軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5話 残酷な処遇

「お父様、なぜここに……?」

「なぜじゃないだろう! おまえが婚約破棄されたというから、呼び出されたのだ! いったいおまえはオーエン様になにをした!」

頭から湯気が出るのではないかと思うくらい怒って、私に怒鳴り散らす父。

予想通りだ。やはり怒られるのは私。母とは最初から政略結婚だったから私に愛情などない。聖女だと判明していなかったら、今頃どうなっていたことか。父にとって私は政治の駒のようなもの。その駒が王妃にならないのなら、役立たずというわけだ。

「わたくしは何も……」

「スカーレット。座りなさい」

オーエン様の父である、国王陛下の冷たい声が部屋に響く。はあ、とわざとらしいほど大きなため息を吐き、頭を抱えているのは王妃様だ。二人とも先に部屋に入った宰相様から、妊娠のことを聞いたのだろう。

どう話を切り出そうかと父の方をチラチラと見ている。しょうがない。どうせこの婚約は破棄されるのだ。それにこのことを聞いたらさすがに私を責める人はいないだろう。

「お父様、何かをしたのはわたくしではありませんわ。シャルロットがオーエン様の子を身籠ったそうです」

「な、なんだって!」

妊娠のことは婚約破棄の後に聞いたけど、順番はもういいだろう。スッと一歩横にずれると、シャルロットが部屋に入ってきた。もう彼女の芝居は始まっているようで、涙をポロポロと流し体を震わせている。

「お、お父様……! ごめんなさい! わたくし、わたくし……!」

「おお! シャルロット! おまえ本当なのかい?」

私とは違って優しい父の態度に、心の中で舌を出したい気分だ。義母でありシャルロットの母とは長い間愛人関係だった。父にとって私の母は、恋の邪魔者といったところだろう。年々母に似てくる私を見る視線は冷たかった。

(とはいえ、聖女の力があるのは私。陛下は本当にどうするおつもりなのかしら?)

「皆、座りなさい。オーエンもここに来い」

いつの間にか部屋の隅で暗い顔をしていたオーエン様が、陛下の言葉にビクリと肩を震わせる。自分でしでかしたことなのに、まるで怯えた子犬みたいだ。

クスンクスンとすすり泣くシャルロットの声を聞きながら、私は父の隣に座った。私は悪いことは何もしていない。毎日体をボロボロにしてまで結界に魔力を注ぎ、王妃教育を頑張ってきた。

そのせいか陛下も王妃様も私には優しくしてくれ、いつもねぎらってくれたのだ。たとえ婚約が破棄になったとしても、私に悪いようにはしないだろう。そう思って私はまっすぐにお二人の目を見つめた。

しかしそんな私の考えは甘かったようだ。陛下はじっと私を見つめ返したうえで、はっきりとこう言った。

「スカーレットには影になってもらおう」

「わ、わたくしが影? それはいったい……?」

予想もしていなかった陛下の答えに、頭が真っ白になる。私とオーエン様の婚約が無くなり、シャルロットが王妃になるかもしれないことまでは予想していた。しかし「影」とはいったい、どういうことだろう?

思わず立ち上がりそうになるのをなんとか堪え、私はすうっと深呼吸をして心を落ち着かせた。そんな私の様子を見届けると、陛下はまた話を続ける。

「スカーレットとオーエンの婚約は解消する。シャルロットが妊娠したのなら、その子は王家の子だ。堕胎させることはできない。それにシャルロットとスカーレット、両方を妃にすれば他の貴族から反発があろう。聡明なスカーレットなら、わかるな?」

「は、はい……」

嫌な予感がする。陛下はことあるごとに私を「聡明な子だ」と褒めてくださっていた。しかし今の言い方は違う。

――これから私が言うことを文句を言わず飲み込め。わかるな?

そう言っているのだ。その意味がわかったとたん、背中にぞっと寒気が走り、私は喉の奥がグッと締まるのがわかった。

「そうなると聖女であるスカーレットの処遇が問題になる。王家に嫁ぐことで、他の貴族に聖女の権力を渡さないという意味合いがあるのだ」

もう隠そうともしないのか。いつもの「聖女として頑張っているのだから、王家で大切にするのは当然」という表の理由は必要ないらしい。隣に座る王妃様もゆっくりとうなずき、陛下の意見に賛成している。

「ならば、スカーレットが聖女でなくなればいいのだ」

陛下はそう高らかに宣言すると、威圧感のある笑顔を私に向ける。決して目は笑っておらず、その真意は明白だ。それでも聞かずにはいられない。私は何年もこの身をこの国に、そして王家に捧げてきたのだ。聞く権利くらいはあるだろう。

「えっ……、今……なんと?」

「わからぬか? スカーレット、君はこれから王太子妃になるシャルロットの影となり、王家を支えるのだ」

「シャルロットの、影……。オーエン様の側妃ではないのですよね?」

答えはわかっている。これから陛下が言うことも予想している。それでも、それでも私は……。

「ああ、そうだ。君は聖女の力が無くなったと発表すればいい。しかしこれまでの功績に報いて、王家で保護するとしよう。それでいいな?」

陛下に告げられた一方的な言葉に、愕然とし、頭が真っ白だ。それでも私はなんとか力を振り絞って口を開いた。

「け、結界はどうするのですか? 魔力を注ぎ続けないと、結界が壊れてしまいます」

そもそも百年前に作られた結界に綻びが出てきたので、私が聖女に選ばれたのだ。結界は私と聖教会の司教様にしか見えない。聖魔力も私しか持っていない。

(まだ結界は完成していないし、私が生き続ける限り魔力を注いでいかないと維持できないのに……)

このことは司教様からも王家に説明がされている。それなのに目の前の陛下は必死に説明する私を見て、フッと鼻で笑った。

「私は結界なぞ、信じておらぬ。結界も魔力も聖教会が作った妄想だろう」

その言葉が部屋に響いた時、遠くでシャルロットとオーエン様がクスリと笑う声が聞こえた。