軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98.魔術局にお邪魔します

ボドレーさん、かぁ。

宮廷魔術師長を務める彼と初めて顔を会わせたのは、陛下の生誕祭の時だ。

私が『整錬』で作ったシフォンケーキ型に、かなり興奮した様子を見せていた。

ここのところ王都から離れ出張していたようだが、帰ってきたらしい。

私を魔術局へと招き、『整錬』やもろもろの魔術について、話を聞きたいと手紙にしたためられていた。

「レティーシア様、どうなさいますか?」

ルシアンが、気づかわしげに尋ねてきた。

「レティーシア様の魔術の腕前を直接見られると、少々面倒なことになるかもしれません。適当に理由をつけ、魔術局への招待は断りましょうか?」

「その必要は無いわ。一度断ったくらいじゃ、向こうも諦めないと思うし……」

私はナタリー様とケイト様の間を取り持ち、お茶会をしている。

のんびり生活しつつも、この国のためにできることを、やっていこうと思ったからだ。

ボドレーさん達宮廷魔術師との関りも、避けては通れないのだった。

「だから、今回の招待を受けようと思うの」

「承知いたしました。では私も、仕込み武器など、さっそく準備いたしますね」

「仕込み武器……。いえ、今回はそれは、必要ないと思うわ」

苦笑してしまう。

ルシアンにとって一番印象的な魔術師は、私のお兄様たちだ。

上の二人のお兄様はよく、私に魔術の稽古をつけてくれた。

つけてくれたのだけど……。

かなりのスパルタ、愛の鞭だった。

魔術の基礎理論から始まり、実戦形式の訓練へと。

二番目のお兄様は剣術を修めていたから、魔術と剣術をフル活用して立ちふさがるのだ。

上二人のお兄様のしごきを乗り切るため、私と三番目のお兄様、そしてルシアンで協力していた。

そのおかげでルシアン、仕込み武器や暗器スキルがぐぐっと上昇したもんね……。

「魔術師の全員が、お兄様たちのような人では無いから大丈夫よ」

「……はい。それは重々承知しているのですが、こう……。武器を仕込んでおかないと不安と言いますか」

「……気持ちはわかるわ……」

ルシアンと二人、遠い目になってしまう。

それほどまでにお兄様たちの魔術訓練はがっつりと、爪跡を残しているのだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「あ、レティーシア様、今からお出かけですか?」

離宮の玄関を出ると、柴犬騎士……もとい、キースがやってきた。

「えぇ。魔術局に招待されたの。今日はキースが、私の護衛担当かしら?」

「はい! 魔術局に向かうのでしたら、一層気合を入れたいと思います!」

尻尾をぴんと立て、キースが宣言した。

気合十分といった様子で、槍をしっかりと握りしめている。

御者席に乗り込んだキースと共に、馬車に揺られ始める。

魔術局は王城内にあるが、それなりに距離が空いていた。

私の離宮と同じように、魔術局も王城の端っこにあるからだ。

「わかりやすいわよね……」

魔術局の立地はそのまま、この国での魔術局の位置づけを現わしている。

私の生まれ育ったエルトリア王国と比べ、この国は魔術師の数が少なかった。

国政における存在感も小さく、隅へと追いやられがちのようだ。

「あれが、魔術局の建物ね」

林を背後に従えた、煉瓦造りの建物だ。

招待された時間までまだ間があるので、少し手前で馬車を降り、散策しがてら歩いていく。

建物の周囲は空き地だ。

魔術の実験や演練を行うためだろうか?

魔術の触媒を置くための、台などが設置されている。

どのような実験を行っているのか、想像しながら歩いていると、

「おい、君」

背後から話しかけられる。

振り向くと、一人の青年がいた。

ルシアンと同い年か、少し上くらいかな?

服装は魔術師らしく、紺のマントを詰襟の服の上に羽織っている。

やや長めの黒い前髪が、目元へと影を落としていた。

「こんなところで何をしている?」

「魔術の実験場を見学していました。魔術師として、どのような実験を行っているか気になったのです」

「実験場を、君が……?」

青年が眉を寄せ、いぶかしんでいるようだ。

緑色の瞳を、私の背後のキースへと向けている。

「本当に君は魔術師なのか? そんな風に、獣人を引き連れているのに?」

「……なんだよ」

うなり声をあげるように、キースが口を開いた。

いつになく好戦的なキースに、青年も気配を尖らせる。

「俺に何か文句あるのか?」

「疑問があるだけだ」

「レティーシア様のお言葉を疑うのか?」

「……レティーシア様、だと……?」

青年がますます、眉間にしわを寄せていく。

「そんなわけないだろう。レティーシア様はエルトリア王国の出身だと聞いている。そんな彼女が、獣人を傍に置くわけがない。レティーシア様の名を騙り、何が目的なんだ?」

魔術を行使せんと、青年が腕を持ち上げる。

応じて、キースが槍を手に身構える。

一触即発の状態だった。

「二人とも、落ち着いてください。私は確かに、レティーシアですわ」

二人をなだめつつ、実験場を見回す。

広々として、人はいない。

うん。これなら問題なさそうだ。

『----手に赤を。立ち上がる舌先。燃えがる熱を今ここへ!!』

魔力を練り上げ呪文を詠唱。

炎が生まれ舌先を伸ばし、高々と十メートルほど、赤く勢いよく燃え上がった。

「……上級魔術を触媒も無く、詠唱を短縮して……?」

青年が頬を熱風に叩かれ、目を見開いていた。

「これで私が魔術師だと、レティーシアだと認めていただけましたか?」

「……あぁ」

私の問いかけに、青年は頷いたのだった。