軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話 王宮に向かう準備

「オーエン様が使者として来たということは、そんなに妹が迷惑をかけているのでしょうか?」

ある程度は予想していたけれど、あの厳しい教師たちがたった一日で音を上げるかしら? それともヴェールをかぶるのを嫌がって、素顔のまま王宮を威張り散らしているとか? でもそれも今さらよね。

そんなふうに妹の行動を予想していると、シモン様は眉を上げて意外そうな顔で笑った。

「スカーレットは本当に色恋ごとに疎いんだな」

「えっ? 突然なんですか?」

「オーエン殿下は、君に会いに来たんだよ」

シモン様はクスクス笑いながらそう言うと、御者に馬車を出すよう告げた。カタンと動き出す音を聞いて、私はハッと我に返る。

「それはないです! 絶対に違いますわ!」

(いくらシモン様の言うことでも、これはあり得ないわ! だってオーエン様はシャルロットを妊娠させたのよ?)

まさか、からかってるのかしら? そう思って怪訝な表情でシモン様をジロリと見ると、彼は喉を鳴らすようにククッと笑い、話し始める。

「もちろん彼は一途じゃないよ? でもね、一番は君なんだよ。君の気を引きたいんだ」

「……なぜ、そんなことがわかるのですか?」

「それは決まってる。私が君のことをずっと見てたからだ。そうすると自然と君を見つめるオーエン殿下も目に入るってこと」

「え……」

反論しようにも、どこに反応していいのかわからない。シモン様が私のことをずっと見ていたこと? オーエン様が本当に私を見ていたか? なんだかどっちも考えると、ぐっと喉が詰まってしまい言葉が出てこない。

そんな複雑な気持ちの私を見て、シモン様はなおも続ける。

「彼はね、君が傷つくのが見たいんだ。自分のほうを見てくれないから、意地悪をしている気持ちなんだろう。もちろん本人も気づいていないかもしれないけど」

その言葉に、私は思わずカッとなってしまう。

「たとえそんな気持ちがあったとしても、一生気づかなくていいですわ! それに意地悪ならば度が過ぎています!」

「あはは! たしかにね。それにもう彼にはチャンスがないから」

眉を下げ苦笑気味にそう語ると、シモン様は私を膝から降ろしポンポンと肩を叩いた。

「とりあえず、詳しい話は私が借りている屋敷でしよう。君もドレスを着替えないといけないし、叔母様もそこで待っているよ」

「そうなのですか! ありがとうございます!」

「ああ、少し休んでから王宮に向かおう。その後は馬車で移動しないといけないしね」

シモン様が借りているお屋敷は、叔母様のお屋敷と同じくらいの質素さだった。大国カリエントの王子だとわからないようにだと思うけど、予想以上に慎ましく生活していたようだ。

「当たり前だろう? 王族は領地からの収益もあるが、国民からの税金も使っている。無駄遣いはしないぞ」

端正な顔立ちに似合わず、シモン様は豪快に笑ってそう言った。

(陛下や司教様に聞かせたい言葉だわ……)

この国は結界のおかげで疫病や災害がほとんどない。土地も豊かで宝石などもよく取れるため、潤っている。そのためか王族も教会も贅沢三昧。国民も不自由なく過ごしているからか不満も出てこないため、やりたい放題だ。

(私が去って結界が壊れたら、この国はどうなるのかしら……?)

まだ未知のことだし、意外と大したことないかもしれない。正直な気持ちは、もうこの国に関わりたくないということだけ。カリエントで新しい人生を始められると思っただけで、もう興味を失いかけていた。

「さあ、降りようか。おや、君の出迎えがいるようだね」

馬車の音を聞きつけたのか、叔母様が玄関の外で待っていてくれた。私が急いで駆け寄ると、叔母様はギョッとした顔で驚いている。

「叔母様!」

「スカーレット! まあ! ドレスがボロボロじゃないの! いったいどうした……いいえ、そんなこと聞いてる時間はありませんわね。少ないけどあなたの着替えは持ってきているの。すぐに着替えましょう! シモン殿下、お部屋をお借りしますね」

「ああ、よろしく頼むよ」

二人の間でこれから起こる事は、打ち合わせ済みだったみたいだ。普段穏やかな所作の叔母様がものすごい勢いで私をお風呂に入れ、新しいドレスを着せていく。

「こんなに痩せて青あざまで……! でもシモン殿下がお選びになったこのドレスなら大丈夫よ!」

胸元にふっくらしたギャザーが入ったそのドレスは、私の痩せ過ぎた体を上手に隠してくれた。色は明るいオレンジ。くすんでいた顔も明るく見え、これでお化粧をすればだいぶ健康的に見えるはずだ。

私は思わず少女のようにスカートをふわふわとひるがえし、鏡の中の自分に見とれていた。

「素敵だわ……!」

「よく似合ってるじゃないか」

「え! シモン様!」

うっとりと自分のドレス姿を見ていたはずなのに、いつの間にかシモン様が後ろに立っていた。聞けば何回も声をかけていたという。

(久しぶりのお洒落で浮かれすぎてしまったわ。恥ずかしい……)

「いつも地味な色のドレスばかりだったが、やはりスカーレットには明るい色が似合う」

シモン様はそう言うと、そっと私の髪の毛をかきあげ目を細める。いつの間にか叔母様は部屋から出ていて、私たち二人だけになっていた。きっと婚約したことも聞いたのだろう。部屋の扉もきっちり閉まっていた。

「スカーレット、これから王宮で起こることを話しておきたいと思う」

真剣な表情のシモン様だったが、どこかつらそうにも見える。きっと良くない話なんだろう。私はふうっと息を吐いて、彼に向き合った。

「スカーレット、大丈夫か?」

もう何度目かの私のため息に、シモン様が心配そうに顔をのぞきこむ。

「……ええ。大丈夫です。ただ怒りが収まらないだけです」

「そうか」

そう言うとシモン様は私の肩をぐっと引き寄せる。私もこの怒りは一人では乗り越えられそうにない。彼の胸に頭をあずけ、ふつふつと湧き出る怒りを抑え込んでいた。

「王宮に着きました」

馬車の御者の声に、私は再び大きく深呼吸をする。そしてゆっくり目を開けると、シモン様に向かってうなずいた。外では門番に私の名を告げる声が聞こえる。

カチャリと馬車の扉が開き、先にシモン様が降りた。その時だった。あわてて戸惑うような男の声が聞こえ、私は耳をそばだてる。

「えっ! シ、シモン様ではないですか! この馬車はスカーレットが乗っているはずですが……」

その男の声には「あせり」と「不快感」が混じっている。シモン様相手だからはっきりと言えないが、「なぜおまえが?」とでも言いたげな苛立ちがあった。

「わたくしは、ここですわ」

差し出されたシモン様の手につかまり、馬車を降りた。彼のエスコートに恥じないよう、私は優雅に一歩一歩歩いていく。

(厳しい妃教育も、たまには役に立つじゃないの)

実際に外国の要人にエスコートされた場合としての所作を、厳しく教えられたのだ。私はその努力を披露するかのように、目の前の男ににっこりと微笑んだ。

「な、なぜ、一緒にいるんだ!」

そう言って顔を真っ赤にして私を指差したのは、 元(・) 婚(・) 約(・) 者(・) のオーエン様だった。