じた。

「そのフィリナという人……少し、私の侍女に似ているかも。いつも黙って、でも、一番近くにいてくれるの」

「不器用なのかもな」

剣士も応じる。

かまどのそば、静かに湯を注ぐ老婆が、そっと首を振った。

「ええ、その子のおかげで、皆が気づき始めたのです。――“フィリナは、本当はそんな人じゃないのかもしれない”って」

* * * * * * * * * * * *

冒険団が町へ向かう道中。休憩中の隊列の後ろ、木の枝に干された布を回収していた少女が、ぴょん、ぴょんと跳ねていた。

「うーん……もうちょっと、あとちょっと……!」

布に手が届かず、歯噛みしながら背伸びを続ける。

「……成長期まだかな……」

その小さな呟きに、音もなく一つの影が近づいた。

フィリナだった。無言で近づき、すっと手を伸ばして枝から布を外すと、少女の前に差し出した。

少女は一瞬ぽかんとしたが、すぐに、ぱっと花が咲くような笑顔を浮かべた。

また違う日。焚き火の前、フィリナは今日も完璧な姿勢で報告を読み上げていた。

――が。その視線の正面で、少女が口をぶわっと広げ、目をくるくる回しながら、なぜか謎の顔芸を全力で披露し始めた。

「明日の出発時間は午前6時。本日の物資状況は……ふ、ふた箱……」

その声は明らかに震えていた。

それでもフィリナは、何事もないように帳簿をめくっていた。

ただ、その指先は、紙をめくるというより雑巾を絞るような動きになっていた。

さらに唐突に、左足だけが足踏みを始める。

トン……トン……トン……トン……。

そのリズムは異常に小刻みで、どう見ても何かを耐えている足踏みだった。

団員たちは「見てはいけないものを見てしまった」ような顔で、誰一人笑えず、視線だけが宙を泳ぐ。

そんな空気の中、少女がスプーンをくわえて、副官の真似を始める。

「出発時間はぁ~、ごぜんろくじでぇ~す」

フィリナの報告は、もう音として成立していなかった。右手で帳簿をぱたんと閉じ、左手で腰のポーチをバンバンと叩く。背筋は伸ばしたまま、足踏みだけを続行する。

誰かがぽつりと呟いた。

「……副官、いま何してるんだろう……?」

その言葉が聞こえたかのように、フィリナは口元を引き締め、身を翻してどこかに姿を消した。

カツン、カツン……。

焚き火を囲む輪の中に、整った足音が再び近づいてくる。

戻ってきたのはもちろん、完璧な姿勢を取り戻した副官・フィリナだった。

先ほどの足踏みや顔の震えなど、すべて最初から存在していなかったかのように。

スッと所定の位置に立ち、涼し気な目つきで帳簿を静かに開く。

動きは淀みなく、目線は正面――いや、微かに少女のほうを避けているようにも見えなくもなかったが、誰も何も言わなかった。

そして、フィリナは堂々たる声で宣言した。

「明日の出発時間は午前6時。本日の物資状況は、保存食ふた箱――」

団員たちの間に、静かなさざ波のような囁きが広がる。

「……なかったことにした……」

「再起動した」

「いやさすがに無理があるだろ」

少女はスプーンをくわえたまま、ぴくぴく肩を揺らしていた。

――だが、事件はその次に起こった。

帳簿をめくる手を止め、フィリナはきっちりと姿勢を正し、静かに口を開いた。

「それでは皆、本日もよろしくおねがいしましゅ……っ……」

その瞬間、時が止まった。

団員たちは石像のように静止し、少女は口からスプーンをぽろりと落とした。

フィリナは目を見開き、次の瞬間、顔全体が音を立てて赤くなる。耳の先まで真っ赤に染まり、わずかに手が震えた。

……そして再び、彼女は何も言わず、ただ踵を返す。

報告書を閉じることも、ポーチを叩くこともせず、最短ルートで静かに退場した。

このように、冒険団に溶け込んだ少女は……次第に、しかし確かに何かを変え始めていた。だが、彼らはすぐに知る。

――どうして少女は追われていたのか。

――その少女は「何」だったのか。

「団長。このような報告が届いています」

フィリナが差し出した報告書を受け取った団長は、目を細める。

「なんだ……科学者集団に、雇われの冒険者崩れまで……あの子が、なんだってんだ……」

書かれた一文に目を留めて、口をひくつかせる。

「……なに? “長命種”……だと?」

* * * * * * * * * * * *

【逃げる魔法使い】番外編 実況&感想スレ【また地獄が始まるよ】

1:風の名無しさん

番外編ということでどうなるか怖いが

願わくば彼らがまた一緒にいられますように

2:風の名無しさん

なんか4人が一緒にいるだけで涙出てくる

5:風の名無しさん

過保護な3人に不思議そうな魔法使いちゃん

マジでなんでか分かってなさそう

6:風の名無しさん

まずは寿命がどれくらい残ってるかだよな

研究班にちゃんと確認してもらわんと

長命種疑惑もあるし

7:風の名無しさん

王都に行こうって言ったら魔法使いちゃんにめちゃくちゃ拒否されちゃいましたね……

11:風の名無しさん

あんな嫌そうな顔初めて見た

……あ!

13:風の名無しさん

わァ…あ…

17:風の名無しさん

泣いちゃった!!!

19:風の名無しさん

ガチ泣きやん

今まで泣いたことない魔法使いちゃんが……

22:風の名無しさん

子供みたいに泣いてる……

27:風の名無しさん

自然に出入り口固めてて草

絶対にもう逃がさないという強い意志を感じる

30:風の名無しさん

目配せもしてないのに役割分担できてて笑った

34:風の名無しさん

私的には抱きしめる役は王女様より勇者がいいと思います

36:風の名無しさん

なんであんなに拒否するんだろ

40:風の名無しさん

まあ王都が嫌なんだろ

問題ない

その辺の医者に診てもらえば一発よ

42:風の名無しさん

そっちも拒否されてて草

47:風の名無しさん

調べられるのが嫌なのか……?

それとも医者に行ったら注射されるとか思って泣いてるのか

50:風の名無しさん

そんな犬猫じゃあるまいし……

54:風の名無しさん

あれ?

なんか王女様に寄っていった

59:風の名無しさん

なんだろめっちゃ嬉しそう

いきなりニッコニコですやん

63:風の名無しさん

「王女様……隠していたんですけど……私、実は普通の人の2倍の寿命があるんです」

……え?

長命種って言ってもそんなもんなの?

67:風の名無しさん

長命種ニキは500年前の壁画がとか言ってたのに

70:風の名無しさん

「だから、今残ってる寿命は、ちょうど普通の人くらいなんです!」

そんな都合のいい話があってたまるか

74:風の名無しさん

ヤバいぞ地獄の匂いがしてきた

77:風の名無しさん

「だから私のことなんて気にしないでいいんですよ」

ニコッて笑って言うな

80:風の名無しさん

嘘丸出しで草

草……

81:風の名無しさん

王女様の顔ヤバい

86:風の名無しさん

そりゃ二人っきりになっていきなり爆弾投げられたらこうなるわ

89:風の名無しさん

一生懸命考えたんだよね

92:風の名無しさん

誰も信じてなくて草

ほんとの可能性だってあるだろ!

102:風の名無しさん

「2倍の寿命がある」って言った瞬間、剣士の目がスン……ってなったの見逃してないからな

106:風の名無しさん

【速報】王女様、顔面蒼白で魔法使いちゃんを正座させる模様

110:風の名無しさん

なお、魔法使いちゃんは「えっ?なにか怒られることしちゃいました?」って顔してる模様

114:風の名無しさん

この子、ほんとに嘘つくの下手だよね……

123:風の名無しさん

泣いてた理由が「注射が怖い」とかなら逆に安心だった説ある

126:風の名無しさん

その場合はその場合で王女様が病院ごと焼き払ってそう

135:風の名無しさん

普通の人の寿命ぶん残ってるんです~(※当社比)

138:風の名無しさん

「王女様はきっと信じてくれるって思ったから……」

↑この一言で王女様の目から火が出てた

146:風の名無しさん

一人になった魔法使いちゃんまた泣いてる……

159:風の名無しさん

本当の可能性ゼロですねこれは……

170:風の名無しさん

あっあっ泣かないで

190:風の名無しさん

誰か早く長命種ニキを呼んでこい!

【信じてた】長命種ニキに謝るスレpart32【俺達の誇り】

26:長命種ニキ

いやーあはは

みんな、そんなに謝ってもらわなくても……

それより番外編見守りましょうよ

28:風の名無しさん

長命種ニキ!

こんなところにいたのか!

ほらっさっさと本スレに来るんだ

32:長命種ニキ

えっえっ

なんですかいきなり

38:風の名無しさん

長命種ニキ、そろそろ出番ですよ

本スレが「ほら早く早く!」って空気になってます

41:長命種ニキ

いやでも、俺なんかが出ても……

ほら、ちょっと当たっただけだし……

43:風の名無しさん

うるせえ! 来い!!