軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25.まったり生活の許可が下りました

「健やかなる疎遠関係、か。………わかった、受け入れよう。それこそが、私がこの婚姻に望むものと同じだからな」

陛下が頷いた。

少しホッとする。

どうやら私の言葉は、陛下のお眼鏡に適うものだったらしい。

「陛下、ありがとうございます。普通の夫婦のように触れ合うことは出来ないと思いますが、王妃として影から陛下をお支えしたいと思います」

「あぁ、期待しているぞ。離宮でのおまえの様子は見て………いや、報告は受けているからな。きっとおまえなら、人間と獣人の住まうこの国の王妃として、相応しい振る舞いができるはずだ」

「ありがたいお言葉ですが…………一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何だ? 言ってみろ」

先を促される。

グレンリード陛下、口調こそ尊大だけど、他人の言葉を聞いてくれる度量の持ち主のようだった。

「私の離宮で働く使用人には、何人もの獣人が含まれています。この人選は、陛下のお考えになったものですか?」

「あぁ、そうだ。詳しい人選については下の者に任せたが、獣人も入れるよう指示をしたのは私だ。不満だったか?」

「いいえ、そんなことはありません。離宮の使用人たちは、みな尽くしてくれていてありがたいですが………使用人に獣人も登用させたのは、私を試す意味合いもあったのでしょう?」

私は王城に来るまでの、この国での旅路を思い出す。

町ごとに宿に泊まったが、歓待に現れた従業員は、いつも決まって人間ばかりだった。

獣人の従業員が存在していないわけでは無い。

宿屋なりの、あれは私への配慮であるはずだった。

基本的にこの大陸の人間は、獣人に対し良い感情を抱いていないのが大半だ。

だからこそ、私の機嫌を損ねることを恐れて、出迎えの従業員から、獣人は外されていたのだと思う。

私自身は獣人に嫌悪感は無いけど、宿屋の行動も理解できるのである。

そういった事情を考えると、離宮の使用人に何人も獣人が雇用されているのは、少し疑問だったのだ。

深い意味は無いかもしれなかったけど、陛下の返答からすると違うようだった。

「陛下直々に、獣人を使用人にするよう指示したということ。それはつまり、私が獣人の使用人に対しどんな対応をするか、見極めるつもりだったのではないでしょうか? もし私が獣人を毛嫌いし虐げていたら、陛下はどうなさるつもりだったのですか?」

「おまえがそういう人間だと理解し、相応しい対応を取るだけだろうな」

「…………そうでございましたか」

陛下はぼかしてるけど、愉快な状況にならなかったのは確実よね、それ?

名実ともに『お飾りの王妃』扱いを徹底され、離宮に軟禁状態くらいはあり得そうだ。

使用人の人選の意図がわかりすっきりしたが、それとなく試されていたようだった。

「…………おまえは納得しているようだが、怒らないのか? 一方的に試されていたのだぞ?」

「怒るというより、正直安心いたしました」

「…………それは一体どういうことだ?」

「陛下が、こちらに興味を持っていてくれたからです。離宮に放置されるのは、私の望みとも一致していましたが………。だからといって、陛下がお飾りとはいえ妃である私の人となりも確かめず放置するのは、国王として危ういのではと思っていたのです。ですが陛下は、それとなく私の人柄を確かめるため、手を打っていたのです。ただ放置されるより、ずっと安心できると思いませんか?」

「…………試されてなお喜ぶとは、変わり者なのか賢者なのか、おまえはどちらなのだろうな?」

「さぁ? 判断は、陛下にお任せいたしますわ」

…………変わり者扱いときましたか。

お飾りの王妃として求められるであろう答えを口にしたつもりだけど、前世の記憶が蘇って以来、多少この世界の常識とズレている自覚はあるから、変人に見えたのかもしれない。

解釈を陛下に放り投げ微笑んだ後、この場に来た一番の目的を果たすことにする。

「私に獣人を虐げる意図が無いことは、陛下にも理解していただけたと思います。そこでお聞きしたいのです。陛下は獣人のこと、そしてナタリー様のこと、どう思われているのですか?」

陛下の連なる王家はいくどか獣人の妃を迎えたとはいえ、大本は人間の家系だ。

陛下には獣の耳も尻尾も無いし、外見は普通の(ただしとても顔がいい)人間だった。

ちなみに人間である陛下が、獣人と人間の暮らすこの国の王として認められているのは、理由がいくつかあったりする。

一番大きな理由は、陛下の祖先が狼の精霊だったという伝説の持ち主だからだ。

人間であると同時に、狼の末裔を名乗ることができる家系だからこそ、人間も獣人も王として認めているのであった。

………伝説はしょせん伝説にすぎないとしても、そこらへんの建前って大切だものね。

「…………今日私は、ナタリー様の離宮に招かれ、彼女らが獣人を下に見る態度を見せつけられました。陛下はそんなナタリー様のことを、どうお思いになっていらっしゃるのですか?」

「ナタリー個人には、正負どちらの感情も無いのが正直なところだ。あれは正しく、人形でしかないからな」

陛下の返答は、少しだけ理解できる気がする。

ナタリー様はお綺麗なのだけど、よくできた人形を相手にしているようで手ごたえが無かったのだ。

「…………だが妃候補として評価するなら、現時点では妃には程遠いというのが本心だ。ナタリーの背後にいる彼女の父親や、叔母のディアーズが厄介だからな」

ディアーズさん達を排除できるものなら排除したいというのが、陛下のお考えなのかもしれなかった。

だが、この国の西部の貴族は獣人を下に見ているのが標準だ。

獣人への差別的な態度以外、今のところ目立った失態も無い以上、一方的に妃候補から外すのも難しいようである。

「陛下のお考えを聞かせていただき、ありがとうございます。私も、ナタリー様たちと懇意にするつもりはありませんが、それでよろしいでしょうか?」

「あぁ、その方針で間違いない。状況が変わったらまた知らせるから、おまえは離宮で安らいでいるといい」

よかった。

離宮でのんびり生活のお許しが、陛下直々に出たようである。

陛下自身、ナタリー様たちを優遇する気も無いようだから、一安心だった。

それだけで、今日離宮から出てきたのは十分な収穫だ。

あとはもう離宮に帰って、思う存分狼たちと戯れていたかった。

マズイ料理を食べさせられ、ディアーズさんと一言多い料理長に耐え、陛下と問答を行ったのだ。

そろそろ疲れてきたし、美味しい料理ともふもふに癒されたいものである。

今日もあの銀狼に会えるかなぁと思いつつ、私は陛下の元を辞したのだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「なんなのだ、あの女は…………?」

残されたグレンリードは、レティーシアの去った方角を見て呟いた。

森の離宮を与えた意味、自分が離宮を訪れない意図、使用人に獣人を入れた理由。

その全てをレティーシアは正しく理解し、満点と言っていい返答をしていた。

それでいて自らの頭脳を誇ることも無く、王であるこちらを立てていたのも好印象だ。

お飾りの王妃としては申し分なく、これ以上ない拾い物と言えるかもしれなかった。

2年間の風よけとして、置物程度に役立てばいいと思っていたのが本音だ。

思った以上に聡明な妃を得られ、幸運なのかもしれなかったが―――――――――――――――

「落差が激しすぎる…………」

グレンリードは眉を寄せた。

公爵令嬢として、そしてお飾りの王妃として完璧とも言えるレティーシア。

だがそれだけではないと、グレンリードは知っているのだった。

『もふもふもふもふもっふもふ~もふはもふだからもっふもふ~』

などという意味不明な鼻歌を歌いながら、狼たちを撫でまわすレティーシア。

阿呆な小娘にしか見えない姿を、銀狼に化けたグレンリードはしっかりと目撃していた。

さすがにレティーシアも、エドガーや他の人間がすぐ近くにいる時には鼻歌を控えていた。

一応、他人には見せられない姿だと理解しているらしい。

「嫌いではないがな…………」

人間の姿の自分の前では美しい、だが感情の読めない笑顔しか浮かべないレティーシア。

澄ましたその顔が緩むさまを見るのは、なかなか面白かったりするのである。

完璧な令嬢の顔と、能天気な少女の顔を併せ持つレティーシア。

お飾りとはいえ王妃として迎えた以上、その本性を確かめる必要があったし、漂う異質な匂いの正体も気になった。

「…………明日にでもまた時間を作り、銀狼に化けて監視しにいってみるか」

つい先ほど、疎遠関係を受け入れてしまったのだ。

人間の姿では難しいから、銀狼の姿で会いに行くのが当然だと、そう自らを納得させたグレンリードなのだった。