軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その10

階段を下りてみれば、平らに見えた通路はやや傾斜しており、なおも下方に向かっているのがわかる。

「何も聞こえねえが」

ウォーレスが耳をそばだてる様子を見せてから首を捻る。

「ラグナル。水音とはどんなものだ? 大量の水が流れる音か? 水滴が落ちる音か?」

キーランがラグナルを振り返って問う。

「大量だ。おそらく地下水脈だろう。この道の先につながっているはずだ」

「道が水脈で途切れている可能性があるな。……ひとまず行ってみよう」

ラグナルの答えに頷いて、キーランが歩き出す。

階段とは違って、通路に罠はなく、進む速度が上がる。

ややして、私の耳にも水音が聞こえた。

「こいつは……」

ウォーレスが呻くように呟いた。

果たしてラグナルの言う通り地下水脈は道の先に繋がっていた。しかもキーランの予想と違わず、道が途切れている。

かつては橋が架けられていたらしい。一際大きな石で出来た土台は、傾き水流の上にせり出している。橋本体は水の流れにもっていかれたようだ。

ごうごうと流れる水脈の向こうは、こちら側と同じように足場が広がっているものの、十歩もいけば土の壁に行き当たる。

「行き止まり……か? さすがにこの流れで地下じゃ川下りはできねえな」

ウォーレスは身を乗り出して水脈の流れを覗きこむ。

暗い洞窟の光源はルツとノアが作り出す魔術による光のみだ。

水の流れの先は真っ暗でなにも見えない。すぐ先に崖があっても分からないだろう。

「イーリス許可を」

ウォーレスの隣に立ったラグナルが私を振り返る。

「いいけど、なにするの?」

「向こう岸を照らすだけだ」

その言葉を合図に、洞窟内が、屋外にいるかのように明るくなる。見上げれば、光りを放つ球がいくつも浮いていた。

「魔力の無駄遣い」

ノアの口調は呆れ半分、妬み半分といったところだろうか。

「この程度、使ったうちにも入らん」

ダークエルフの力を誇示するというよりは、当たり前のことを口にしただけに聞こえた。それでもノアはカチンときたらしい。

「どーだか。余裕ぶっこいてまた子供に戻らないでよ」

「そんなヘマはしない! お前こそ、足を引っ張るなよ」

「はぁ!? ロフォカレに入って初仕事のぺーぺーに偉そうに言われたくないんだけど?」

遺跡に入ってまで、いつもの流れすぎて、開いた口がふさがらない。

「はいはい。喧嘩は帰ってからやろうなー」

対峙する二人の間に強引に体を割り込む、ウォーレス。

「イーリスさん、そっちはよろしくな」

ノアの首に腕を回し、ずるずると引きずってラグナルから引き離す。

任されてしまった以上、傍観もできない。

「ラグナルはこっち。ちょっと落ち着こう」

袖を引っ張って、ノアからさらに距離をとる。

と、キーランがラグナルを手招きした。

「ラグナル、対岸の左手を照らせるか」

「ああ」

光球が一つ、左側へと移動し……皆が一斉に息を飲む音が聞こえた。

対岸の左手にぽっかりと横穴が空いており、正面の足場から人一人が渡れるだけの道が続いていた。しかし、その前には決して少なくない量の水が流れる地下水脈が横たわっている。

「助走をつけて、ぎりぎり渡れる……か」

キーランが腕を組んで考え込む。

そうなのだ。水量は多く流れは激しいが、幅はそれほどない。私には到底無理だがキーランやウォーレスなら、渡れなくもない幅であるのが悩ましい。

「せめてロープを渡せればなぁ」

ウォーレスが惜しむように対岸を睨みつける。

「ロープと杭はあるのか?」

そう声を上げるのはラグナルだ。ウォーレスが頷くと、通路を引き返す。

――まさか。

そう思った時にはラグナルは走り出していた。

手を伸ばすことはできなかった。中途半端に速度が削られればかえって危うい。

タンッと軽やかに地を踏み切る音がして、ラグナルの体が宙に浮く。しなやかに足を伸ばしたラグナルは、嘘みたいに簡単に対岸に着地した。

三階のテラスから楽々着地するラグナルの身体能力を考えれば当然かもしれない。が、心臓に悪い。

「ロープを」

対岸でラグナルが声を上げる。

「あ、ああ」

呆気にとられていたウォーレスはちらりとキーランを見た。彼が頷くのを確認してから、杭を結んだロープを二本、投げた。一本を地面に、もう一本を胸の高さの壁に打ち込む。

「俺からいきますか」

誰に言うでもなくそう口にすると、ウォーレスは二本のロープを使い危なげなく対岸に渡った。

ルツと私は腰に命綱をつけて、ノアはスタッフを先に渡してから、最後にキーランの順だ。

足場が崩れないか確認しながら、皆が横穴にたどり着いたときには、ほっとした。

ロープを使って崩れた階段を降りたり、逆に登ったりは、地下にある遺跡の探索にはつきものだが、魔獣に相対するときとは違った緊張がある。

水脈までは下っていた通路が、今度は上りになった。といっても緩やかなもので歩くのに苦はない。

罠もなく、勝手に住み着いた魔獣の類もいない。

どれほど歩いただろうか。延々と続くかのような通路が突然様相を変えた。

ざらりとした石は磨かれ、壁にはレリーフが刻まれるように。等間隔に天井に埋め込まれた不思議な光を放つ石。

「この道、当たりじゃない?」

言いながらノアが光球を消す。続いてルツも。本来なら暗闇に包まれるはずの遺跡の内部は充分な明かりがあった。