軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

贈り物をいただきました。

侯爵邸にお引越しして、婚約式を無事終えてしばらく。

まだ、アレリラがイースティリアとミッフィーユの仲を勘違いしている頃。

「これを試してみてくれ」

と、イースティリア様に居間で渡されたのは、容器に入ったクリーム状のものだった。

いくつかあり、薬の香りがするものと、ふわりと花の香りがするものがある。

「これは何でしょう?」

「ウェグムンド領にて開発された、美肌用クリームというものだ。元々は肌が弱い者に与える薬だったようだが、肌が滑らかになるところに目をつけた小領主から、キツい臭いを改善したので高位の貴婦人方に売り込みたいという申し出を受けた」

小領主は、ウェグムンド領内でさらに分けた土地を管理する代官のことだ。

詳しい説明によると、薬の香りがするものが肌に潤いを与えるクリームで、花の香りがするものが肌を保護するものだという。

眠る前に使用するようだ。

「試作品ということでしょうか?」

「いや、小領内では多少流通している。調査結果を見ると実際に効果があり、評判も悪くない。しかし、原価が高く数が作れないそうだ」

「元が薬であるのなら、そうでしょうね」

薬草は山で採るか栽培するもので、風邪などに効く比較的安価なものは、大規模に栽培されているからこそ価格が抑えられている。

肌に良い薬、しかも本来であれば鼻が曲がる臭いが付きものの薬を、香りをつけて使いやすくしたというのであれば、工程にも手間がかかっていて当然だった。

「では、わたくしが試す理由は何でしょう?」

ジッとイースティリア様を見上げると、彼は無表情のままアレリラの髪に手を伸ばして、軽く撫でる。

「広告だ。私は、このクリームを作った小領主を買っている。そして、上手くやればとんでもない利益を生むだろうと読んでいる。美しさに敏感な女性は多い。特に肌は、自分の意思でどうにかなるものでもない」

「そうですね。ですが、わたくしでその役割が果たせますか?」

「十分に。君は無自覚だが、とても美しいからな」

「そうなのですか?」

「元が良いのはよく知っている。侯爵家に来て、専属の侍女に手入れをされた髪はさらに艶やかになった。磨き抜かれた肌も、きめが細かい。その上でこのクリームが肌に合えば、おそらくは少女のように輝くだろう」

全て淡々と口にしているが、目の奥に宿る光はどことなく愛おしげで、身の置き所がない気持ちになる。

ーーー勘違いしてはいけません。イースティリア様はご自身の目で見た事実を述べているだけで、その想いはミッフィーユ様にあります。

「一度試してみてくれ。知り合いの少女にも同様に試して貰う予定だが、もし販売するのであれば、高位貴族との窓口は君になる。小領主はこれが成功すれば男爵位を与えるよう働きかけるが、まだ平民だ」

「畏まりました」

知り合いの少女、というのは、おそらくミッフィーユ様のことだろう。

心が落ち着いたアレリラに、イースティリア様はどこか満足げに頷いて、手を離すとさらりと仰られた。

「これは私事だが、君が少しでも喜んでくれれば嬉しいという気持ちもある」

「え?」

しかし、アレリラが思わず聞き返そうとした時には、イースティリア様は自室に向かって歩いて行ってしまった。

最近、準備と公務に追われているので、今から領地の仕事の確認をするのだろう。

ーーーお疲れかもしれませんね。体の疲れが取れるハーブティーを差し入れするように、お願いしておきましょう。

侯爵夫人としての予行演習のつもりで、使用人にそれをお願いすると、アレリラはクリームを侍女に預けた。

『喜んでくれれば嬉しい』という言葉の意味は、深く考えないようにした。

少しは好かれているのかも、という勘違いをしてはいけない。

アレリラはあくまでもお飾りの妻になる予定なのだから。

ーーー後に聞いたところによると。

イースティリア様は、美肌クリームの効果が十分に出るタイミングを計算されていたらしい。

丁度、アレリラが夜会で本格的に侯爵夫人として活動する頃合いに合わせて。

結果として、イースティリア様の目論見は成功した。

肌の美しさを褒められた時に、きちんとクリームをアレリラとミッフィーユが宣伝したことで評判になり、かなり高額に設定されていたにも関わらず、買い求める貴婦人が殺到したのだ。

無事に小領主が男爵に叙されたことを聞いた時には、イースティリア様の手腕に、アレリラがさらに深い尊敬の念を抱いたことは言うまでもない。

ミッフィーユ様とのお茶会でそれを告げると。

『他の人に話す時には、自分が美しさを保てるように気遣ってくれた旦那様にもっと深い愛情を抱いた、とかにしないとダメよお義姉様!』

と、怒られてしまったけれど。