軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27話 ニセモノ聖女は暴かれる シャルロットSIDE

「いったいなんなのよ! なぜ返事をくれないの? もうこうなったら直接オーエン様に会いに行こうかしら……」

ここには楽しいことも美味しいお菓子もない。美しい庭園もなく、話し相手もいない。部屋に閉じこもることしかできない私の苛立ちは最高潮になっていた。

(そうよ! それがいいわ! だってこんなの教会に軟禁されてるのと同じじゃない。勝手に帰って何が悪いの!)

それなのに、帰ろうにも突然の大雨で教会を出ることができなくなってしまった。強い風で、馬車も使えない。近くの川も氾濫し始め、教会も騒がしくなって呼んでも誰も来なくなった。

(もう! 天気さえも私の邪魔をする! 本当にイライラするわ!)

ようやく雨がやんだのは、三日後のことだった。経験したこともない嵐だったけど、これで王宮に帰れる。手早く支度をし、私は急いで馬車の手配をしようと立ち上がった。すると、その時。ノックもなく扉がバンと乱暴に開き、司教が入ってきた。

「怪我人や病人がたくさん教会に集まってきているぞ! 早く外に出るんだ!」

「えっ? そんなのわたくしには関係ありませんわ。きゃっ! なにをするのです!」

わけもわからず乱暴に部屋から引きずり出され、私は教会の外に出された。そこにいたのは、人、人、人。この前とは比べものにならないくらいの数の平民たちが、うめき声を上げ集まっていた。

「皆の者、聖女はここだ! さあ、シャルロット。あなたは聖女なのだから、この怪我人たちを癒やしなさい」

ニヤリと笑ってそう言うと、司教は私の背中をドンと押した。

「きゃあ!」

転がるように民衆の前に投げ出され、私は前のめりに倒れる。痛みをこらえなんとか顔を上げると、目の前にはギラギラした目をした女がいた。女は私に気づくとすぐさま睨み、つかみかかってくる。

「このニセモノめ! なにが聖女だ! あんたのせいで息子は死んだじゃないか!」

「い、痛い! やめて!」

(誰なの? この平民女は! なんて無礼なのかしら!)

どこかで見たような顔だけど、覚えていない。それに私のせいで子供が死んだなんて、ひどい言いがかりだわ。きっと子供が死んだことで頭がおかしくなっているのだろう。

(なんで私がこんな目にあわないといけないの? 警備はなにをしているの?)

狂ったように襲ってくる女の力はものすごく、ひ弱な私ではとても振り払えない。私は必死になって教会に向かって叫んでいた。

「誰か助けなさい! この女を捕まえて! わ、わたくしは王妃となる――」

首元をつかまれ揺さぶってくるので、息が苦しい。それでも大声で助けを呼んでいるのに、誰も来ようとはしなかった。それどころか私が聖女だとわかると、周囲の者たちはいっせいに叫び始める。

「そうだそうだ! 嘘つき女!」

「スカーレット様を取り戻せ! あの方は本物の聖女だ!」

「きっと聖女様が国を去ったから結界が壊れたのよ!」

集まった者たちは口々に「スカーレットこそが本物の聖女」「聖女を我が国に!」「ニセモノ聖女を追放しろ」と叫び始める。

(なにを言っているのよ! 結界なんてもともと無いわ! あの女こそニセモノよ!)

みんなシモンの嘘に騙されてるのよ! あの人に踊らされてるとも知らず興奮しきってる。これ以上こんな場所にいたら、ニセモノだと思われている私は殺されてしまうかもしれない。

(逃げるなら今だわ!)

私は周囲の騒ぎに気を取られている女の手を振り払い、急いで教会の中に戻った。そして裏口から馬車に乗ろうとすると、そこにはニヤリと笑う司教が立っていた。

「おや、聖女シャルロットじゃないか。もしかして馬車を使いたいのか?」

ニタニタといやらしい笑いを顔に浮かべ、司教は私に話しかける。

(さっきは私を突き飛ばしておきながら、何を言っているのかしら! 本当に嫌な男だわ……)

隣にはいつも私に食事を運ぶ怪我をした男も立っている。この男もなぜかニヤニヤと私を見て、気持ちが悪い。でももうこの二人に会うことはないわね。教会の前にいる平民達の相手は、あなた達がするといいわ。

私は顎を上げフンと鼻で笑い、二人を見下すように見つめる。

「そうですわ! わたくしはもう王宮に帰ります! 今すぐ馬車を用意しなさい!」

(何を言われたって私はもうここを出ていくの。こんな所大嫌いよ!)

少し身構えつつ、それでも強気でそう命令すると、司教はニヤリと笑った。まるでその言葉を待っていた様な満足気な顔に、嫌な予感がする。でもそんなこと考えている暇はないわ。私は一刻も早く王宮に帰らなくては。

「ああ、もちろんだ。もう準備はできているぞ」

ニンマリと笑って司教が顎をしゃくると、隣の男はうなずき私を案内し始める。裏通りの細い路地には誰もいない。私はさっさと馬車に乗り込むと、二人に挨拶もせずにドアをバタンと閉めた。

「オーエン殿下によろしく伝えてくれ」

外から司教の言葉が聞こえたけど、返事なんてするものですか。私はこの大嫌いな場所から離れたことで、ようやくほうっと息を吐いた。

(それにしてもひどい格好だわ……)

転んだからドレスは泥だらけ。あの女ともみ合いになったから髪もボサボサ。でももういいわ。むしろ私がこれだけ傷ついているのを見たら、さすがにオーエン様も優しく慰めてくれるだろう。

それにこれ以上悪いことなんて起こらないはず。そう思っていたのに。

「うっ! なによ、この匂い!」

王宮へ進む道中、窓を閉めているのにも関わらず悪臭が鼻をツンと刺激してくる。そっと外を見てみると、ほとんどの家は壊れ、そこらじゅう泥まみれだ。なんともいえない臭さに吐きそうになる。

(きっと平民達が汚したのね! こんなに臭いなら教会に集まっていないで、片付けるべきだわ!)

そう考えていると、さっきの教会での光景が頭に浮かんできた。私をニセモノだと蔑み、あの女を本物の聖女だと褒め称える平民たち。今思い出してみても、腹立たしい。

「う、うう、く、悔しい……!」

初めて感じるみじめな気持ちに、ボロボロと涙があふれる。頭の中はスカーレットへの憎しみでいっぱいで、顔を思い出すだけでギリギリと歯が鳴る。馬車の中じゃなきゃ、手当り次第物を投げつけたい気分だ。

(悔しい悔しい悔しい! 私こそが聖女として国民に持て囃されるべきなのよ!)

そうすれば私を馬鹿にする貴族達だって、きっと尊敬するはず。そう思っていたのに。現実はスカーレットが大国カリエントの王子と婚約し、聖女としても認められている。反対に今の私はどうだ。

オーエン様には冷たくされ、婚約も発表してくれない。社交界では馬鹿にされ、平民にすらニセモノだと責められている。私は泥だらけのスカートを強く握りしめると、キッと前を睨んだ。

「もう、聖女はいいわ! あんなのいらない! 私にはオーエン様がいるもの。きっとこの頑張った姿を見たら、すぐに認めてくださるわ!」

あんな薄汚い国民に愛されなくてけっこう! 私は王妃となって、贅沢に暮らすのが合っているのだわ。そう考えると少しずつ気持ちが晴れてきて、王宮が見えてきた頃にはすっかり機嫌も良くなっていた。

「オーエン様がすぐに会ってくださるといいけど……」

そう不安になったのは、王宮の様子がおかしかったからだ。人も少なく、全体的に荒れている。しかしいざ中に入ってみると、すぐに迎えの侍女が待っていた。しかもオーエン様は私に会ってくれるという。

(ああ! やっぱり私のことを受け入れてくれるのね!)

私が汚れているせいか案内された部屋はとても質素だけれど、それもどうでもいい。早くお風呂に入っていつもの綺麗なドレスを着て、お茶やお菓子を食べたいわ。そうね、オーエン様と甘い夜を過ごすのもいい。

私がそう考えていると、部屋の扉が開きオーエン様が入ってきた。

「オーエン様!」

久しぶりに見る彼は、私を見てにっこりと笑った。やっぱり許してくれたんだわ。だってこんなにボロボロになるまで頑張ったのですもの。

私は急いでオーエン様のもとに駆け寄る。すると急に彼の顔がサッと冷たい表情になり、私の目の前に騎士の槍が飛び込んできた。

「きゃあ!」

突然現れた武器に驚いた私は、そのまま尻もちをついてしまう。するとまた別の騎士がオーエン様の背後から出てきて、私を後ろ手に縛り始めた。

「な、なにをするのですか! オーエン様! 助けてください! この者達が私を――」

(なぜ私を縛るの? さっきまでのあの笑顔はなんだったの?)

なにひとつわからず、私はオロオロとするだけで体が固まってしまった。それでも助けを求めるようにオーエン様を見上げると、彼はニヤリと笑って声を張り上げた。

「シャルロット! おまえは自分を聖女だと陛下を騙し、民を混乱に陥れた! 一国の王を騙した罪は重い! よって禁固刑に処す!」

「な、なにを言って――! お父様! お父様を呼んでください!」

禁固刑という罪状を聞いても、頭に入ってこない。だって私に聖女になれと言ったのは、あなたなのに。私はそれを証明するため父の名を呼んだけれど、それを聞いたオーエン殿下の顔はさらに醜く歪んだ。

「君の父親は先に牢屋にいるぞ。仲良くそこで過ごすんだな」

「え……?」

ハハハと大声で笑うオーエン様は、もう私のことを見ていない。彼はくるりとこちらに背を向け、カツカツと音を立てて部屋を出ていく。残ったのは私と、私の体を押さえている騎士だけ。

「ほら、立て!」

「いや! な、なんで……? どうしてなの!」

私のその言葉に誰も答える人はいない。私は彼が出て行った扉を、ただ呆然と見ているしかなかった。