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異世界で『サレ妻スレ』立てたら、オフ会に王妃様が降臨して夫終了のお知らせ

作者: こじまき

本文

「…は?」

騎士団に夫の忘れ物を届けに行った私は、絶句した。

乙女ゲームの世界にモブ令嬢として転生した私が、大好きで大好きで散々苦労してようやく結ばれた大型犬系騎士の夫が、女性騎士ともつれ合っていたのだ。

背景に花を背負った美麗スチルで、眉を下げながら「愛してるよ」ってプロポーズしてくれたのは何だった。

前世の記憶がある私にとって、不倫は万死に値する罪。

しかしこの世界の女性に発言権は少ない。

「妻は夫の所有物」みたいな価値観がまかり通っていて、離婚はできるけど、よっぽどの事情じゃなきゃ妻が圧倒的に不利になる。そして不倫は「よっぽどの事情」に含まれない。なぜ。

悔しい。悲しい。

――誰かに聞いてほしい。

私は鏡に魔力を流す。

すると『魔法掲示板』の画面が浮かんだ。

魔力を流した鏡に指で文字を書くと、その内容が他の鏡にも共有されるという、この世界のSNS。魔力がIDになり、攪乱機能で匿名性は守られる。

某SNSもびっくりの超絶幸せキラキラ投稿ばかりなので、こんなことを書いたら馬鹿にされそうで気が引けるのだけど…

でもやっぱり、誰かに聞いてほしい。

誰か一人くらいは、見てくれて、返信をくれるかも…

私は震える指で、スレを立てた。

ーーー

【サレ妻の相談】旦那の不倫を目撃しました。【どうやって殺せばいい?】

1:名無しのトピ主

大恋愛の末に結婚した騎士の夫が、職場で部下らしき女性騎士と致しておりました。

離婚するにしても、妻である私が不利になります。

どなたか、バレずに夫を社会的に抹殺する方法を教えていただけませんでしょうか。

ーーー

無視されるだろうか。「自分の恥をさらして」と嘲笑されるだろうか。それとも「浮気されるような、魅力のない妻であるお前が悪い」と罵倒されるだろうか。

「やっぱり消して…」

そう思ったとき、魔力を流しっぱなしにしていた鏡が光った。

ーーー

2:通りすがりの魔導士

>>1

私の夫も不倫している騎士(管理職)ですが、騎士団に噂を流してももみ消されてしまった経験がございます。

ひとまずは「ずるずるに禿げる呪い」をかけてやり、鏡の前で泣きそうになっている夫を見てうっぷんを晴らしている次第。

3:不倫夫は処刑

>>1

離婚はできない立場でしたので、夫が隠し持っていた裏帳簿を公開いたしました。

物理的に首を飛ばされましたので、大変すっきりいたしましたわ。

4:夫の庶子は九人

>>3

そう言えば先週宰相が公金横領で処刑されましたわね。

あれってそういう…?

ーーー

レスにお礼をしようとする間にも、書き込みは増えていく。

イマイチ盛り上がらないキラキラスレたちの中で、このサレ妻スレは、爆発的に盛り上がった。

日々投稿される不倫の証拠と怒り。

そして慰めと共感と、復讐のアドバイス。

ーーー

562:不倫夫は処刑

皆様、ぜひとも最近の活動報告を。

563:サレ妻の怨念

>>562

通りすがりの魔導士さんに教えていただいた魔法で隠れて、夫の不倫旅行の馬車に同乗してきました。

馬車を崖に向かって暴走させたら、夫は全治三カ月、女は死亡しました。

564:不倫夫は処刑

>>563

過激で素晴らしいですわ。私好み。

565:夫の庶子は九人

>>562

私は夫が愛人に与えた城を焼きました。

それから、ようやく離婚時の男女不平等を是正する法案が通るめどが立ちましたの。

だから離婚をお考えの皆様は、よきタイミングで。

566:名無しのトピ主

>>565

九人様、いつも政策系ありがとうございます。

私は通りすがりの魔導士さんの協力で不倫の証拠が集まったので、夫と離婚の話し合いを始めます!

ーーー

みんな苦しんでる。だけど仲間がいる。

やられてばかりじゃいられない。一緒に戦おう。

だから私は、息を整えて夫の書斎のドアをノックする。

「レオン、離婚してほしいの」

「急になぜだ、ソフィア!?」

「浮気してるでしょ?」

彼の机に、魔導カメラで撮影した浮気現場の写真を並べると、彼は青ざめた。

「違…っ!これはただの遊びで…!愛しているのは君だけだ!浮気は本能みたいなもので…!」

ああ、「浮気は本能」っていうのは、スレでもよく見たセリフ。

正解の返答をみんなで考えたとき、大喜利みたいになって楽しかったな。

「私は理性で本能を制御できる人が好きよ。あなたは大型犬みたいで素敵だけど、獣と結婚したつもりはないの」

「頼む、もう彼女とは会わないから…!」

「どうやって?騎士団の人でしょ?彼女を退職させる?左遷する?あなたにできるの?」

「そ、それは…」

「即答できないでしょ?そんな人に“もう浮気しない”って言われたところで、信用できないわ」

「けれど離婚なんて…!君が困るんだぞ!」

私は微笑む。

「いいえ、困らないわ。もうすぐ離婚時の男女不平等を是正する法案が通るの」

「な、なぜそれを…!?いつから政治に詳しくなった…」

それはね。

「内緒よ。あなたに秘密があるように、私にも秘密があるの」

手のひらで、信頼できる仲間とつながっているから。

レオンと離婚の話し合いを始めて、一カ月。

浮気したくせに「別れたくない」と粘る彼に疲れてきたとき、最古参である「夫の庶子は九人」さんと「不倫夫は処刑」さんが、「王都に来られる人だけでも、集まって会わない?」と提案してくれた。

薄々感じてはいたけれど、どうやら「夫の庶子は九人」さんと「不倫夫は処刑」さんはかなり身分のある人で、リアルでも知り合いらしい。

「オフ会ってこと…?」

散々心の中の黒いものを晒して暴言書いて、どんな顔をして会えばいいのか、どきどきする。

だけど、心の支えになってくれているみんなに、会いたい。

「離婚の相談もできるかも…」

私は意を決して、「不倫夫は処刑」さんが予約してくれた王都の高級サロンを訪れた。

受付で合言葉を言うと、サロンの奥にある部屋へと案内される。

「貴賓室…」

広い貴賓室には、十数人の女性が集まっていた。

最高級のシルクを纏う人も、綿のドレスを着てエプロンをつけている人も、身分の差なくごちゃまぜに座っている。

「あなたが我らの盟主、『名無しのトピ主』さんね?誰かと思ったら、伯爵家の可愛いお嫁さんじゃないの」

「あ、ええ…!?」

微笑んでいるのは…

この国の王妃様だ。攻略対象その一である王太子の母としてゲームにも登場していたから、間違いない。

「お、おおお、王妃様…!?」

「やめてちょうだい。ここでは私は、『夫の庶子は九人』よ」

「そして、私が『不倫夫は処刑』よ」

「は、え…っ!?宰相夫人!?」

「やだわ、もう宰相だった夫は首を飛ばされていないのよ?だから私は元宰相夫人、ほほほ」

そして魔塔の実力者に、騎士団の副団長、国を代表する大商会の奥様に、神殿の幹部まで。

まさしく錚々たるメンバーが揃っている。

全員「サレ妻」だったなんて。

震える私に、王妃様は「席次はスレへの参加順なの。だからあなたは一番上座よ」と強要する。

「とんでもないです!」と土下座する勢いで拒否したけど、結局王妃様と宰相夫人と魔塔の幹部よりも上座に座らされてしまった。死にそう。

「まずは…私たちに勇気と仲間をくれたあなたに、心からの感謝を」

みんなが私に拍手してくれる。

「こちらこそ!皆様のおかげで、一歩を踏み出せました!」

そう頭を下げた私に、「ところでトピ主さん、離婚の話し合いの進捗が最近書き込まれていないのだけど」と王妃様が話を向ける。

「夫が抵抗していまして。今さら“好きだ”とか“別れたくない”とかって…」

「殺しちゃいなさいよ」と宰相夫人。この人は夫を間接的にではあるけれど殺しているので、冗談とは思えない。

「残念ながら…前宰相閣下のように、法律に照らして処刑されるような罪は犯していないので…」

「でっちあげればいいじゃないの」

商家の奥様が「うちは騎士団から用具を受注しております。レオン隊長が水増し請求させているように見せかけることは簡単ですわ」と恐ろしい提案をする。

「それなら死罪まではいかずとも処罰の対象に…」

「待ってください!いくらなんでもそれは…捏造したほうも罪に問われます!」

「…そうね。夫のレベルが低いからと言って、自分のレベルまで下げるのはよくないわ。さすが盟主」

宰相夫人が考え込む。

「ふむ…ではトピ主さんと離婚しないと、何かとんでもない不都合が起こるように仕向ける…?」

「ではこんなアイデアはどうでしょう」と、席次が二番目に高い「通りすがりの魔導士」さんが声をあげた。彼女は魔塔の幹部だ。

「王都の噴水広場に、トピ主さんが集めた不倫の証拠映像をプロジェクションマッピングで流すんです。離婚するまでエンドレスで」

「あら、いいじゃない。希望者がいれば、他の夫たちの映像も一緒に流してもいいわね」

綿のドレスを着た「サレ妻50号」さんも、おずおずと手を挙げる。

「私は騎士団の食堂で働いています。魔導士様のような難しいことはできませんが、レオン隊長が離婚するまで、彼の食事に下剤を入れ続けられます」

「それって最高じゃないの!」と王妃様が手を叩く。確かに、自分がされたらすごく嫌だ。

他にも元スリが財布を盗み続けるとか、女優が幽霊のふりをして後をつけるとか、レオン包囲網がちゃくちゃくと組みあがっていく。

「これは…レオンだけに使うのはもったいないです。組織化して整理して、希望者がどれでも復讐の方法を選び取れるようにしたらどうでしょうか」

「いいわね。今は個々で情報交換して自分で実行しているけれど、魔力の少ない人やお金のない人にはできないことも多いし」

「ええ、それをみんなの…仲間の力で」

オフ会は戦略会議。そして復讐はテンプレ化して、誰もが利用できるように。

「サレ妻の互助会…というところでしょうか」

それから、王都はサレ妻たちの復讐の舞台となった。

まず、噴水広場には巨大なホログラムが浮かび上がる。

そこには不倫夫たちが不倫相手に愛を囁く姿が、でかでかと映し出された。誰もが足を止めて指を差す。

「あれって、騎士団のレオン隊長じゃない?」

「最っ低。誠実そうな顔して。今度店に来たら、水かけてやる」

「待って、騎士団長もいるじゃん」

「解任要求出そうよ!欲に負けて妻を裏切るような男は、国も裏切るって」

誰もが不倫夫と浮気相手に後ろ指を指す。彼らは食堂に行けば追い出され、パンひとつも水一杯も売ってもらえなくなった。久々に食事にありつけたと思ったら下剤を盛られる。

追い詰められ、王妃様が国王陛下に睨みをきかせながら通した法律に則り、妻に慰謝料を渡して離婚する。

そうしたら家庭にも職場にも居場所がなくなり、宰相夫人の領地にある魔石鉱山で、死ぬまで身を粉にして働くしかない。

「ソフィア、頼む…俺はそれほど悪いことをしたのか…?たかが不倫だ…犯罪でもないのに…っ」

その言葉が、この男のすべてを証明している。

「どれほど悪いことをしたのか、一生かけて知るがいいわ」

そうやって、私は「不倫夫の末路ルート(業火版)」にレオンを乗せて処理した。

こんな男に恋をして追いかけ回していた自分とも、さよならだ。

ーーー

【祝】管理人(トピ主)離婚成立のお知らせ

1:名無しのトピ主

みんなありがとう!

業火テンプレで処理できました!

2:夫の庶子は九人

>>1

我らが盟主様、おめでとう!

隠れ家で派手にお祝いよ!

3:不倫夫は処刑

>>1

鉱山の人員補充に協力していただいて感謝だわ。

もう魔石が採れちゃって採れちゃって…

4:通りすがりの魔導士

>>1

おめでとうございます!

ちなみに隣国の王太子妃殿下から依頼入りました。

我らの力、見せつけてやりましょう!

ーーー

鏡に魔力を流せば、今日もそこに仲間がいる。

悲しみも怒りも、共有すれば力になる。

そしてその力は、もう止められない。

「サレ妻互助会」は、国全体に広がり社会インフラ化している。

最近では、結婚前の男性たちがこそこそと噂し合うようになったらしい。

「下手なことをすると、“あそこ”に書かれるぞ」

「サレ妻スレに載ったら終わりだ…」

――そう。

「サレ妻スレ」に名前が載ることは、社会的な死を意味するようになっていた。

今日もまた、ひとりの女性が鏡に魔力を流す。

新しいスレッドが立ち上がり、鏡が光る。

ーーー

【新規相談】夫の挙動が怪しいのですが

1:名無しの新人

初めて書き込みます。

夫が知らない香水の匂いをさせて帰ってきました。

信じたい気持ちもあるのですが…

2:名無しのトピ主

>>1

そのお気持ち、痛いほどわかります。

一度調べてみて、それから決めませんか?

復讐するにしても、強度(火加減)は選べますよ。

3:通りすがりの魔導士

鍵付きのスレで座標くれたら、監視と追跡かけます。

ーーー

不誠実な男たちが震えて眠る夜に、私たちは指で復讐を綴る。

――異世界で「サレ妻」を敵に回してはいけない。