軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その19 現最終話

ラグナルの手がどうにも不埒な動きを見せはじめたのに気づいて、身体を放す。と少し遅れてノアたちが戻ってきた。

――危なかった。

「光苔とれたよー……って、何? 何か空気おかしくない?」

「ノア、わざわざ自分の首を締めにいくことはないだろ」

ノアの肩にウォーレスがぽんと手を置く。ノアはその手を鬱陶しそうに払いのけた。

「うるさいな! あーもう、早くホルトンに戻って飲みに行こう!」

ノアは光苔の入っているだろう袋を担いで、ずんずんと歩き私たちの横を通り抜ける。それからぴたりと足を止めて振り返った。

「あ、イーリスとラグナルは誘ってないから。ほら行くよ、ルツ、ウォーレス」

またずんずんと歩きだす。

「お先にな。あとは二人でごゆっくり」

「イーリス、また明日」

ウォーレスとルツがそれに続いた。

私は知っている。ノアが二人を飲みに誘ってはルツとウォーレスを残して先に帰るのを。二人がくっつくのが楽しみだ。

ちなみにノアが光苔の採取に勤しんでいるのは遺跡の帰り道に交わした会話が原因だった。

ノアが魔法で塗りつけた壁の塗料を見て、リュンヌに沈められた例の遺跡で遭遇した古の錬金術師の偉業を思い出した私は何とは無しにこう言った。

「この塗料……光苔を混ぜて光らせられたら絶対便利だよね」

それにノアが食いついたのだ。

「それ、僕も思った! ねえ、戻ったら試してみてよ。光苔は採ってくるから」

光苔はコールの森の奥でよく見られる。

「成功したら奇跡レベルでよければ」

光る塗料を生み出すなど、調剤というより最早錬金術に近い。

「やってみなきゃわかんないでしょ。で、どうしてロープが解けたわけ?」

「え、まだ続くの……」

十日ほど前のことなのに、随分昔のことように感じる。

キノコの世話に戻っていた私は、ふと空の色が変わっているのに気づいた。

「私たちも帰ろうか」

ラグナルと共に森の中を歩く。白狐は自由気ままなもので、先に駆けて行ってしまった。

街壁の門を潜るころには、紺色の夜空が夕焼けに取って代わろうとしてた。

ホルトンの街にぽつぽつと灯りがともり始める。夕方のホルトンは騒がしさもひとしおだ。家路を急ぐもの、飲みに出るもの、風呂へ行くもの。大勢の人で往来はごった返す。

そんな街の中で手を繋ぐのにも慣れてきた……と言いたいところだが、これだけは慣れない。

屋台で夕食を済ませ、家に戻る。ラグナルは毎日、家にあがることなく宿に戻っていく。それが近頃寂しく感じる。

「じゃあ、また明日」

「ああ」

いつもならすぐに踵を返すのに、今日のラグナルはなぜか扉の前から動かなかった。

「ラグナル?」

「お前の兄との約束を果たし終わったら、言うつもりだったんだが……」

「それはもうさっき返してもらったよね?」

利子を思い出して顔がほてる。

ラグナルは居住まいを正し、まっすぐに私を見下ろして口を開く。

「一緒に暮らしたい」

……え

「一生、俺の全てをかけて護ると誓う」

……ええ

「結婚してほしい」

……ええええええ

「返事は?」

ぽかんと口を開けて立ち尽くす私に、ラグナルは返事を促す。

ーー今!?

ーーここで!?

ーーまだ早くない!?

頭の中は嵐がきたようにしっちゃかめっちゃかだ。でも答えは一つしかなかった。

「はい」

私がそう、口にしたとたん、歓声が上がった。

ここは雑多なホルトンの街。しかも人々がもっとも行き交う夕どきである。

ご近所さんから通りすがりの人まで、たくさんの人目があるのだ。

「おめでとう」「やるねー」などと囃し立てられ、どんどんと顔に血が上っていく。

「ああ、忘れていた」

子供の頃を彷彿とさせる混じり気のない笑顔浮かべていたラグナルは、そう言って顔を寄せると、軽く唇をついばんだ。

その瞬間一際歓声が大きくなった。ピューと誰かが吹く口笛がひっきりなしに聞こえる。

「…………っちょと!!」

ラグナルの胸を叩き、身体を離すと抗議の声を上げる。美貌のダークエルフは首を傾げた。

「人間は、誓いのキスをするんだろう?」

「それは結婚式のとき!!」

その後、何故だか見物していたご近所さんが外に机や椅子を持ち出し、料理と酒を並べ、結婚式さながらの祝いの宴が始まったのだった……

ダークエルフ、いろんな意味で恐ろしい!

以下ではイーリスの死について触れています。お気をつけください。

ノックの音に扉を開ける。

赤く染まる夕暮れの中、少女が立っていた。

「お久しぶりね」

俺は理解した。

その時が来たのだと。

震えそうになる体を必死に抑える。

家の中に迎え入れると、少女を彼女のいる部屋へ案内した。

彼女は静かに眠っていた。

彼女の部屋はいつも花や薬草であふれている。

子供や孫が摘んできて飾るのだ。

少女がベッドの横に立つと、彼女が目を開ける。

俺は二人から離れ、扉の前で話が終わるのを待った。

二言、三言、二人が言葉を交わす。

少女は頷くと、彼女の頰を撫でて傍を離れる。

それから俺の前に立つと、一言「もう、いいわ」と言った。

その途端に腰に走る激痛。

しかし彼女の前で苦痛を露わにすることはできない。

俺は平静を装い、少女を見送る。

別れ際、子らの体に印が現れたことを告げる。

「あいつ、気色の悪い男ね」と少女は眉を顰めた。

彼女はダークエルフの魔力と自分の血を引く子供を持つことに抵抗を持っていた。随分長い時間話し合ったのをよく覚えている。生まれた子を見て「また悩み損じゃない」とこぼした彼女の拍子抜けしたような顔も……

その晩はずっと手を握って過ごした。

約束は守る。

だけど、時間がかかりそうだ――