軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その13

絡繰兵と遭遇したのは一番最初にこの広間にたどり着いたベレトの四人組パーティーだったらしい。

シャンガでハイになっていた彼らは絡繰兵にもひるまなかった。子供が石を組み立てたような不恰好な絡繰で、硬いだけで動きもぎこちない。楽勝だと驕った次の瞬間、おかしな夢を見た。一人は酒樽いっぱいの極上の美酒を、一人はしなだれ掛かる美女を、一人は広間を埋め尽くす黄金を、一人は幼くして亡くなった弟を――

最後の一人が、小さな指で手を掴まれた瞬間、我に返った。男は弟を想うとき、生きていれば今頃はどんなだっただろうと成長した姿を思い描いていた。だから小さな手に違和感を持てたのだという。他の三人を殴り、正気を取り戻させ這々の体でホルトンに逃げ戻った。

コリーは話し終えると深々と息を吐いた。

「だが、私は信じなかったんだ。息からシャンガの匂いがしているのに気づいて、そのせいで幻を見たのだと判断した」

しかし、遺跡の絡繰兵が幻を見せるという話はベレトの内部で広がり、皆が二の足を踏んだ。そこで白羽の矢が立ったのがホルトンに来たばかりで功を焦っていた冒険者と……助っ人を頼まれたラグナルだった。

話を聞き終えたロフォカレの皆の顔には怒りが浮かんでいた。

冒険者にとって情報は命である。閉ざされた未知の遺跡ならなおさらだ。

「ベレトは、こののち制裁を受けるだろう。だが、行方の分からぬ者たちを無事に助け出せたなら俺が口添えをしてもいい」

普段怒らない人が怒るととてつもなく怖い。よく聞く話だが、今日私はそれが紛れもない真実なのだと知った。

「も、もちろんだ。救助には全力を尽くす」

感情を押し殺そうとして殺しきれていない声音で話すキーランの提案に、コリー以下ベレトの冒険者たちは顔を青くして頷いた……

「幻覚かあ。それも見たいものを見せるって感じだね」

ノアが呟くと、ロフォカレの面々の視線が一斉に私に向けられた。

「なるほど。それで後れをとったか」

「そういうことだろうなあ」

「でしょう、ね」

「色ボケエルフ」

四人は口々にそう言うと、何故か一斉に俯いてため息を吐く。

なんだか、すごくいたたまれない。

「まずは穴の内部を把握する。魔術師全員で光球をつくり、穴を照らす。ルツ、鳥を飛ばしてくれ」

いち早く顔を上げたキーランの声はいつもの静かな口調に戻っていた。

ノアと私とベレトの唯一の魔術師で光玉をつくる。こうやって一斉に同じ魔法を使うと、実力差が如実にでる。ノアの光玉は一番明るく安定している。ベレトの魔術師は光が弱い。私の光玉は不安定……

「ましになってきたじゃん」

ノアが私の光玉を見て言う。ラグナルの行方が知れないと分かってから、ずいぶん気を使われている気がする。この一年、共に行動してしみじみと感じた。自由奔放に見えて、根は素直で真面目なところがあるのだ。

「僕が五歳のころにつくった光玉よりはうまいんじゃない」

多分。

三つの光玉をゆっくりと穴に下ろし、ルツが鳥を飛ばす。

深く下に玉を飛ばすにつれ、真っ黒な穴に光を吸い込まれるように光が小さくなっていく。まるで底なしだった。

この穴の中に真っ逆さまに落ちたのなら命はない。

けどラグナルならきっと、なんとか出来たはず。そう信じて、心を落ち着ける。

光の周りを飛んでいた鳥が、急に騒ぎ出した。

ばたばたと羽を動かし旋回してピィと甲高い鳴き声をあげる。

「何かあるみたいですね」

「イーリス、前に言ってたやつ持ってきてる?」

「今日、納品するはずだったのを全部持ってきた」

ぽんと懐を叩いて言えば、ノアの光玉をもう二つ作り出し降下させた。出力は最大。合計五つの光の玉を鳥が騒いだ高さで照らす。

しかし、地の底に向かって土壁が続くばかりで何も見えない。

「角度が悪いのかな?」

「ノア、やめろ」

ノアが穴に近づこうとするのをウォーレスが止める。

「反対側に回って見てこよう」

そう言って歩き出したのはキーランだ。

広間に開いた大穴の周囲をぐるりと回る。

「キーラン、そこ庇状になってる。もっと離れて!」

さらにもう一つ明かりを増やしたノアがキーランの歩みにそって穴の縁を照らしながら、叫んだ。

キーランは素早く穴から距離をとる。と、今しがたまでいた場所からほんの数歩先の足場が音を立てて崩れた。

ベレトの冒険者たちはその様子を見て、じりじりと後退しだした。

「おい、逃げ出すのはなしだぜ」

ウォーレスが釘をさすと、慌ててその場に足を止める。口利きがなくなると、ホルトンにはいられなくなると分かっているのだ。

キーランは私たちから丁度反対側までまわると足を止めた。じっと目を凝らし、ややして声をあげた。

「ノア、右手を照らしてくれ。ウォーレスのいるあたりだ」

ノアが光玉を動かす。

「何かありましたか?」

じっと一点を凝視するキーランにルツが声をかける。

「窪み……いや、おそらく横穴が空いている。だが小さいな」

難しい顔をして黙り込むキーラン。だが次の瞬間、大声を上げた。穴に向かって

「よせ! そこでじっとしていろ!」

皆の顔に一気に緊張が走る。

下方でからからと小さなものが転がり落ちるような音が響いた。

「下にいるのか?」

コリーが息を飲む。

キーランが頷く。と、ベレトからどっと歓声があがった。

「や、やった! 無事なんだな!?」

仲間の無事を知ってか、それともベレトの今後に安心してか口々に喜びの声を上げる。

キーランはコリーを一瞥した。

「静かにさせろ」

コリーが指示を出すまでもなく、一気に静まり返る。キーランは絶対に怒らせては駄目な人だと皆が学習済みらしい。

「た、すけて……くれ」

消え入りそうな小さな声だ。けど確かに助けを求める声が聞こえた。