軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

束の間の眠り

リュイサさんの先導で、俺たちは〝世界の真ん中〟の入り口から少し離れたところへ移動する。

そこは〝黒の森〟でもそこそこ珍しい、開けていてなおかつ静かな場所だった。

なるほど、話を聞くならこういう場所のほうが良いな。さっきまで戦っていた場所の近くでは、なかなか落ち着かないだろうし。

リュイサさんは周囲を見渡し、改めて俺たち全員の無事を確かめてから、ふぅと息をついた。

「……やっぱり、〝ワーム〟の仕業だったみたいね」

リュイサさんは木漏れ日の下で腕を組み、ゆっくりとした口調で話し始めた。

「どういうことですか?」

とリュイサさんにリディが問いかける。

「簡単に言えば、この森の魔力の流れを、あれが乱していたの。〝大地の竜〟の魔力は世界中を巡っているけれど、とくに〝世界の真ん中〟は、竜そのものに近い場所。あんなものが住み着いて、好き勝手に動き回ったら……目を覚ましかけても仕方ないわね」

そして、「私のことでもあるんだけどね」とリュイサさんはちろりと舌を出す。

その話を聞いて、俺たちは思わず顔を見合わせる。さっきまでの戦いを思い返すと、リュイサさんの言葉は実感を伴って胸に迫った。

リュイサさんは少し歩きながら、森の地面に手を触れる。すると草花がわずかに揺れはじめるのが俺たちにも見えた。

キラキラしたものが見えるから、魔力の影響だろう。

「〝世界の真ん中〟、あそこはただの洞窟じゃない。皆が見てきたように、円形の広間や文様があったでしょう? 皆には言っちゃうけど、あそこは本来、〝大地の竜〟を起こさないように儀式を行う場所なの。だから竜の〝頭〟と〝心臓〟に近い部分に繋がっているのよ」

リディがはっとして息を呑む。

「……なるほど」

彼女は封印の文様を思い出しているのだろう。

ヘレンが腕を組み、少し険しい表情を見せる。

「けど、もし〝大地の竜〟が本当に目覚めちまったら、どうなるんだ?」

その問いに、リュイサさんはわずかに眉をひそめた。

「目覚めかけただけでも大きな地揺れや魔力の奔流が起こるでしょうね。完全に目覚めたとき、世界そのものがどうなるかは、正直、私にも断言できないわ。ただ一つ言えるのは、それを防ぐために、あの儀式が存在するってこと」

俺たちの背筋に冷たいものが走った。

しかし、リュイサさんはすぐに口調を和らげる。

「でも、そう心配することもないわ。今回は確かに厄介だったけど、あれを取り除けたのなら、竜はまた眠りにつける。……もっとも、あれがいなくても、竜が自分から目を覚ますときは、近く来るでしょうけどね」

「……それは、いつ頃なんです?」

俺は思わず聞いた。目覚めが近い、ということは世界の崩壊に等しいことが近づいているんじゃないのか?

俺の表情が相当険しいものになっていたのだろう、リュイサさんは苦笑した。

「安心してね、竜の時間で言えば『近い』って表現になるけど、人間の時間に直せば――そうね、数千年は先よ」

それを聞いて俺は肩の力を抜き、息を吐いた。

「数千年……我々には気の遠くなるような時間ですね」

「ええ。だから、あなたたちの代で気に病むことじゃないの。ただ……今回の件は、そうした〝遠い未来〟とは関係なく、目覚めを引き起こすほどの事態だった」

リュイサさんは真剣な眼差しになり、俺たちは思わず背筋を伸ばす。

俺に合わせてくれたのだろうか、リュイサさんは頭を下げた。

「ありがとう、助かったわ」

「そんな、頭を上げてください。我々にとっても他人事では済まない事態でしたし」

ワームが存在し続ければ、竜が本当に起きてしまう可能性があった、と聞かされれば、出来る人間がやるしかなかった。

リュイサさんは俺の言葉で頭を上げてくれたが、表情は引き締まったままだ。

どうしたものかと思っていると、ルーシーが尻尾を振り、クルルが小さく鳴き声をあげる。

それで俺たちの緊張の糸が一気に切れた。今さっきのも、その前から弛緩しきっていなかったのもだ。

全員が笑いだし、和気あいあいとした空気が広がる中で、リュイサさんはしばしみんなの様子を眺めていた。

やがて、その視線が俺に移る。

「――さてと。みんなは先に帰って休むといいわ。エイゾウくん、ちょっと残ってくれる?」

そう言われては、俺は頷くしかなかった。