軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21.西の離宮のお妃候補

私という王妃がいながら、何故王城内の離宮にお妃候補が住んでいるのか?

捻じれた状況の原因は、ヴォルフヴァルト王国の建国時にまで遡る。

グレンリード陛下のお生まれになった王家は、辿れば数百年の歴史を持つ古い家系だ。

しかしウォルフヴァルト王国の歴史は、まだ百数十年ほどでしかない。

当時このあたりには、グレンリード陛下のご先祖が治める国を含めた、5つの小国が存在していた。

5つの小国は小国ゆえ舐められ、外敵に悩まされることも多かったらしい。

そこで近隣国家や魔物の脅威に対抗するため、小国の中では最も勢いのあったグレンリード陛下のご先祖様を共通の王としてかかげ、1つの国として団結することになったのだ。

今私のいる王都を含む一帯が、グレンリード陛下のご先祖様が代々治めていた土地に当たっている。

そして国の中央部に位置するこの土地の東西南北を、かつての4つの小国の領地が取り囲んでいるのが国土のあらましだ。

今でこそ一つの国だが、百数十年前までは別の5つの国だったわけで、国内は未だ一枚岩には程遠いのが現状だった。

王家こそグレンリード陛下の家系一つとなったが、他の4つの小国の王家の末裔も、いまだ公爵家として大きな権力を握っていたのである。

そんな状態は、代々の妃選びにも如実に影響を与えていた。

基本的にお妃様は、かつての4小国の王家の末裔の公爵家から選ばれている。

愛妾となると少し事情が異なるけど、歴代のお妃様は4公爵家の出身がほとんどだ。

代々の王は、4公爵家がそれぞれ擁立した王妃候補の中から、毎回正妃を選んできている。

現にグレンリード陛下にも2年前に、4公爵家からそれぞれ、王妃候補が差し出されていた。

当時のグレンリード陛下は父王の急死により即位して、ようやく一年が過ぎた頃だ。

銀狼王の異名を持ち、戦場で多大な功績をあげた陛下だったが、まだ国内での影響力は盤石には遠かった。

だからこそ、4公爵家の擁立する王妃候補を、離宮に受け入れざるを得なかったのである。

4人のお妃候補は王城内の離宮に住まい、我こそは王妃にと、静かに争っていたらしい。

彼女たちは陛下に対してもアプローチをかけていたが、女嫌いの陛下が靡くことは無かったと聞いている。

………陛下の女嫌いってたぶん、政治的な方便でもあると思うんだよね。

陛下は今、即位してから3年目で、国内での地盤を固めている真っ最中だ。

今すぐ王妃を定めれば、外戚が出張り国政を乱される可能性も高かった。

そんな未来図を回避するために、白羽の矢が立ったのが私だ。

4人の王妃候補から妃を迎えたくないが、いつまでも王妃の座が空のままでは難しい。

そこでとりあえずのお妃様、お飾りの王妃として、私が選ばれたのだった。

繰り返しになるが、この国の王妃は国内の4公爵家から選ばれるのが通例だ。

この国の誰も、そして私自身も、私がこの先ずっと王妃のままでいるとは思っていないのである。

陛下が自らの地盤を固め、生涯寄り添うお妃様を選ぶまでの時間稼ぎ。

私に求められた役目はそれ以上でもそれ以下でも無く、期間限定のお飾り王妃に過ぎなかった。

『白い結婚』を貫き、二年間を過ごせばお役御免で王妃の座を退くのが私だ。

そんな状況だからこそ、4人のお妃候補もいまだ離宮に留まっているし、将来の王妃の座を狙い続けているのだった。

「レティーシア様、ようこそナタリー様の離宮へいらっしゃいました」

恭しい態度で、使用人のお仕着せを着た男性が頭を下げる。

ナタリー様―――――王妃候補の一人であり、かつての4小国の一つ、西の小国を治めていた王家の末裔のご令嬢だ。

ナタリー様の離宮は、精緻な彫刻の美しい石造りの館だ。

本城から西に少しの距離であり、ぶっちゃけ私の離宮より立地も建物も数段上等だったりする。

なぜああも辺鄙な離宮を与えられたのか理由はいくつか推察できるけど、私自身は困っていないので追及していなかった。

森の中にある私の離宮。

人気の少ないあの場所は、まったりマイペースに過ごすにはうってつけだった。

狼達と戯れ、気ままに料理に関われる毎日を与えてくれたこと。

グレンリード陛下の真意はどうあれ、私は感謝していたのである。

ゆったりとした毎日。

だが同時に、お飾りとはいえ一応私は王妃だ。

4人のお妃候補たちはここ十日間ほど、誰が私と最初に接触するか水面下で駆け引きし、結果的にナタリー様が私を招くことになったらしい。

今でこそ王妃候補の一人だが、数年後には正式に王妃となるかもしれないナタリー様。

彼女の誘いを無下に断ることも出来ず、愛しの我が離宮から、スローライフを一旦停止し足を伸ばし出てきたのだ。

ナタリー様がどんな方か、直に確かめたかったのはある。

あるのだが…………。

…………少しめんどうで、憂鬱なのが本音だ。

「レティーシア様、ご入室なさいます」

使用人が声をあげ、食堂への扉が開かれた。

扉の向こう。

ふんだんにガラスの使われた食堂は、美しい内装をしていたけれど。

すでに今の時点で、鼻にくる香辛料の匂いが漂っている。

卓上に料理はまだない。

私が着席後に運ばれてくるはずだから、今匂っているのは、食堂に染みついた残り香のようなものだ。

料理そのものが無いにも関わらず、既にしてこの匂い。

憂鬱を深めるには十分な状況だ。

内心ため息をついていると、薄水色の髪の少女がこちらへと視線を向けてきた。

「レティーシア様、ようこそいらしてくださいました。私達一同、心より歓迎いたします」

ガラスの鈴を鳴らすように美しい。

それでいて無機質な声が、小ぶりな唇から零れ落ちた。

ヴォルフヴァルト王国西部を治める公爵家のご令嬢。

西の離宮に住まう、最年少のお妃候補。

香辛料の匂う場で会ったのは、人形のように整った顔の美少女だったのである。