軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地下資源、それは……

「ふぅ……だいぶ掘り進んだな」

ドワーフのドグはガンドルフの町を離れて、今は故郷であるドンチャッカ国に帰ってきていた。

ガンドルフの町でマテリに負けて、ミリータを送り出した彼は『地壊』の異名をとる実力者だ。そんな彼にドンチャッカ国から帰国の要請がある時は大体よくないことだった。

ガンドルフの町の鍛冶屋は若手に任せて、ドグは鉱山を掘り進んでいる。仲間のドワーフも汗まみれで採掘作業に勤しんでおり、常に緊張した面持ちを崩さない。

「ドグさん。本当に採掘できるんですかね?」

「バトルキングがそう言うんだ。嘘はねぇだろ」

「あのバトルキングなら自分で戦うなんて言いそうですがね……」

「それだけ事態を重く見ているってことだろ。無駄口を叩かないで作業しろ」

地壊のドグ率いる採掘部隊は採掘だけに没頭すればいいわけではない。ドワーフの王であるバトルキングは彼らに任務を与えた。

ドンチャッカ国内の無数にある坑道の一つであるこのラプタ坑道には近頃、新種の魔物が現れるという。今回は討伐と原因となっているものの採掘を命じられていた。

ただの魔物であれば屈強なドワーフ達であれば後れを取ることなどない。

酒や女よりも闘争を好むバトルキングがドグにその任務を託した理由、それは彼自身も他の場所で仕事をしているからだ。

つまり一人でも多くの腕自慢がほしいということ。ドグは特段、戦いが好きというわけではない。

仕事に必要であれば魔物と戦ってでも自給自足をするというだけだ。だからこそドグは今回の任務にあまり乗り気ではない。

「ドグさん! 後ろからギガントワームがきた!」

「チッ! 忙しい時に!」

ドグがハンマーを構えて、ギガントワームを迎え撃つ。

レベルが90を超えるエンシェントワームほどではないにしろ、ギガントワームは危険な魔物だ。

そのレベルは50、危険度はレベル54のグランドドラゴンに迫る。ドグのレベルは56と、ドンチャッカ国内でも五指に入る実力者だ。

「おりゃあぁーーーー!」

「ギュワァァーーーー!」

ギガントワームにドグのハンマーが直撃して、緑色の液体を吐き散らす。

残りのドワーフが群がってギガントワームを追撃した。総攻撃を受けたギガントワームは狭い坑道で暴れて抵抗する。

「くっ! こいつ、しぶとい!」

「お前ら、どいてろ! オラァーーー!」

ドグの渾身の一撃がギガントワームの頭にヒットした。ギガントワームの頭がぶちゅりと潰れて、ようやく討伐が完了する。ドグが一息ついて座り込んだ。

「ふぅー……。楽な仕事じゃねえな。だがバトルキングはあんなものを討伐させるために俺を呼び戻したわけじゃねえだろ」

「そうですね。目的は新種、そして発生源の特定です」

「その原因が地下にあるってか?」

「ドグさんはどう思います?」

「まぁ、この国の地下には未だ得体の知れないものがたくさん眠っているらしいからな。バトルキングの見立てはたぶん間違ってねぇよ」

ドグが立ち上がってツルハシを坑道に振り下ろす。ひたすら掘り進めていくと、ガチリとツルハシが何かに当たった。

更に掘ると出てきたのは翡翠色の玉だ。ドグが手に取ると亀裂が走る。

「な、なんだこりゃ……うおぉっ!」

翡翠色の玉が弾けてドグは後退する。煙とともに現れたのは山羊のような角を生やした裸の女性だ。

体中に黒のラインが刻まれており、明らかに人間ではないとドグ達は理解した。

「ホホホ……。久方ぶりの現世であるが、わらわの封印を解いたのはそなたらかえ?」

「な、何者だ!」

「わらわは闇の女王ウェーディ。かつてわらわを封印した憎き勇者に礼がしたいと思っておる。人間、わらわを勇者の下へ案内せよ」

「はぁ? 俺達は人間じゃ……ぐああぁぁッ!」

ウェーディが指から放った一筋の黒々としたレーザーがドグの肩を撃ち抜いた。

「そなたらのことなど聞いておらぬ。わらわは命令しておるのだ。案内せよ」

「ドグさん!」

「お、お前らは逃げろ……こいつはやばすぎる……」

ドクが肩を抑えながらウェーディを見据えた。長年の経験が裏打ちするドグの勘をもってすれば、見ただけで相手の力量が理解できる。

闇の女王ウェーディと名乗ったそいつのレベルはどんなに低く見積もっても100は超えていた。

バトルキングが危惧していた事態はこれかと思いながら、ドグはウェーディを睨む。

地下に眠る邪悪なるものに惹かれてやってくる魔物がいるのは当然として、新種の魔物は地下に眠っている。

ドワーフ達は偶然にもウェーディのように封印されているものや魔物を掘り起こしてしまったのだ。それはどうにか討伐したものの、バトルキングはこの事態を重く見た。

ドンチャッカ国の地下資源は各国も注目するほどではあるが、同時に危険度も未知数だ。

ドグは今、触れてはいけないものに触れてしまったと恐怖している。

逃げられない。

勝てない。

絶対に死ぬ。

そう頭で理解した時、ドグはようやく足腰が震えた。グランドドラゴンを叩き潰したなど、いかに井の中の蛙であったか。

ウェーディが呆れたようにドグを見つめていた。

「今一度、命じる。わらわを勇者の下へ案内せよ」

「ゆ、勇者は、もういない……。とっくの昔に……死んだ」

「……話にならぬ。ならば、そなたを餌にすれば、そのうち食いつくであろう」

「本当なんだ! 信じてくれ! 命だけは助けてくれ!」

ドグは生まれて初めて命乞いした。生物としての次元が違う圧倒的な格上を前にして、平常ではいられなくなっている。

ウェーディが指先を向けてきた時、ドグは目をつぶった。

「まずは四肢を撃ち抜く」

「ファイアボァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「うぎゃあぁぁーーー!」

ウェーディの叫び声でドグが目を開けると、炎の玉が消える寸前だった。ウェーディの姿はどこにもない。

何が起こったのかわからず、尻餅をついたままドグが周囲を見渡す。すると坑道の奥から三人の少女が走ってくる。

「ナイトリングきたったったぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「鍛冶させるべやぁーーーー!」

「さすが師匠ォォーーーー!」

三人の少女は歓喜してドグの存在に気づいていない。

ドグは三人のうち二人に見覚えがあった。かつてガンドルフの町で自分を負かした少女マテリ、そして未熟者のミリータ。

なぜここに? ウェーディは? ドグは何一つ状況を把握できずにいた。

「お、おい……」

「ほーしゅうぅ……うふふふ……すーりすりすりすり」

ドグが声をかけてもマテリが気づく様子がない。指輪に頬ずりをするマテリの姿がドグには段々と恐ろしく見えた。

ガンドルフの町で出会った時もひどかったが、今は輪をかけてひどい。そう思ったドグだが、口にする勇気はなかった。