軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

全国配信

午前二時四十分、配信の視聴者数が百万を超えた。

俺のチャンネルは登録者数が三十万人だった。その三倍以上が、今リアルタイムで見ている。

「どこから来てるんですか、この人たち」とひなたが言った。

「ニュースで取り上げられた」

スマホのコメント欄が高速で流れている。追いきれない。

《テレビでやってる》《NHKが配信のURL流してた》《ダンジョンブレイク止めに行くって本当なの》《三人だけで?》

午前三時。ギルド本部から第四十一番ダンジョンまでの移動中、凛花が車窓から外を見ながら言った。

「テレビを見ている」

車道沿いのビルのモニターが、俺たちの配信を流していた。俺たちが今乗っている車が映っている。俺たちが今、自分たちの映像を別のモニターで見ている。

「変な感じがします」

「そうですね」

ひなたが窓に顔をくっつけた。「あのモニター、ひなたも映ってる!」

「映ってる」

「うわ——すごい、なんか現実感ない——」

「ダンジョンに入ったら現実になる」

「わかってます。でもちょっとだけこういう時間があってもいいじゃないですか」

凛花が小さく笑った。ひなたが嬉しそうに凛花の袖を引っ張った。

第四十一番ダンジョンの入口。

午前三時十五分に到着した。

入口周辺には機材車両が何台も停まっていた。測定機器。ギルドの支援スタッフ。防衛省の制服を着た人間。テレビのカメラ。

「榊さん」

中堂が来た。「地上から通信が繋がる限りはサポートします。六層以降は電波が届かない可能性があります」

「わかりました」

「コアの位置についての現在の推定データです」

タブレットを渡された。データを確認した。七層を抜けた先。位置情報。熱源反応。《構造透視》がデータを処理した。

「確認できました」

「……榊さん」

中堂が少し間を置いた。「本当に、無理だと思ったら引いてください。ダンジョンブレイクが起きた場合の対処は、地上でも手を打てます。完璧ではありませんが」

「引く場合は連絡します」

「頼みます」

俺は配信カメラを入口に向けた。

第四十一番ダンジョン。地下七層。今まで最深到達記録は五層だった。

「入ります」

コメント欄が動いた。

《頑張れ》《気をつけて》《日本中が見てる》《ありがとう》

俺は入口を踏んだ。

凛花とひなたが続いた。

一層から五層は、俺たちにとって普通のダンジョンと変わらなかった。

五時間で通過した。

《構造透視》で最適経路を出し、ひなたの《加速》で移動速度を上げ、凛花が出てきた魔物を斬った。無駄がなかった。

六層で空気が変わった。

「濃い」とひなたが言った。

「魔素の濃度が跳ね上がっています」と凛花が言った。

《構造透視》が情報を出した。六層以降は魔素が通常の三倍以上。魔物の密度も増している。通信が途切れ始めた。

「師匠」

「わかってる」

「配信、切れてません?」

確認した。接続が不安定になっていた。視聴者数の表示が更新されていない。

「七層に入ったら繋がらなくなるかもしれない」

「そしたら——」

「そしたら帰ってきてから続きを話す」

ひなたが頷いた。

七層への降り口の前で、俺は一度カメラに向かった。

「六層まで来ました。この先は通信が切れる可能性があります。引き続き、行きます」

コメントが流れた。

《頑張れ》《絶対帰ってきて》《日本中で見てる》《子供たちが応援してる》

俺は深呼吸をした。

七層への階段を降りた。

電波が切れた。

完全な静寂が落ちた。

三人だけになった。

そして——

目の前に広がったものに、俺は言葉を失った。

七層の先は——部屋ではなかった。

地平線があった。

天井は百メートル以上。いや、もっと上かもしれない。闇の中に巨大な空間が広がっている。地面は石畳。均等に敷かれた石。

「これは……」とひなたが言った。

建物があった。

廃墟だった。でも、石造りの建物が整然と並んでいる。道が交差している。広場がある。井戸のような構造物がある。

「都市だ」

凛花が低く言った。

「ダンジョンの地下に——都市がある」

俺は《構造透視》を走らせた。

見えてきた。建物の配置パターン。道路の網目構造。中心部に向かって放射状に伸びる幹線。

「都市じゃない」

俺は言った。

「機械だ」

「機械?」

「建物も道も、全部が一つの装置を構成している。これは——ダンジョンのコアを動かすための、巨大な構造体だ」

《構造透視》が情報を重ねた。都市全体に流れるエネルギーの経路が見えた。石畳の下を走る何か。建物の壁に刻まれたパターン。全てが中心部の一点に繋がっている。

「コアは中心部にある」

俺は中央の方向を見た。

遠く、霞の向こうに、何かが脈打っている。

青白い光が、規則的なリズムで明滅している。

まるで——心臓みたいに。

ひなたが俺の袖を掴んだ。

「師匠」

「何」

「あれ……生きてる?」

脈動が一つ大きくなった。

光が広がった。

その瞬間。

俺の《構造透視》が、異常なほど大量の情報を受信した。

構造パターン。複雑な、人智を超えた——言語のような何か。

俺の頭の中に流れ込んでくる。

都市全体が、俺たちの存在に反応した。