作品タイトル不明
113.外に出ようと思います
サンドイッチを食べ胃を満足させた後は、陛下とお話の時間だ。
食後のお茶を飲みながら、陛下に一つ頼みごとをすることにした。
「……王城の外に出たい?」
「はい、そうです。陛下の許可をいただきたいんです。王妃として街を歩くと人が集まってしまうでしょうから、ひっそりとお忍びで、王都を巡ってみたいんです」
「護衛はどうするつもりだ?」
「すぐ傍には、護身術を修めた私の従者・ルシアンをおきたいと思います。他にも何人か、実家から連れてきた護衛に、少し離れた位置で待機してもらうつもりです」
「そうだな、それならば大きな問題はなさそうだが……。念のためこちらからも、護衛の騎士の手配をしておこうか?」
「助かりますわ」
私には自衛能力として魔術があるが、街中で咄嗟に使いにくかった。
ルシアンに加え何人か護衛がいてくれれば、そうそう危険な事態には陥らないはずだ。
「いつ頃、王城の外へ出向くつもりだ?」
「できるだけ早くがいいですわ」
「何か町に用事や、気になるものでもあるのか?」
「王都の食べ物や、流行の店に興味があるんです。私はここのところ、この国のご令嬢方を招いて茶会をしています。彼女たちの会話で出てきた王都の人気店や料理を、この目で見て食べてみたいんです」
いいよね食べ歩き。やってみたいよね王都散策。
離宮でまったりするのもいいけど、王都の調査がてら、お出かけも楽しみだった。
「なるほど、確かにお茶会の招待主としては、流行を押さえておいた方がいいだろうな」
陛下が小さく頷いている。
納得してくれたようだ。
「おまえが離宮で開くお茶会は、大層評判がいいと聞いている。一度だけでなく、何度もお茶会を訪れる令嬢もいて人気のようだな」
「ありがたいことです。……人間と獣人、東部出身者と西部出身者。長年の隔たりのせいで、内心交流を望んでもできなかった方が、たくさんいるようでしたからね」
お茶会の目的について、陛下がどう思っているのか。
一歩踏み込んで、陛下に踏み込んで聞いてみる。
「……そのようだな。私としても、おまえの茶会がきっかけになって、地域ごと種族ごとの分断が弱まってくれたらと思っている」
良かった。陛下もやはり、お茶会は応援してくれるようだ。
お飾りの王妃でしかない私の行動を、表立って陛下は支援はできないだろうけど、それでも心強いお言葉だった。
「陛下、ありがとうございます。これからも様々な方を招いて、お茶会を開いていきますわ」
「……様々な方、か……」
陛下が何やら呟いている。
私の言葉で、気になることでもあったのだろうか?
どこかむっとしたような、心無し不機嫌そうな気配がしている。
「陛下、どうされましたか?」
「貴族の令嬢たちを招き、仲を取り持つのは問題ない。……だがそれ以外の、正体の知れない相手と茶を共にするのは程ほどにしておけ。つい昨日も、平日の画家を茶に誘おうとしていたんだろう?」
ヘイルートさんのことだ。
特に隠していることでは無いので、陛下の耳にも入っていたらしい。
「心配していただきありがとうございます。ですが、ヘイルートさんなら大丈夫だと思います。私の兄の友人ですし、彼は入場許可証を持った人間ですから、身元は保証されていますもの」
私の離宮は、王城内の一角に位置している。
王城の敷地は広大で、一部区画をのぞけば、内部ではある程度自由な行き来が可能だった。
ただしその代わり、王城の中へ出入りするには手続き必要になってくる。
住み込みの使用人以外は、審査を受け入場許可証を提示しなければならなかった。
「……確かに、それはそうであるだろうが……」
私の説明にも、陛下はなぜか納得しきれていないようだ。
ヘイルートさんの存在に難色を示す陛下を見て私は、
「陛下って少しだけ、ぐー様に似ていますね」
思わずそう呟いていた。
◇ ◇ ◇
「陛下って少しだけ、ぐー様に似ていますね」
レティーシアの放った言葉に、グレンリードは一瞬固まってしまった。
(なぜ、どうしてここで、ぐー様の名前が出てくるのだ……?)
動揺を表に出さないようしつつ、レティーシアの意図を探ることにした。
「いきなり何を言う? 私のどこが、狼に似ていると思うのだ?」
「あ、申し訳ありませんでした。あれだけじゃ、意味がわかりませんよね」
そう答えたレティーシアに、変わった点は無いように見受けられた。
いつも通りの、美しい笑みを浮かべたままだ。
グレンリードは神経を研ぎ澄まし、レティーシアの様子を注視した。
「深い意味はありません。昨日のことなのですが、私の離宮にきたヘイルートさんのことを、ぐー様が威嚇していたんです。ヘイルートさんを邪険にする姿が少しだけ、今の陛下と重なってしまっただけですわ」
「……そういうことか」
そっと内心で、グレンリードは息を吐きだした。
レティーシアの言葉に嘘は無い。
怪しい様子も無かったし、なによりグレンリードの特別な『鼻』が、彼女の言葉に嘘の気配が無いと伝えてきている。
一安心しつつ、グレンリードは唇を開いた。
「ぐ―様とやらが何を考えているかは知らないが、私は別に、そのヘイルートという画家を厭っているわけでは無い。ここのところおまえは多くの人間を離宮に招いているようだから、警戒心を忘れないよう、一言言っておこうと思っただけだ」
嘘と本心を織り交ぜ、グレンリードは言葉を紡いだ。
(ヘイルートはあぁ見えて、ライオルベルンの王太子に仕える間諜だ)
そのことにおそらく、レティーシアはまだ気づいていないはずだ。
聡明な彼女のことだから、そうそうヘイルートに出し抜かれ被害を被ることも無いだろうが、なぜか気にかかるのだった。
(……お飾りとはいえ、レティーシアは私の王妃だ。万が一があるかもと、気になるのも自然かもしれない)
そう考え、グレンリードは自らを納得させた。
レティーシアの方も、一見納得しているようだったが、
「そうでしたか。勘違いして申し訳ありませんでした。……ところでグレンリード陛下は、ぐー様のことをどう思っていますか?」
更なる問いを投げかけてきた。