軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファン

「おっ、君が〝迅雷〟か。君の話もよく聞いてるよ。最近は引っ込んでいるようだが」

俺との握手を終えたルイ殿下は、そう言ってヘレンにも手を差し出す。しぶしぶといった感じを隠そうともしないヘレンがその手を握ると、殿下はサッとその手を上下させて離した。

「あまり女性の手を握るものではないからね」

さっきとは違うなと俺が思っているのに気がついたのか、ルイ殿下は困ったような顔をしてそう言った。

セクハラという概念が発達していそうではないが、いかにも昭和のエロオヤジ然とした行動を見かけたこともないので、みだりに異性に触れるものではない、くらいの話はあるんだろうな。

ルイ殿下の場合は特に王族ということもあって、ちょっとした行動が憶測を呼びかねないわけだし。

王族をよく思っていない者も少なくはないだろう。そういう輩にとっての「揚げた足」になりかねないので、普段はあまり触れないようにしている、というのは普通に納得できる話だ。

そんな人物がこうやって市井の、それも末端と言って良い地位にいる2人と気安く触れ合っているのは、見る人が見れば目を回す光景だろうな。

今もニヤニヤ笑っているマリウスがそちら側ではないのは確実だが。

「ええと、殿下、先程の『〝遺跡〟はどうでもいい』とは……?」

俺は眉根を寄せてルイ殿下にそう尋ねた。本来の目的は〝遺跡〟ではないと言う。準備が全体的に軽めだなと思ったが、それが「そんなところまで行かない」よりも前の話だからだとは思っていなかった。

「今回はエイゾウくんと顔合わせするのが一番の目的だからね。以前に連絡を取っただろう?」

「連絡……?」

はて、王国の王族から連絡を受けたことなどあっただろうか。帝国の帝室の人間ならうちにいるが。いや、待て、王国……連絡……。

「あっ」

俺は淡い黄色のドレスを纏い、ボブカットの銀髪の女性の姿を思い出した。

「確かあれはマリウ……伯爵閣下の結婚式のときですかね」

そう、マリウスの結婚式のとき、アネットという名前の、王家の係累を名乗る女性がコンタクトを取ってきたのだった。

あまり面倒に巻き込まれたくもないから放ったらかしにしていたので、すっかり忘れてしまっていたな。

「そうとも」

ルイ殿下は満足そうに頷いた。

「あれからなんの連絡もなかったので、私は実に寂しかったぞ」

ヨヨヨ、とわざとらしく泣いたフリをする殿下。

「それはともかくだ」

ルイ殿下はスッと居住まいを正し、真面目な顔つきになる。

「私が純粋に君の作るもののファンなのもそうなのだが、君のように力を持った人間にはあまりフラフラとして欲しくなくてね」

俺の後ろからジリッ、と姿勢を変える音がする。ヘレンだ。まだ鍔鳴りまでは聞こえないので、剣に手をかけているわけではないらしい。

その様子を見たのかどうかは分からないが、ルイ殿下は破顔一笑した。

「だが、君を力づくで抑え込むのも本意ではない。そんなことをすれば帝国から何が飛んでくるやら知れたものじゃないし、何より私がそうしたくはない。幸い、エイゾウくんの力量を知っているのは私だけでね」

そう言って少し胸を張る殿下。

「それは私が『そういう仕事』をしていて、その情報を抑えているからなのはあるんだが、この状況を変えるつもりはない」

「はあ……」

今ののんびりした生活が続くなら、俺としては願ったり叶ったりである。特に異論はない。だが、それをわざわざ俺に伝える必要もないはずだ。

俺が困惑していると、ルイ殿下は言った。

「エイゾウくん、自宅を要塞化してるって聞いたよ」

俺は驚いた。俺達が〝黒の森〟でしていることは誰にも言っていないはずだ。あの森の奥でこっそりとやっていることを把握しているのは、それだけの能力を持った人間が殿下の配下にいるということになる。

俺からのリアクションを待たずに、ルイ殿下は続ける。

「それは正しい行動だから咎めるつもりはないし、進めてもらっていい。誰の領地でもないしね。でも、移住も視野に入れているならちょっと待って欲しいんだ。君たちに危険が及ぶ可能性は減らしておくと、私が保証するから」

真剣な眼差しでルイ殿下は俺を見つめた。そうする理由は俺という人材を、たとえ積極的に王国に与するものでなくとも置いておきたいから、だろうな。それはさっきルイ殿下が自分で言っていたのだし。

「こういう話をするのに書状を送るわけにもいかないし、使者を送るよりも本人が来たほうが良いと思ってね」

考え込んでいた俺に、ルイ殿下は再びナイスミドルのウィンクを飛ばす。

ここにサーミャがいれば嘘かどうか分かるのだが……いや、王家の一員が保証するとまで言っているのだ。ここは信用する以外にないな。

もし嘘ならそれこそ王国を離れれば良い。帝国ならいつでも受け入れてくれると思うし(宮殿住まいはゴメンだが)、俺がそうすることはこの殿下ならすでに理解していることだろう。

「お心遣い、いたみいります」

俺はそう言ってお辞儀をする。ここは北方式で対応しよう。

「とは言っても本気で危ないと思ったら、自分たちのことを考えてくれ。君たちを失うことが痛手だ、というのは私たちの都合だから」

ルイ殿下は俺の目をじっと見つめて言った。俺は再びお辞儀をして、了承の意を示す。

殿下は満足そうに頷くと、

「さ、それじゃあ、表向きの仕事にとりかかろう!」

と朗らかな声で、紙の置いてある卓へと向かった。

俺とヘレン、そしてマリウスもその後を追う。

追いついてきたマリウスに、俺は尋ねた。

「これ、もし俺が来なかったらどうするつもりだったんだ?」

「来ただろ? で、万が一来なかったら『本来の』仕事をして帰って、また別の機会を設けるだけだよ。ご家族に言伝くらいは頼むだろうけど」

悪びれたふうもなく言ってのけるマリウス。俺は大きな大きなため息を一つついて、殿下の後を小走りで追った。