軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【おまけ⑦】王太子殿下と妃殿下の関係。

バルザム帝国の現王太子であるレイダック・バルザムは、第一王子として生を受けた。

明朗快活、優秀で聡明な第一王子である、と巷では評判らしい。

自分には全く自覚がないし、人の評判などあまりにも悪くなければ、結構どうでもいいと思っている。

むしろ、アザーリエがこの国にいた頃の『妖花に狂った第一王子』というあだ名の方が気に入っていた。

そんなレイダックには、幼い頃から婚約者がいた。

それが、今目の前で愚痴っている、元・公爵令嬢で現在は男装の王太子妃、ウィルダリア・バルザムである。

「レイ、聞いてよー!! イースが嫁に構ってばっかりで、最近結構仕事押し付けてくるんだけどー!」

「いや、今までアイツが一人で処理し過ぎだっただけだろ」

レイダックは、喚いているウィルダリアをあしらいながら、それを悪いことではないと思っていた。

イースティリアがウィルダリアに振り始めたのと合わせて、レイダックにも振って来ているのでこっちも仕事は増えている。

これからアイツが新婚旅行に出かけたら、もっと増えるだろう。

ーーーそろそろ、アイツに頼り切りはマズいと思ってたしなぁ。

さらに、そのイースティリアの妻となったのがアレリラであることも、僥倖だった。

真面目で実直なあの秘書官も、補佐を行う者として正直有能過ぎた面がある。

「そろそろ、イースにも人に任せることを覚えて貰わないといけないと思ってたし、丁度いいだろ」

「え? 人を使うのは上手いでしょ? イースは」

「分かってないな、ウィル。イースは、人を使うのは上手くても、人に任せないんだよ」

「何が違うのさ?」

キョトン、とするウィルダリアもその傾向があるので、レイダックは苦笑した。

「使う、ってのはな、命じるのが上手いってことだよ。でもな、命じられた事をただやる、で済むのは、下の人間だけだ。逆に使う側……人の上に立つ人間を育てられなきゃ、いずれ国が沈む」

それは一年二年の話ではなく、十年、数十年というスパンで組織を蝕む毒となるのだ。

アレリラがイースティリアと結婚するのに合わせて、侯爵家の仕事をする余裕を得る為に、新たに秘書官を二人、召し上げた。

彼らに仕事を振り分け始めた結果、多少の滞りが出ているが、それも悪くない。

帝国全体としては、あの二人が最高の仕事をしてしまうせいで、少々 邪魔(・・) になり始めていたのだ。

一番危機感を覚えたのは、第二王子擁立派に人を操る薬物が出回っていた事件の際。

情報を得るや否や解決に乗り出し、さらに相手の勢力を最小の労力で削ぎ落とした時だった。

それまでもかなり安定していた治世に加えて、レイダックの地位も盤石になったが、このままでは、いずれあの二人を排除する動きが出てしまう上に、帝国全体の人員の能力が落ちてしまう。

有能な人間がいるのは決して悪いことではないが、有能すぎる人間というのは問題があるのだ。

自分達だけで問題を処理できてしまうため、他の人間が育たないのである。

組織運営というのは、本来、一人で出来るものではない。

それを大方やれてしまう上に、真面目で仕事を人に振らないとなると、要となる人物が倒れた際のスペアが存在しない、という弊害が出てきてしまう。

今、多少滞るくらいで仕事のやり方を知る人間が増えるなら、万々歳なのだ。

イースティリアは、アレリラを秘書官に召し上げてから、仕事の抱え込みに拍車がかかっていたので尚更である。

「誰かしか知らない仕事、誰かしか出来ない仕事。そんなもん作ったら専横を許すことになるだろ。代々受け継がれでもしたら、誰もその血統に逆らえなくなる。……そんな立場の人間は、王族だけで良いんだよ」

冷たくレイダックが目を細めると、ウィルダリアはパチパチと瞬きをして。

「言いたいことは分かるけど、似合わないから偽悪的な言い方、やめたら?」

「うぉい! バレバレかよ!」

せっかくカッコよく決めたのに、と思っていると、ウィルダリアが呆れた顔をする。

「何年付き合ってると思ってるの。イースとアレリラが倒れないか心配してただけでしょ?」

「まー、それもあるけど、さっき言ってたことも本当だよ」

見抜かれるのは腹が立つし恥ずかしい。

言いながら、レイダックはウィルダリアのデコを指先で弾く。

「あいた! 何するのさ?」

「お前も、イース以外のヤツに任せることをそろそろ覚えろよ。上に立てるヤツを早く作れ」

上に立つ人材とは、ある程度仕事を把握し、状況を理解して動ける者のことを指す。

長じて上司とは、疎まれつつも『組織や生活を良くする為の仕事を作る』側の人間でなければならないのだ。

その作った仕事を人に任せて動かすのが、本来の上役の仕事なのである。

でないと、例えばイースティリア一人倒れるだけで、あらゆる業務が滞ることになってしまう。

ーーー昔から、他人のこと信用出来ない気質ではあったけどなぁ。

イースティリアが、大体の他人を無能だと認識していた事を、レイダックは知っている。

自分も、ある一点においてはそう認識されていたことも、当然ながら把握していた。

しかし、それを知っていても気にしていなかった。

彼が優秀なのは実際にそうだし、無能と思っていても相手に理があれば提案を飲むのも、命令となればきちんと遂行するのもまた、イースティリアという人間だったからだ。

「ボク? 何でボクまで? っていうかレイこそ作る立場じゃないの!?」

「オレはイースとウィルがいるからいーんだよ」

「えー! ズルい!!」

「何もズルくない」

有能な側近が既にいるのだから、仕事を任せるのは当たり前だ。

しかしブーブーと文句を言うウィルダリアに、レイダックはニヤリと笑う。

「そんな文句ばっか言ってると、大街道整備計画の予算回してやらねーからな。愛しのアザーリエ嬢に、気軽に会いに行ったり出来なくなるな?」

「ぐぅ……っ!! 卑怯だよレイ! ボクの逢瀬の願いを邪魔するなんて!」

王太子妃ウィルダリアは、アザーリエに惚れている。

当時、女でかつレイダックの婚約者であるにも関わらず、アザーリエにぞっこんだったウィルダリアは、社交界で途方もなく有名だった。

本物の妖花狂いは、ウィルダリアの方である。

もっとも、レイダックとウィルダリアの二人がお熱、彼女の家が帝国に名高いロンダリィズ伯爵家、ということで、アザーリエの色香に惑わされていた他の男どもが自制心を働かせていたのも事実だ。

もしそれがなければ、あの本性が臆病な人見知りであるアザーリエは、とっくの昔に誰かにどこかに連れ込まれて『食われて』いただろう。

ウィルダリアとレイダックが、結婚したらアザーリエを後宮に引き込もうとしていたのもまた、有名な話である。

「うぅ〜……で、でも、それがなければレイもアザーリエに会うのが難しいんだよ!? それで良いの!?」

コイツ、まだ気付いてないのか。

レイは呆れた。

「人のものになった女に興味はない。というか、オレは元々アザーリエ嬢にそんなに興味はねーよ」

「そっ……そうなの!?」

ウィルダリアが愕然とするので、レイダックが喉を鳴らして笑う。

アザーリエとは、彼女が色気ムンムンになり始める前からの知り合いだ。

素の性格もちゃんと知っている。

同じポンコツでも、アザーリエよりもウィルダリアの方がポンコツの方向性が好きだったのだ。

北の国との終戦の英雄であるロンダリィズ伯の娘なので、当然ながら懇意にしていた。

その頃から、ウィルダリアはアザーリエが大好きだったが、レイダックが後宮に彼女を入れようと画策していたのは、どちらかと言えば彼女の身を心配したのと、政略面からの話だ。

ロンダリィズとの繋がりを強固なものにするのと、あのままアザーリエを帝室以外が手に入れるのを放置しておけば、彼女の存在自体が騒乱の種になりかねなかったからである。

同時に、アザーリエの安全を保護する意味合いもあった。

「お前がお熱だったからな。しかしロンダリィズ伯の采配は完璧だったな。まさか北の、それも継承権まで持ってるような公爵に嫁がせるなんてな」

聞いた時には、感心したものだ。

それなら、戦争をしていた相手との和平の証拠にもなるし、人脈にもなる。

さらに、国内貴族の誰に嫁がせるよりも不満が出ない。

しかも、婚約者がいるのに彼女に入れ込む者が続出して婚約破棄や解消騒動に発展することが危惧されていた、帝国社交界にも平穏が戻る。

至れり尽くせりの采配だったのだ。

まぁ、目の前のウィルダリアが婚約直後は荒れに荒れて、大変だったりはしたけど。

「ぼっ……ボクが公爵とアザーリエの仲睦まじさを暴露した時に、あんなに、あんなに身悶えてたのにっ!」

「演技だよ」

そうしないとウィルダリアが不満を爆発させることが、レイダックにはちゃんと分かっていたからだ。

「オレが好きなのは昔っからお前だけだよ」

ニヤニヤしながら、十何年越しの告白をしてやると、ウィルダリアが息を呑み、徐々に赤くなる。

「そっ……そうなの……?」

「おう。あ、別にアザーリエを想うな、なんて言わねーから安心しろよ。そうやってアザーリエに騒ぐところまで含めて、お前が好きなんだよ」

正直、相手が男だったらぶち殺してやるところだが、アザーリエは幸運なことに女だ。

眺めていて楽しい部分もあったし、ウィルダリアはこれで、幼い時からきちんと教育を受けていて、親しい相手以外には完璧な王太子妃として振る舞える。

アザーリエ狂なことも、男装も、きちんと務めを……それこそ、房事まで含めて……きちんとこなすからこそ、多少の瑕疵は親しみやすさとして受け入れられているのである。

ウィルダリアは有能なのだ。

「え、そ、それじゃ……その、いつも……夜、優しくしてくれるのも……?」

「そりゃそうだ。愛しい女を抱けるのに、なんでさっさと済ませないといけないんだ?」

ウィルダリアがレイダックに向ける気持ちが、愛情なのか親愛なのかはイマイチ分からない。

が、憎からず思ってくれているだけで、十分だった。

今も、顔を赤くしてモジモジしている可愛い妻が、レイダックとの夜が 悪くない(・・・・・) と思っているのは、乱れ具合からよく分かっている。

ウィルダリア自身も、アザーリエを諦めてからこっち、自分の気持ちがどんな風に変化しているのか、多分理解してないんじゃないかと思う。

が、ここにきてレイダックが自分を意識させたのは、ちゃんと理由があった。

「でも、しばらく夜は行かね」

「え?」

ウィルダリアがショックを受けたように目を見張るのに、レイダックは肩をすくめた。

「抱けないだろうし、寝相が悪くて腹を蹴ったら最悪だからな。後、医者を手配してるから、この後診察を受けろよ」

「え?」

イマイチ分かってない様子の彼女に、こういうところは鈍いんだよな、と思いながら、きちんと伝える。

「お前、自分のことには本当に無頓着だよな。 乙女の日(・・・・) が遅れてるのに、何でオレが気づいてウィルが気づかないんだよ」

「へぁ!?」

彼女の月のものの報告は、当然ながらレイダックに上がってくる。

後継者問題なので、王族にそうした面でのプライバシーは皆無なのだ。

基本的に、何回シたかまで、扉の外で伺われているのである。

レイダックは薄々勘づいていたが、遅れております、と侍女から言われて、すぐに医者を手配させた。

「きっ……気付かなかった……」

「だと思ったよ。そういう訳だ。思い過ごしじゃなきゃ、オレとしては嬉しいけどな」

レイダックは、ますます真っ赤になるウィルダリアに片目を閉じる。

正直、帝位についたら後宮を与えられるとはいえ、政略ではなく『子どもが出来ない』なんて理由で側妃を娶るのは気が進まない。

それこそ、男子が生まれてしまったら、彼女の能力的に危ういとは言わないまでも、ウィルダリアが正妃に相応しくない、なんて声が上がらないとは言い切れないのだ。

もしそんな事を言う奴がいたら、うっかり暗殺してしまいそうなくらい、レイダックは彼女に惚れているのである。

「お母様になる我が妻に、夫として愛を伝えておかなきゃいけないだろう?」

「うん……あ、ありがと……」

「それと、さっきの話。早急に進めなきゃいけない理由分かったか?」

「さっきの……ああ、仕事を任せられる人材、ってやつ?」

「そう。これから体がしんどくなった時に、大街道計画が滞ったら……アザーリエと子どもを見せ合う、なーんていうイベントが遠ざかるかもな?」

「っ!」

青ざめて、ガタン、と立ち上がったウィルダリアが、駆け出そうとするのを防ぐために、レイダックはがっしり腕を掴む。

「レイ、離してっ! 今すぐにでも、人を見つけに行かないとっ!」

「走ってコケたらどーすんだよ。それに、それこそ誰かに命じろ。未来の王太子が流れた、なんてことになったらそっちの方が一大事だ」

そそっかしくて猪突猛進な妻に、レイダックはやれやれ、とため息を吐く。

「心配しなくても、伝えたらそれこそ、イースティリアが見つけて来てくれるだろ。めちゃくちゃ良い人材をな」