軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子爵様はコミュ障なので。

「ウルムン子爵。まずは謝罪をさせて欲しい」

明けて翌日。

呼び出したウルムン子爵に、イースティリア様が軽く頭を下げるのを、アレリラは横に立って見ていた。

「……それは、なん、何に対する謝罪でしょうかっ!?」

ウルムン子爵は、ダークブラウンの髪に緑の瞳を持つ、細身の男性だ。

少し目が悪いようで、視力を矯正する魔導具である、メガネを掛けている。

前髪を上げておでこを出した髪型は理知的な印象で、服装のセンスも悪くない。

しかし、感情が昂ると吃ったり、声が大きくなるクセがあり、それ故に変人という印象を拭えない人物だった。

表情も、落ち着かなさそうに忙しなく視線が動いており、肩に力が入りすぎてすくめる様に窄まっている。

仕事はできる。

顔立ちは整っている。

服装も清潔感がある。

礼儀も弁えている。

しかし、細かな仕草や態度がどこかおどおどしているのが気になる方、なのだ。

「内示にも満たない情報が漏洩したことで、君に心労を掛けたことに対する謝罪だ」

イースティリア様は、こういう場合に貴族的な物言いをあまり好まれない。

腹芸が苦手というのではなく、悪いことには謝罪を、良いことには褒賞を、責任の所在がどこにあるかを明確にし、自身がそれを被るのを厭わない、ということだ。

他人だけでなく自分にも厳しい冷徹宰相、それがイースティリア様の基本的な評価である。

「コロスセオ・ウルムン子爵。私は君の能力を買っている。実直で適切な仕事ぶりは、そうそう並び立つ者はいない素晴らしいものだ」

「……あああ、あの?」

まさか褒められるとは思わなかったのか、ウルムン子爵はあわあわとしている。

指先が小刻みに震えて、膝を叩くように動いているのは、きっと自分が口にした言葉がイースティリア様の耳に入っていることを悟ったからだろう。

「け、けして本気では!」

「私は、貴方の過去の言動を責めるつもりはない。当然の気持ちだろう」

ウルムン子爵の顔が青ざめたのを見てとり、先回りして遮る。

「ゆえに、君ではなくオースティ氏を採用した理由を直接お伝えしようと思った次第だ」

爵位を持たないオースティ氏に劣る……そう言われたと感じていたのだろうウルムン子爵は、ピリリと瞳に険を浮かべた。

彼はプライドが高い。

しかしそれは、自信のなさの裏返しだろうというのが、イースティリア様の見解だった。

でも、バカではない。

きちんとした裏打ちがそこにあれば、ウルムン子爵は納得するだろうと、言っていた。

イースティリア様は、丁寧に自身の見解と、オースティ氏に与えられた立場に必要な能力を説明し、続いてウルムン子爵自身が得意なこと、欠けていることを指摘した。

「君は人とのコミュニケーションが少々苦手なようだ。特に、自分よりも能力や立場が低いと感じている相手に対して、それが顕著に出る。実務能力とは別に、改善すべき点だということは認識してもらわねばならない」

「……はい」

ウルムン子爵は、悔しそうな顔をしながらも、ひどく落ち込んでいるようだった。

自覚があるのだろう。

もしかしたら、ぽんと口から出てしまったことを、時間が経つと後悔する、というタイプなのかもしれない。

アレリラ自身も、後悔はしないものの、何が相手の気に障ってしまったのかと反省することが多かったので、気持ちはよくわかった。

自分と違うのは、その場での感情の制御が利かないこと、なのかもしれない。

ーーー自分の意識でどうにかなる、ことなのでしょうか?

どのようにそれを伝えるのかを、イースティリア様の手腕を参考にさせていただこう、と思いつつアレリラは耳を傾ける。

「君は具体的な目標があれば、それを達成する為に動くのが得意だ。逆に、他人同士、自分と他人との関係性といった、比較的臨機応変に対応する部分については苦手としている。なので、目的を設定し、それに合わせて自身の足りない部分を改善していただきたい。職務の範囲だと認識してくれ」

イースティリア様は、アレリラが差し出した書類を受け取り、ウルムン子爵に差し出した。

「こ、これは……?」

「もし、君の行動に改善が見られた場合、帝都とロンダリィズ伯爵領の間で行う大街道整備計画の一部を任せる。ウィルダリア王太子妃直轄事業だ」

金山管理に負けず劣らず、栄誉ある立場であり、やりがいのある仕事だ。

それを聞いて、ウルムン子爵は目を見開きながら息を呑んだ。

彼は、仕事に対して労力を使いたくない、なるべく楽をしたい、というタイプではない。

どちらかというと、出世欲というよりも重要な仕事を滞りなく終わらせることに喜びを見出すタイプだろう。

内向的で真面目、ゆえに仕事にも率直に取り組むが、対人関係でも率直に相手の言葉を受け取り過ぎるのである。

「今回、君と趣味の合うご令嬢と共に、共同作業をしていただく。伯爵家のご令嬢なので、立場という点では君より上だが、年齢は下で、かつ女性だ」

「え、と。それは、お、お見合いです、か……!?」

自信なさげに彼の瞳が揺れるのに、イースティリア様は頭を横に振る。

「顔合わせ、程度だと思って欲しい。アレリラが同行する。伯爵家のご令嬢との関係が、それ以上に発展するかは君次第だ。だが、彼女に接する際に、留意してもらう点がいくつかある。また、会うのは君が改善する意思がある場合だ」

「あ、ああり、ありますっ!」

ウルムン子爵は、意気込んで身を乗り出した。

ーーー目的と望み。そこに持っていく話術は流石です、イースティリア様。

彼の気質を把握して、やり甲斐のある仕事を報酬に。

またウルムン子爵が、特に女性との距離感を誤る為に特定のお相手がいないことを含めた、状況設定を。

それらを提案したのはアレリラだが、ウルムン子爵に食いつかせたのはイースティリア様だ。

大変勉強になる。

イースティリア様は、本題を具体的に伝えた。

「まず今回の目的は『相手を不快にさせない接し方を覚えること』だ。

君は自信がない。そして自分本位に人に接し過ぎる。『自分がこうだから、人もこうだろう』という気持ちに基づいて行動してしまうからだ。

ゆえに、人の言葉を嫌味と取ることが多いのだろう。そして感情を揺らし過ぎる。

なので一つ目は、まずは自分への相手の態度を、考えることだ。

会話をしながら、相手の表情をしっかり見て、目線の動き、態度、仕草に気を配ってくれ。

そこから、相手が好意を持ってくれているか、不快に感じているか、自分と相手の距離感を相手がどう感じているかを読み取る訓練だ。

二つ目は、何か言葉を口にする際は、一度考えて間を置いてみてくれ。

苛立ったから、楽しくなったから。どちらの理由でも、話し始める前に一度、どう話すか、相手の意図はどこにあるのかを考えること。

お相手のご令嬢には、君が『そういう形で接する』ことを伝えてあるので、喋らなければと焦る必要はない。きちんと待ってくれる。

相手のご令嬢は話し上手だそうだ。

同時に『ウルムン子爵に対して何かを感じた時』には大袈裟な仕草で、また言葉にしてきちんと君に伝えてくれるよう頼んであると聞いている。

同時に、アレリラも目に余るようであれば口を挟む。

最初から細かな機微を読み取れとは言わない。嬉しい時に、不快な時に、相手はどういう仕草をするのか、表情はどうなのか、どういう言葉を使うのか。そういうパターンを覚えていく。

そして覚えつつ、改善する意識を持つこと。

相手を観察し、自分の話す言葉を考え、円滑に話し、失敗したら次は改善する。

本当に出来るか?」

イースティリア様の問いかけに、ウルムン子爵はジッと固まったまま考えているようだった。

与えられる報酬、訓練の内容、自分の立ち位置。

困難さと報酬を天秤にかけられるということは、改善の目があるということだ。

やがて。

「……やり、ます。やらせて下さい」

きちんと考えたのだろう。

多少噛みはしたが、吃らず、落ち着いて、ウルムン子爵は返答した。

「期待している。……アレリラ」

「はい。では、子爵を顔合わせを行う場所へご案内致します。こちらへどうぞ」

「は、はい!」

イースティリア様は執務に戻り、アレリラはウルムン子爵を伴って宮廷を後にした。