軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97.いっちゃんと私と、そして陛下

動揺を隠すように、ごまかすように。

私はお菓子へと手を伸ばした。

ピンクのマカロンをつまんで――――

「なぁん?」

いつもより低い、いっちゃんの鳴き声。

私の動きを止めるように、手の上に肉球がのせられている。

気が付けばピンクのマカロン、苺味のものは最後の一つだった。

「なぁぁぁおぅ~~~~?」

『争っちゃう? 苺マカロンめぐって争っちゃう?』

と、すごむように。

いっちゃんの目が鋭く据わっている。

心なしかしっぽも膨らみ、臨戦態勢のようだ。

「いっちゃん……」

私と陛下が話している間、いっちゃんは無言で苺マカロンを貪っていた。

端っこからもぐもぐと。

一つ一つじっくり味わうように、丁寧に(?)食べていたのだ。

そんなところへ、私が最後の一つに手を伸ばし、反発しているようだ。

「安心して。取らないわよ」

苦笑しつつ、マカロンから指を離す。

いっちゃんは苺ガチ勢だ。

普段ののんびりとした様子から一転、苺に対しては真剣になるのだった。

「にゃっ!」

素早く、いっちゃんがマカロンへと手を伸ばす。

肉球で掴もうとして……。

「どうしたの?」

いっちゃんが前足を止めている。

目を見開き、マカロンを凝視しつつ。

迷うように考えるように、ぴくぴくとおひげを動かしていた。

「…………にゃ!」

上から下へ。

いっちゃんが前足を動かしている。

マカロンと、そして私を、交互に見ているようだ。

「……えっと、苺マカロンを二等分して、私にもくれるの?」

魔術で、真っ二つにしてくれということだろうか?

そう思い聞いてみるも、いっちゃんは首を振った。

「にゃっ!」

いっちゃんの肉球が、陛下を指し示す。

これはもしかして……。

「陛下にも差し上げたいから、三等分して欲しいということ?」

「なうっ!」

『その通り。断腸の思いでお分けするにゃ』

とでも言いたげな、重々しい雰囲気で頷いている。

「……いっちゃん、優しいのね……!」

初対面の陛下にも気遣いを忘れない、いっちゃんの姿に感動していると。

「……ふっ」

小さな笑い声。

陛下だ。

私といっちゃんのやり取りに、笑いをこぼしているようだ。

しまった。

顔が赤くなりそうだ。

当たり前にいっちゃんと話していたけど、陛下も同席していた。

……気を抜いたつもりはなかったけど、どうしてか。

うっかり素が出ていたようで、少し不思議だ。

陛下と私が、一緒に過ごした時間は決して多くなかった。

なのになぜか、よく知った相手のように感じ、振舞ってしまっていたようだ。

「私の分はいらない。おまえと庭師猫で食べるといい」

陛下は無表情を取り戻すと、そう言って紅茶を飲んだのだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

その後お茶会は、陛下から『薔薇の集い』についてお話を聞き終わった。

一年に一度だけ、王家以外の人間に解放される薔薇園。

私と陛下で招待客を案内し、土産に薔薇を花束にして渡すらしい。

かつては生花ではなく、薔薇をかたどった細工物が贈られた年もあったようだけど……。

いずれ失われる、限られた美しさの薔薇だからこそ価値がある。

ここ数十年は、そのような考えのもと、薔薇の生花が贈られているらしい。

毎年、土産が薔薇の生花ばかりでは代わり映えしないという意見もあるようだけど。

細工物を招待客の人数分揃えるのは、出費がかさむので避けたい、という思惑もあるようで。

今年も陛下は、薔薇の生花を贈ることにするらしい。

「……華やかな行事といえど、懐事情はあるものね」

陛下も、色々と苦労しているようだな、と思いつつ。

帰りの馬車の中で、いっちゃんの毛並みを堪能していた。

マカロンで満腹になったいっちゃんが、隣で丸くなっている。

ごろごろと喉を鳴らし、上機嫌の様子だった。

やがて馬車が止まり、ルシアンが扉を開いてくれる。

いっちゃんと一緒に、離宮に向かおうとしたところで―――――。

「いっちゃん?」

するりと地面に降りたいっちゃんが、離宮とは別方向へ歩いていく。

たいていは離宮か、近くを歩き回っているのに珍しい。

どこへいくのだろう?

気になりつつも、離宮の中へと入った。

すると、執事のボーガンさんが近づいてくる。

「レティーシア様、宮廷魔術師長のボドレーー様から、お手紙が来ています」