軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40.ショートケーキと小さな一歩

ジルバートさんに収穫を手伝ってもらい、集まった完熟苺は100粒ほど。

まだ青い苺もあるから、これからしばらくは毎日収穫を続けていくつもりだ。

甘酸っぱい香りを漂わせながら、離宮へと戻りエプロンドレスへと着替える。

厨房に入ると、まずは苺を仕分けていくことにする。

外で育っていた苺には、地面に垂れ汚れ傷みが見られるのもあった。

そういった苺は傷んだ箇所を切り取り、苺ジャムの材料として使用する。

今日作る苺料理は3つ。

使いまわしやすく保存が利く砂糖入りの苺ジャム。

潰した苺を生地に練り込んだ苺のシフォンケーキ。

そして、苺といったらこれだよね!という苺スイーツの代表―――――――――

「しょーとけーき、ですか。作るのも食べるのも初めてですが、ぜひ成功させたいですね」

神妙な顔をしたジルバートさんが、私の書いたレシピメモを見ながら気合いを入れていた。

真っ赤な苺が乗ったショートケーキ。

この世界には存在すらしていなかったけど、苺が手に入ったからには作ってみたい一品だ。

幸運なことに、シフォンケーキ作りの試行錯誤の過程で、ジルバートさんたちも地球産の泡立て器の使い方をマスターしていた。

彼らの助けを借りつつ、この世界初のショートケーキ作りに挑戦することにする。

卵に砂糖にバター、デコレーション用の生クリームといった材料を並べ、まず生地作りから始めた。

ボウルに卵を割り入れほぐし、砂糖を加え円を描くようにしてかき混ぜる。

スポンジ生地が綺麗に膨らむよう、泡立ては湯せんにかけながら行っていく。

卵は温めないと泡立ちが悪く、生地が膨らまなくなってしまうのだ。

あまり温度があがりすぎても失敗なので、途中で湯せんから下して混ぜていく。

目安の温度は確か、人肌程度だったはず。

上手くいきますようにと願いつつ、泡立て器をふるい高速でかき混ぜ、少し速度を落としキメを整えていく。

泡立て器を持ち上げた時、卵液が絡み落ちにくくなり帯状の形が少し残るくらいまで泡立てる。

その後は薄力粉やバターを順番に加え、木べらで混ぜ次第型へと流しいれる。

型を台の上に2回ほど落とし泡を取った後はオーブンに入れ、しばらく待ってから取り出していく。

「いい色と匂いね…………」

焼きたてのスポンジケーキの表面は狐色に色づき、甘い匂いを漂わせていた。

生地の中の水蒸気を出すため型を台に落としたりした後、型から外し網の上で冷ましておく。

その間に、他の料理人たちが調理してくれている苺ジャムの様子を確認し、苺シフォンケーキ作りに着手した。

基本はプレーンなシフォンケーキと同じ作り方で、生地にピューレ状にした苺を加えていくのが違いだ。

電動ミキサーは無いため、ザルの上に苺を乗せフォークで押しつぶしていくことにする。

手作業で地道に、そして匂いが飛ばないよう出来る限り素早く、苺をピューレ状に潰していく。

完成した苺ピューレを使いシフォン生地を作りオーブンに入れると、今度はショートケーキの組み立てに取り掛かる。

円形のスポンジを3枚にスライスし、生クリームを泡立てホイップクリームを作成。

土台となるスポンジの上にシロップを塗り、ホイップクリームを塗り重ねる。

その上にヘタを取った苺を隙間なく並べ、更にクリームを塗っていく。

一番下の層がスポンジ、2番目がクリームと苺、3番目がスポンジ。

そして4層目には、出来立ての濃厚な苺ジャムを塗り、その上の最上層にスポンジを乗せていく。

合計5層になったケーキへと、ホイップクリームを全体に塗り広げていった。

「そして仕上げに、この星口金を使って、っと」

整錬で作り出した星口金と柔らかい布で絞り袋を組み立て、残ったクリームでデコレーションしていく。

銀色の星口金から絞られるクリームは、白くほころぶ花のように可憐だった。

最後に選りすぐりの大粒の苺を並べれば、白と赤で飾られたケーキの完成だ。

「これは………。とても美しいケーキですね。上にのせられた苺が、まさしく宝石のように輝いています」

ジルバートさんがしきりに感心している。

少し恥ずかしくなるが、やはりショートケーキ、この世界基準でも見た目の評価が高いらしく安心だ。

『貧者の宝石』と呼ばれ、嫌厭されていたこの国の苺。

だが、たとえ蔑称であれ『宝石』とあだ名がついているあたり、見た目だけなら高評価のはずだった。

味だって、日本に比べ甘味の貴重なこの世界では、十分一軍を張れる逸材のはずである。

今はまだ、『魔物の宝石』と形が似ているということで、食材扱いされることが少ない苺だけど。

ゆくゆくは苺料理が一般化して、春にはあちこちで食べられるようになったらいいなぁと思っていると、

背後から視線の圧力を感じた。

振り返ると予想通り、ミニサイズのマイフォークを構えた庭師猫のいっちゃんが厨房の入口から覗き込んでいる。

「待ってて。今ケーキを切り分けるわ」

いっちゃんは苺を育ててくれた恩人だ。

さっそくショートケーキを献上すべく、丸いケーキにナイフを入れ切っていく。

切り口からのぞく卵色のスポンジと紅い苺が、綺麗に層になって折り重なっていた。

苺がのったケーキの皿を、いっちゃんの前にそっと置く。

いっちゃんは前後左右からケーキの外見を確認した後、えいやっとフォークを突き刺した。

初めは、三角形の尖った頂点から食べるようである。

クリームを口の周りに付けながらも、どんどんと食べ進めていくいっちゃん。

どうやらいっちゃん、ケーキに乗っかった苺は最後に食べるタイプのようだった。

満足げに大粒の苺をのみ込むと、「にゃっにゃにゃにゃにゃ~~~~」と猫語で感謝の言葉らしきものをこちらに伝え、満腹とばかりに丸くなって眠り始めた。

夢の中のいっちゃんを抱きかかえ、部屋のいっちゃん用ベッドに連れて行った後は、厨房の料理人たちと苺料理の実食会だ。

切り分けられたショートケーキを口にする。

滑らかなクリームに、ふんわりとしたスポンジ、瑞々しい苺の甘酸っぱさ。

舌の上で重ねられたスポンジがほどけ、甘い香りが広がる。

「美味しい…………」

苺のほのかな酸味が爽やかでアクセントになっている。

苺は形を残したままスライスしたものとジャムの2段構えを、一度に味わえるお得なケーキなのだった。

「見て良し、加工しても更に美味しいとは、苺の可能性を今改めて実感しますね…………」

味について、ジルバートさんの太鼓判を得られたようである。

他の料理人たちも、見慣れないショートケーキに驚きつつも、フォークで食べ美味しそうに頬を緩めていた。

料理人のうち、ショートケーキを食べているのは4分の3程。

残りの料理人は、やはりまだ苺の形に抵抗感があるということで、苺のシフォンケーキを試食してもらっている。

ほんのり苺色の生地のシフォンケーキなら、苺の原型が残っていないから大丈夫なようだった。

「うまいな」

「あぁ。前のシフォンケーキも美味しかったけど、こっちの方が甘酸っぱくて俺は好みだ」

「次は俺も、あっちのしょーとけーきに挑戦してみたいな」

反応は上々のようである。

少しずつ苺への抵抗感をなくし、食材として広めるための作戦でもある。

料理人だけあり食への関心は高いようだから、彼らから知人友人へ、いずれ苺の良さを広めていって欲しいところだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

思う存分苺スイーツを楽しんだ後。

夕刻が迫る中、外行きのドレスへと袖を通した。

今日のドレスは、苺のツルや葉を思わせる明るい緑。

侍女の手を借り髪に編み込みと飾りを施すと、ルシアンとジルバートさんと共に馬車に乗り込んだ。

「久しいな、我が妃よ。今日は私に見せたいものがあると聞いていたが、何を用意したのだ?」

謁見の間で出迎えるグレンリード陛下。

陛下はルシアンが両手で持った大きな木箱が気になっているようだった。

「ごきげんよう、陛下。今日はこちらを、陛下に一度お見せしておきたかったのです」

ルシアンが静かに動く。

木箱から取り出されたのは、

「その植物は魔物の宝石………いや、違う。似ているが別物だな?」

「はい、違います。ですが陛下、よく一目でお分かりになりましたね?」

「…………私は鼻が利くからな」

そういうものだろうか?

玉座に在るものとして、毒物の知識にも精通しているのかもしれない。

陛下への尊敬の念を向けつつ、その日の会合は始まったのだった。