軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その2

一拍の間をおいて、皆の視線が引き付けられるようにラグナルに集まる。

闇夜に舞う月の精(笑)が狒々神を追ってコールの森に入った。そこに、たまたまラグナルがいた? そんな偶然ある?

森の中で拾った落し物の数々と、ラグナルを見つけた時の格好。あまりにもピタリと合う符合に、嫌な考えが浮かんで頭から離れない。

「いや、でも、まさか……」

「まさかですよね」

ラグナルを見つめたまま呆然と口にすれば、ルツもまたありえないというように首を横に振る。

「だよ……なあ? まさかなあ?」

「ええ、そんなはずはない、とは思うのですが」

ウォーレスの声はかすれていた。ゼイヴィアが比較的落ち着いているのは、すでに何度か同じ考えに行き当たったからだろう。

ノアが肩をすくめる。

「現実を直視したほうがいいんじゃないのー?」

だまらっしゃい。

皆が、一斉にノアを睨んだ。

ノアの怖いもの知らずについていけるほど、他の面々は若くないのだ。

「ノア。いくらダークエルフの詳しい生態が分からないといっても、まさか彼らが大人から子供になるだなんて、あり得ると思いますか?」

ルツが言い聞かせるように言う。ノアに、というよりは自分に。

はっとウォーレスが息を呑んだ。

「待てよ。話を聞いて勝手に大人だと思い込んでいたが、……漆黒に煌めく月光(笑)が、初めから子供だったなんてことは?」

なんとも意外な発想の転換だった。

あの黒剣を持って、狒々神と相対するラグナルを想像してみる。うん、無理。どうシミュレーションしても剣を引きずる。そもそも服のサイズがおかしい。

「アガレスで会った冒険者の話によると、成体に見えたそうです。少なくとも六、七歳の子供ではなかったと」

とゼイヴィア。ルツは眉を寄せて首を傾げた。

「やはり偶然なのでしょうか? 狒々神を追った先にたまたま探し人がいたのでは」

人を探して旅をするダークエルフ。そのダークエルフが狒々神を追ってたまたま入った森で、たまたま探していた……であろうラグナルを見つけた。そして自分は服を脱ぎ、靴とズボンとパンツと装備を放り投げて、シャツだけラグナルに着せた。

厳しい。厳しすぎる。

私はきょとんとした顔で皆の話を聞いているラグナルを見ながら、意を決して口を開いた。

「ここだけの話、実は――新月の貴公子って、すごくかっこいい二つ名だなって思っていたんです」

「おや、奇遇ですね。私も宵闇の冴えた月はなかなかセンスのある名だと思っていましたよ」

「ちょっと、イーリス。自分だけ心象良くしようとするのやめてくれない? ゼイヴィアもいい年して大人気なさすぎでしょ」

ちゃっかり尻馬にのったゼイヴィアに、ノアが冷たい眼差しを向ける。もちろん私も冷たく一瞥された。

「そういえばノアに話を聞いたときから不思議に思っていたのですが、そのダークエルフはなぜ討伐ギルドで依頼を受けていたのでしょうか?」

ルツが新たな謎を掘り出した。

ウォーレスが頷く。

「高額の単発の依頼を受けてたってやつだろ。俺も引っかかっていた。旅費を稼ぐにしたって、人間嫌いのやつらが、人間と組んで狒々神討伐に参加するってのが、どうもな」

「別に馴れ合ってはいなかったようですよ。一番高額の依頼を受けたいとロサラムでは言っていたそうです。その時、群を抜いて報酬が高かったのが狒々神討伐だったようで」

「よほど金欠だったんですかね、貴公子なのに……」

ゼイヴィアの注釈に、思わず同情めいた視線でラグナルを見てしまう。

「イーリス、墓穴掘ってるみたいだけど大丈夫―?」

ノアに言われ、私はさっと口を塞いだ。

じわじわと汗がにじむ。

――そういや、この中で一番やばいのって、私じゃない?

不用意に約束を交わし、二つ名を(笑)に改変し、さらにパンツの趣味も貶した。

私は、疲れたのか眠たそうに目を擦り、ふらふらと体を揺らし始めたラグナルの前に屈み込み、視線を合わせた。

「ラグナル、違うからね。貧乏が辛いのは身を以て体験してるから。ダークエルフという、畏れられ、ちょっと神秘性さえ感じさせるような存在が、まさか金欠だなんて格好悪……じゃなくて、大変な境遇に陥っているだなんてぶざ……」

駄目だ。焦りでろくな言葉が浮かばない。

「イーリスさあ、口は禍の門って言葉聞いたことない?」

どうしよう、ノアがすごく常識人に見える。

「んー……。イーリスお姉ちゃん、貧乏なの? 大丈夫だよ、僕がいっぱい稼いで…あげる。約…束……」

それだけいうとラグナルは目を瞑ってふらりと腕の中に倒れこんだ。すぐに柔らかな寝息が聞こえてくる。

「は? ちょっ、え? そんな約束いらないから。ちょっとラグナル?」

揺すっても縋ってもラグナルの瞼が持ち上がることはなかった。

「えええ、今の約束有効なの?」

天使のように可愛い寝顔だが、ちっとも癒されない。

「すげー、ダークエルフのパトロンゲットだ。意外とやるねえ」

「イーリス、ダークエルフを利用しようとするのは、お勧めしませんね」

ノアが腹を抱えてギャハハと笑いだし、ゼイヴィアが追い討ちをかける。

「いや、今の見てましたよね!? 私が約束させたわけじゃありませんから!」