軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その8

「なにあれ……」

強張った顔のままノアが尋ねる。

一目で気づくなんて、さすがはモーシェ。

「魔女だそうだ」

「はあ!? だそうだって、そんなあっさり言わないでよ」

キーランの答えにノアが頭を抱えてその場にしゃがみ込む。

その反応が普通なのだ。キーランが異常に冷静なだけで。

「名をリュンヌというらしい」

「何それ何それ何それ。魔女が名乗ったって言うの!? 伝説に近い生き物だよ!? 名前なんてこれまで史実に出てきたことなんてないんだよ!?」

確かに、私も魔女があっさり名乗り、存在を明かしたことには驚いた。

歴代の魔女がこれほど開けっ広げなら、もっと存在が認知されていてもおかしくないはずだ。

「魔女がなぜ、ロフォカレに?」

ルツの顔色はノアより悪い。

かつてモーシェに助けを求めて来た人物にかけられた、魔女の印の威力を目の当たりにしているためだろう。

「旅の途中に、ホルトンに立ち寄ったらしい。一客人として扱うようにと、オーガスタスからも指示を受けている」

「一客人て、むちゃくちゃでしょ」

一通り騒いで落ち着いたのか、ノアが気の抜けた声をだす。

「魔女が相手では、どうすることもできまい」

「そりゃそうだけどさぁ……」

スタッフに寄りかかって立ち上がったノアがちらりとこちらを見る。

「まあ、もう、この二人が揃って居る時点で、かなりおかしいよね、うちのギルド」

里から出ない引きもりのイーに、同じくイービル山脈から出ない引きこもりのダークエルフ。言われてみれば珍種が揃っている。

「今更魔女が増えたところで同じか」

さすがに魔女と同列にされるのには異議を唱えたいけれど、無理やり自分を納得させている様子のノアに余計なことは言えない。

なにより――

「ごめん、私が森で会って、連れて帰ってきてしまって」

これにつきる。森にいかなければ、連れて帰らなければ、皆が頭を悩ます事態にはならなかったはずなのだ。

「っていうかさぁ、旅ってほんと? ラグナルの印が解かれたのに気づいて様子を見に来たんじゃないの?」

ノアはくしゃりと赤い髪をかきあげた。

「そんな感じじゃなかった。ラグナルのことはしばらく経ってから気づいたみたい。あと、ルツの見立て通り、解呪は失敗してた」

「は?」

ノアが驚いた顔でルツを見る。ルツはノアに話していなかったらしい。

「そうでしたか。……良かったのですか? その話は私たちが聞いても」

「時の支配が完全に解けてなくて、黒魔法の使用に制限が残ってる。チームとして行動するなら知っておいてもらったほうがいいと思うから」

ダークエルフは激情型だ。私がマーレイに捕らえられたあの時のように、頭に血が上って力を使いすぎないとは限らない。

「力の封印は解けている。印が残っていようが、ほとんどの術の発動には支障がない」

ラグナルは腕を組んで不服そうに言う。

「そりゃ、ダークエルフの魔力とラグナルの剣の腕があれば問題ないでしょ。問題は魔女の気が変わることじゃない? あ、それよりやばいのはラグナルのキレやすさか」

「誰がキレやすいと?」

「超短気なダークエルフの誰かさんのことだけど? ってか、すでにキレてんじゃん」

一年経ってもノアがラグナルを煽るのは変わらない。もはや趣味ではないかとさえ思える。

一触即発の二人の間に大きな影が割って入った。

「二人とも戯れるのは構わんが帰ってからにしてもらおう。ウォーレスが馬を押さえて待機してるはずだ」

「キーラン、訂正してくんない。戯れてなんてないんだけど」

「急ごう。晩飯は温かいものが食いたいだろう」

ノアの不平を聞き流し、キーランは外に向かう。その後をルツが追うと、ノアはもう何も文句を口にすることはなかった。ちらりとラグナルに目をやり、無言で二人のあとに続く。

「私たちも行こうか」

リュンヌのことは気がかりだけど、気持ちを切りかえないと。

頷くラグナルと共に外に出る。当然手は繋がれた……

ウォーレスが用意した馬は5頭。いつもより一頭多い。ラグナルのぶんだ。

馬に乗れない私はいつも誰かの後ろに乗せてもらっていた。中でもキーランかルツの後ろに乗ることが多かった。二人の騎馬技術が特別達者なのではなく、ウォーレスやノアに乗せてもらうと、二人がふざけて怖い思いをさせられるからである。「しがみ付いときゃ大丈夫だって」と軽く言われて、泣きそうな目に遭ったのは、今でも根に持っている。

「イーリス」

今日はどうすれば、と迷っていると、馬上からラグナルが手を差し出す。掴むと軽々と引き上げられた。

筋張った腕は力強い。あの細くてぷにぷにとしていた腕がこうなるのか……と妙な感動を覚えた。

今日、向かうのは最近新しく発見されたばかりの遺跡だ。ホルトンを挟んでコールの森とは真逆の方向にある。

明らかに人の手が加えられた巨大な石群。その石の一つが落雷で割れ、地下へ続く道が露わになったのがおおよそひと月前。

内部は細かく枝分かれしており、罠が多数しかけられていた。難易度の高さから、ホルトンのギルドが話し合い、実力者の揃うロフォカレ、アガレス、バアルが交代で潜っては地図を作成している最中だった。