作品タイトル不明
その11
「思っていたよりでかいな……」
遺跡を見渡せる場所に立ち、ウォーレスが誰に言うでもなく呟く。
遺跡はレオの言った通り窪地の中にすっぽり収まるように作られていた。薄茶色の柱の一本一本にまで装飾が施され神殿のようにも見える。
馬を木につなぎ、なだらかな傾斜を降りる。
間近で遺跡を見て、それが削り出した石材を積み上げて作られたものではなく、岩をくり抜いて出来ているものだと気付いた。
「こりゃ、すげえ」
ウォーレスが遺跡を見上げ感嘆の声をあげる。
その隣でキーランが今しがた降りた傾斜に手を這わしていた。その顔はいつになく険しい。
「キーラン、どうしたの?」
その様子に気付いたノアがキーランの側による。
「岩肌が滑らか過ぎる」
ノアは同じように傾斜を撫で、首をひねる。
「頑張って削ったんじゃないのー? 絶対に暇人が作った遺跡だね」
キーランはそうではないと言うように、首を横にふる。
「いくら人が踏み込まぬ岩山だとしても、この規模の遺跡が今まで見つからなかったのも腑に落ちない」
――まさか。
降りしきる雨と足元のぬかるみ。削られたように滑らかな岩肌。それらから導き出される予想を私は恐る恐る口にした。
「……水で隠されてた?」
キーランが頷き、三人が息を飲む。レオは顔を青ざめさせていた。
「そ、そういえば……、ここを見つけたとき、雨も降ってないのにどろどろだったって言ってたような……」
どうやら推測は当たりのようだ。なるほど発見されなかったわけである。
「待て、ずっと水没してたってんなら、それまでここに溜まってた水はどこにいったんだ?」
「水の通り道が出来たんだろうねー。例えば、地下とか」
ノアはスタッフで足元をついた。
その通りだとしたら、床は抜けるべくして抜けたと言わざるを得ない。問題はどこもかしこも崩落する可能性がある点である。
「時間はかかるが、安全を確認しながら進む」
キーランは荷物の中からロープを取り出した。
「先頭は俺が務めよう。ウォーレスとルツ。ノアとイーリスが組になり縄で体を縛れ。レオには殿を頼む。ベレトの他のチームは?」
「あ、はい。先に2チームが入っていると思います」
「彼らにも警告が必要だな。ルツ、鳥を飛ばしてくれ」
てきぱきと指示を出すキーラン。ロフォカレの次期マスターに選ばれるのも納得だ。きっといいギルドになるだろう。そう思うのと同時に少し惜しい気もする。キーランの腕ならばきっと長く現役を続けられるだろうから。だがベレトのように現役でありながらマスターを兼任するにはロフォカレは大き過ぎる。斯くなる上は、オーガスタスになるべく長く頑張ってもらうしかない。
預かっていた地図を見ながらキーランを先頭に遺跡の中を進む。月の明かりはすぐに届かなくなり、ルツの作り出した光の玉が遺跡内を照らしていた。
ノアは左手の壁に魔力で飛ばした塗料を、筋状に塗りつけながら進んでいる。万一、崩落があったりはぐれたりしたときに、誰でも出口までたどり着けるようにするためである。
遺跡の中には幾人もの人が行き交った跡があった。
この中にラグナルの足跡も残されているのだと思うと、どうしても気持ちが焦る。自然と歩く足は速くなり、前を行くノアの背中にぶつかった。
ノアが振り返る。
「イーリス、気持ちは分かるけど、今僕たちが一番気をつけないといけないのはなに?」
「……二次災害を防ぐこと」
今回のような場合救助隊の安全が最優先される。救助される人間が増えては元も子もない。
「ラグナルはダークエルフだよ? 腹がたつけど僕らとは身体能力も魔力も違う。大丈夫じゃないわけがない」
ふんっと鼻をならすとノアは前を向いた。
「ごめん……ありがとう」
私は大きく息を吸い込んだ。キーランやノアの言う通り焦りは禁物だ。
――ラグナルは大丈夫。絶対に大丈夫。
心の中で何度も反芻する。
と、同時に愚妹へと書かれた兄の手紙を思い出していた。
『狐の予言は絶対』
あのとき、白狐はこう言った。
『近くお前たちのうち一人に不幸が訪れ――ない』
お前たちとはすなわち、あの場にいたラグナル、ルツ、ノア、私。
――大丈夫。
兄の占はラグナルの無事を裏付けている。