軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

100.ヒヨコの目つきは意外と鋭いと思います

魔術局でボドレー長官と会話する私の前に、もふもふ達が続々とやってきた。

「ぴぃぴぃ!」

「ちぃっ! ぴよっぴー?」

「ぴぴよぴっ⁉」

もふもふ達はヒヨコにそっくりだった。

ただし、大きさはまるで違っている。

二本の足で立って歩いている今、嘴が私の頭の位置より高かった。

「黄色に黄緑、水色、それに桃色……」

巨大ヒヨコ達の羽毛は、一羽一羽色が違っている。

ベーシックなレモンイエローを筆頭に、それぞれパステルカラーの羽毛に包まれていた。

共通しているのは、黒い瞳の色くらいのようだ。

「この子たちはもしかして……?」

「くるみ鳥です」

レティーシア様はご存じでしたか、と。

そう言ったボドレーさんの言葉に頷きつつ、くるみ鳥の顔を見上げた。

「かわいい……! ……結構目つきは鋭いんですね」

ふわふわとしたぬいぐるみみたいな外見だけど、意外と目つきは鋭かった。

私の頭の上からじっと、黒い瞳をこちらへと向けている。

ほわほわとした羽毛と鋭い瞳の組み合わせが、とても可愛らしかった。

「私の掌と同じくらい大きな瞳を持ってるんですね」

「はい。こいつらは体は大きいですが、人なれした性格をしてますから、危険はありませんよ。ほら、このように、っと……」

「ぴっ!」

ボドレー長官が右腕を横へ差し出す。

するとライムグリーンのくるみ鳥が、てちてちと歩み寄ってきた。

ボドレーさんの右腕へと、柔らかな羽を押し付けている。

「……ボドレー長官、埋まっていますね……」

横に大きなボドレー長官の体ほぼ全部が、ライムグリーンの羽毛に包まれていた。

くるみ鳥が小刻みに頭を動かしながら、体を密着させている。

ボドレー長官、二本の足しか見えない状況だけど、呼吸は大丈夫なんだろうか?

「はは、心配なさらずとも私は平気ですよレティーシア様」

もふもふ毛玉から声がする。

私の疑問に答えるように、ややくぐもった、ボドレー長官の声が聞こえた。

「くるみ鳥も、加減は心得ていますからな。レティーシア様はくるみ鳥の癖についてご存知ですかな?」

「こうして実際に、生で見るのは初めてですが……。くるみ鳥は幻獣の一種で、魔力を帯びた生物や物体に体をすり寄せる習性があると聞いています」

魔力の持ち主に惹かれ、羽毛でくるむように近づく幻獣。

だからこそ、くるみ鳥という名前がついたようだ。

「さすがですなレティーシア様。よく勉強なさっているようだ」

「ふふ、ありがとうございます。私も魔術師ですから、くるみ鳥に書かれた書物を読んだことがあったんです」

それに元々私、もふもふ好きだしね。

前世の記憶が戻ったのは数か月前だけど、その前からずっと犬や猫、もふもふとした生き物は好きだった。

生まれ変わってもそこらへんの好みは変わらなかったらしく、くるみ鳥について調べたことがあった。

「くるみ鳥の羽は魔力を蓄えやすい性質で、上質な魔術の触媒になるのですよね? 今こうして、ボドレー長官のことをくるんでいるのも、魔力を補充しようとしているのでしょう?」

「その通りです。このくるみ鳥は特に、私の魔力を好んでいますからな」

ふよふよ、そよそよ、と。

ボドレー長官の声に合わせ、くるみ鳥の羽毛の一部が揺れ動いた。

どうやらそのあたりに、ボドレー長官の顔が埋まっているようだ。

「くるみ鳥は個体ごとに魔力にこだわりが――――」

「ぴくしょんっ‼」

「きゃっ⁉」

吹き付ける突風に、ふわりと髪が舞い上がった。

くるみ鳥のくしゃみだ。

ボドレー長官の声と息がくすぐったかったらしい。

体が大きいだけあって、結構な勢いの風だった。

「おっと、失礼失礼、っと」

ライムグリーンの毛玉から、ふくよかなボドレー長官が出てきた。

「おまえ、これで今日の昼の分は満足だろう? しばらく私を自由にしれくれ」

「ぴぃ……」

まだ満足してないんですが……。

と、言いたげなくるみ鳥の様子だ。

しかしよく躾けられているようで、ふわふわとした体をボドレー長官から離した。

「よしよし、いい子だ。……さてレティーシア様には、どこまで話しましたかな?」

「くるみ鳥と魔力の関係についてです」

「おお、そうでしたな。レティーシア様もご存知かもしてませんが、くるみ鳥というは一羽一羽、羽毛の色が異なるように、魔力の好みも違いがあるんです。好みの魔力の持ち主のことはくるんで離さない習性があって、ご覧の通りですな」

ライムグリーンのくるみ鳥はチャンスをうかがうように、ボドレー長官のことを見つめている。

愛らしくも鋭い瞳が、柔らかな羽毛の中で輝いていた。

巨大なヒヨコそっくりの姿だが、れっきとした幻獣。生態は大きく異なっている。

くるみ鳥は、魔力を主食にしているらしい。

きまった形を持たず普段は不可視の魔力だが、この世界に確かに存在しているのだ。

くるみ鳥は体を覆う羽に魔力をため込み、皮膚を経由して消化すると言われている。

魔力さえ十分であれば、口にするのはわずかな水だけで良いようだった。

いっちゃんが苺を溺愛するように、このくるみ鳥はボドレー長官の魔力がお気に入りの食材のようだ。

人間は全員、多かれ少なかれ魔力を持っているが、魔術を使えるのはほんのひと握り。

上位1%以下の強い魔力の持ち主だけだ。

魔術局長官であるボドレー様の魔力は、くるみ鳥にとって質量揃ったご馳走のようななものだった。

「ぴぴっ……」

先ほどまでボドレー長官にひっついていたくるみ鳥が、廊下に座り込んでいる。

羽毛を震わせながら頭を上下させ、ボドレー長官の魔力の味を反芻しているようだ。

目を細めるライムグリーンのくるみ鳥を、周りの色とりどりのくるみ鳥たちがどこか羨ましそうに見ている。

「ここのくるみ鳥たちには毎日何度も、魔力をあげているのですか?」

「はは、食い意地が張っていますからな」

魔力の味。

想像しかできないけど、くるみ鳥たちにとってはとても美味しいもののようだ

貪欲に美味しさを求める姿に、親近感を覚える幻獣だった。

「この魔術局にはこの国で一番、魔力の強い人間が集まっていますからな。うちの魔術師たちが毎日魔力をやるために、ここでくるみ鳥を飼っているんですよ」

「……噂には聞いていましたが、こうしてくるみ鳥がたくさんいるところを見ると、興味深いですね」

くるみ鳥たちは我慢できなくなったのか、それぞれお気に入りの魔術師の近くへ行っている。

先ほど私とひと悶着があった魔術師、リディウスさんの黒い頭も、水色のくるみ鳥に半ば埋もれていた。

「直にくるみ鳥を見させていただきありがたいのですが……。こうして私が、この場にいても大丈夫なのでしょうか?」

大多数の幻の獣に漏れず、くるみ鳥は貴重な生き物だ。

抜け落ちた羽は魔術触媒になることもあり、かなりの値段で取引されている。

くるみ鳥が何羽も飼育されているのは、このヴォルフヴァルト王国の魔術局だけだ。

おいそれと、他国出身者である私が目にすることは出来ないはずの幻獣だった。