軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

荒唐無稽な話です。

「父と、祖父の話をなさったのですか?」

ダエラール領を出立した後、馬車の中でアレリラは問いかけた。

「ああ。男性に恐怖を抱いている女性を、預ける判断をどのような点を見て行ったのかに興味があってな。手元に置いておきたいと思うのが自然だろう」

イースティリア様の言葉に、小さく頷く。

母は上手く行った方であると思うけれど、もし相性の問題などで失敗した時のことを考えれば、慎重になるのが当然の話だ。

事業の失敗よりも、下手をすれば取り返しのつかない事態になるのだから。

「聞いたところ、縁組の打診をダエラール子爵が行った後、タイア子爵は ダエラール領に何度も(・・・・・・・・・・) 足を運んだらしい」

どことなく含みのある物言いの意味を、アレリラは考えた。

タイア子爵領は遠い。

さらに戦後、二年間領地を空けていたことで様々な忙しい時期を抜けた頃に、母の状態に気付いた祖父。

「……行動に合理性はありますが、どことなく違和感がありますね」

娘を預けるのに、相手の人柄のみならず領のことや本邸内の雰囲気まで把握しておく、という心情は十分に理解出来る。

なので、違和感を感じているのはその点ではない。

「何故か、という部分については、考えが及んでいるか?」

「申し訳ありませんが」

この短時間で答えに辿り着ける気がしないので、アレリラは素直にそう口にする。

するとイースティリア様は頷き、ご自身の推論を口にした。

「時間軸と、聞き及ぶタイア子爵の性格的な部分。それと、実際の行動とスケジュールが合わない。おそらく時間が足りない以外にも……御母堂は、王都の新年会に参加することすらなかった、と言っていたな」

「ええ」

「御母堂の口調から、新年『も』共にいた、という風に取れた。父親の心情としても、関わりを持たないように努めていたこととは別に、側を離れ難いのではないだろうかと考えている」

言われて、アレリラは気付いた。

「つまり『長く留守にする期間が、通年なかった』という意味に取れますね」

「ああ」

「だから、計算が合わない、ということですか」

ダエラール領に訪れるには、王都からでも時間が掛かる。

道の整備されていない北西部から来るのなら、アレリラ達が赴く為に設定した期間……一度だけでも、トラブル込みで往復二週間以上……は見なければならないだろう。

何度も足を運んだというのなら、留守にする期間は多かった筈だ。

さらにその間に、ペフェルティ領の上下水道の話もしていたのだとすれば。

「祖父は、どのように行動を? 影を立てていたのでしょうか」

「いや、私の仮説では、もっと大きな秘密が存在している」

「大きな秘密……」

イースティリア様は、そこからしばらく黙った。

何かを熟考しているようだ。

待っていると、やがて口を開く。

「仮にタイア子爵が飛竜乗りであったとしても、まだ時間が足りないだろう。……アルは、ロンダリィズ領の国家間横断鉄道が、どのような経緯で出来たかは把握しているな?」

「はい。最初は、古代遺跡から発掘された魔導具の術式が 魔導機関(エンジン) に転用できた、というところから始まっている筈です。その後、南西の大公国から輸入された良質な魔力を蓄えた魔石燃料によって、長時間稼働することが可能になり、鉄道の実現に繋がりました」

古代遺跡の中には、『現在とは別の方向に高度に発展をしていたのではないか』と言われるものが存在する。

その中の一つが、離れた地域にあるのに共通点がある都市、というものの点在だった。

明らかに高度な魔術や魔導具を使用しているのに、その都市間の流通がどのように行われたのかが不明なのである。

特にそうした都市遺跡が集中しているのが、ロンダリィズ領に代表する、北西を開拓した者達の領なのだ。

古代文明は、なぜ滅びたのか。

どうやって交流していたのか。

それを世界の謎の一つとして、学者や魔導士の中には専門に研究している者が一定数いるらしい。

「魔導機関の元となった魔導具は、魔石燃料なしに微弱な魔力を放つ永久機関であるという。それを使用した移動手段が、過去に存在していたとすれば? そして、あちらの地域で秘密裏に発掘されていたら?」

飛ぶ生き物よりも、鉄道よりも早い移動手段。

「そんなものが、本当に存在するのですか?」

「信憑性は現在のところ全くないが、記録された伝承の中にはそれを示唆する記録が幾つかある。御伽噺の中で、魔女が行使したとされるが、現在は遺失している魔術だ」

アレリラは、イースティリア様が言いたいことに思考が追いつかなかった。

けれど、黙っているのも失礼なので、彼が言いたいだろうことを口にする。

「つまり、転移魔術が実際に存在する、と? 古代遺跡の中から発掘された文書などの中に、使い方が記述されたものがあり、それを習得、秘匿している?」

「あるいは、古代遺跡の内部に完全な形で何らかの魔導具が現存していた可能性も、0ではない」

「荒唐無稽では」

流石にイースティリア様の言葉でも、それは即座に飲み込むのが難しい。

何せ、御伽噺である。

「しかし、他に短期間に各領を往復する方法がない。影を立てていたという説は、かつて自分が留守の間に襲われた娘を一人残して出掛けるのと、心情的には変わらないだろう」

アレリラは、久しぶりにイースティリア様から発され『その言葉』を耳にする。

「あり得ないと思える出来事でも、それしか説明がつかないのなら、事実である可能性が一番高いのだ」

※※※

イースティリアは、アレリラへの説明に苦慮していた。

古代の遺物に関しては、実際に『どれほど離れていても声を届ける』遺物が、王家の秘宝として存在しているのだ。

しかし、それを傍証として挙げることは出来ない。

秘宝の存在そのものが機密であり、さらに明かした場合は、帝王陛下とタイア子爵の関係性にまで言及する必要が出て来るからだ。

アレリラがあまり納得していないのは理解出来たが、それ以上の説明は出来なかった。

ーーー難しいものだ。

イースティリアの心情としては、アレリラに全て説明しておきたい。

元・第一王子殿下であるサガルドゥ・タイア子爵との血の繋がりがないとしても、当時の状況を知らない者がどこかから情報を嗅ぎつけ、アレリラと利用しようと目論まないとは言えない。

事実を知って警戒するのと、そうではない状態で警戒しろと伝えられるのとでは、心構えに雲泥の差が生まれるのだ。

今のように、ほぼ一緒にいる状況であれば、イースティリア自身が警戒し、かつ、周りの情勢に目を配っていれば良いが、今後もこの状態が続くとは限らない。

現に、対象が自分であれど、暗殺計画の話が上がっていることでも分かるように、権力中枢にいるイースティリアの側はただでさえ危険なのだ。

ーーータイア子爵の口から、説明されれば一番良いのだが。

そんなあり得ない希望を抱いてしまう程度には、イースティリアは現在の状況に苦々しい思いを抱いていた。