軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その9

薬剤師仲間の予言通り、私に声をかけてくる男性はいなくなった。

ラグナルに昏倒させられた冒険者たちは、中堅ギルドに所属して大人しくやっているらしい。たまにすれ違うと物凄い勢いで挨拶される。

「バート、これ今回の分ね」

「おう、ご苦労さん」

昼間のバートは暇そうだ。喧嘩が起こるのは一杯ひっかけたあとの夜もふけてからが多い。欠伸をしながら、消毒して乾かした包帯をくるくると巻いている。

「なんだ、今日も一人か?」

バートは私の背後に目をやり、にやりと笑う。

私はバートを睨む。

「べつに別れたとかじゃないからね」

近頃、ラグナルは忙しそうだ。

私が調剤師としての仕事をしているとき、助っ人に呼ばれてはあちこちのギルドに助力に行っている。大人気である。

「私が一人で森に行ったら怒るのに、自分は自由に行動するってずるくない? お前もそう思うよね」

足元の狐を抱き上げる。あのときの白狐である。ラグナルがいない時のみ同行させていた。ただの狐にしか見えない白狐は今日も不満気にコーンと鳴く。

「惚気なら他所でやってくれ」

バートはしっしっと手で追い払う仕草をする。

「いや、惚気じゃないっしょ……違う?」

「惚気だ、阿呆」

なんだか釈然としない気持ちでバートの店を後にして、次の納品先であるロフォカレに向かう。

ジーニーと改良に改良を重ねた、狒々神の魔力回復用丸薬の納品である。

ケジケジ青虫は使ってないよ、とノアには言ってあるけど、実はこっそり入っている。

試作品には生絞りの汁をそのまま入れたけれど、衛生面と日持ちを考えてちゃんと火を通してあるから、許してほしい。

人でごった返す大通りを歩き、ロフォカレの扉を開く。

と、見慣れない男性とすれ違った。

服装からは商人に見える。護衛の依頼だろうか?

「ああ、イーリス。丁度よいところに」

ゼイヴィアに手招きされた。手には封書を持っている。

「先ほどの商人の男性から、この手紙を預かったのですが、イーリスあてではありませんか?」

やっぱり商人だった。

手渡された封筒には故国の文字で大きく「愚妹へ」と書かれていた。

「……兄からです」

私は薄ら寒い思いで封を開く。

どうして私がロフォカレにいるとわかったのか。ラグナルから聞いていた?

そんな疑問が顔に出ていたのか、ゼイヴィアが指で眼鏡を押し上げ口を開く。

「西の果て近くの街にいるダークエルフに渡してくれ、と頼まれたらしいですよ」

……なるほど。

西の果て近くの街にいる調剤師の妹に渡してくれ、ではきっと私の元へは届かなかっただろう。

しかしラグナルは人の街に住み着いた変わり者のダークエルフとして、今やホルトンどころか、周囲の街々にまで存在が知れ渡っている。

所在をつきとめるのは難しくなかったに違いない。

封筒の中には短冊状の紙が一枚。

「狐の予言に外れなし」

声にだして簡潔に書かれた文を読む。

思わず足もとの白狐を見下ろした。

「それだけですか?」

ゼイヴィアが眼鏡を押し上げた格好のまま尋ねる。

「それだけです」

私は頷いた。

兄の先見は深く考えては負けである。

だが、この日はなぜか妙な胸騒ぎがした……

ラグナルが戻っていない。

そう気づいたのは、兄から手紙が届いた日の夜遅く。

別々に行動していても、ラグナルは仕事が終わると必ず私の家に顔を出し、二言三言会話を交わして宿に戻っていた。

なのに、その日は待てど暮らせどラグナルが現れない。

痺れを切らして、その日ラグナルが同行するチームが所属しているギルド、ベレトに急いだ。

ベレトは比較的新しい中堅ギルドの一つだ。大通りから一本外れた通りにギルドハウスを構えている。新しいなりに中堅の地位にいるのは、他所から流れてきたそこそこ実力のある冒険者たちが所属しているから。あと、多少無茶をしているのもあるだろう。

酒場で絡んできた冒険者たちもベレトに所属しているはずだ。

夜も更けているというのにベレトには煌々と明かりが灯っている。この時点で、何かあったのだと分かった。

拳で木の戸を叩くと、返事も待たずに扉を開ける。

中に入ると、ベレト所属の冒険者でいっぱいだった。私の顔を見て、気まずそうに顔をそらす。

「何があったんですか?」

尋ねると、金の髪を束ねた女性が進み出る。見覚えのある顔だ。確か、ベレトの副ギルド長……

「副ギルド長のアビーです。イーリスさん、ですね?」

私は頷いた。