軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミスリルの細剣

熱したミスリルを叩いて細く伸ばしていく。同じ長さまで伸ばすのに、通常の鋼の2~3倍ほどの時間がかかっているように思える。ただ、さすがはミスリルだなと思うのは、鋼だと必ず発生している組織のムラのようなものが無いことだ。伸ばすことに集中できるのはありがたい。

後はやたら軽いのも伸ばす作業を楽にしている。何度も火床に入れるなら、軽いに越したことはない。とは言っても、叩くべき場所を間違えるとすぐにダメになってしまいそうな感じもあるし、伸ばすときに断面が菱形になるように端が薄くなるように、チートをフル活用して叩かないと、とんでもないことになるので、叩くこと自体に相当の集中力を要する。

そうなると作業するには時間をかける以外にないが、それも叩いた時の音がとても澄んでいるので割と楽しい。3人もこの音は気に入ったようで、

「綺麗な音がするんだなぁ」

「楽器みたいだよね」

「サーミャもリケも気に入ったのね。私もだけど」

口々に音を褒めている。勢い、叩く速度も上がる。その分ほんの少しだけ伸ばすスピードも上がるのだった。

間に昼飯を挟んでも、まだ伸ばす作業は終わっていない。更に叩いて伸ばしていく。

「飽きないか?」

ずっと作業が続いているので、俺は3人にそう聞いた。

「いや? 見てると結構楽しい」

「私はこれも勉強になりますので……。それにミスリルの鍛造なんて実家でも見たことないですし」

「そうそう。音も綺麗だし、叩いて少しずつ伸びていくの見てると飽きないわ」

三者三様に否定の言葉が返ってくる。

「そうか。それなら良いんだ」

俺は再び鎚をミスリルに振り下ろす。やがて、一番太い幅が2.5センチほど、長さ1メートルほどの、断面が菱形で先端が少し細くなった板に、棒状の握りが付いたミスリルの棒が出来上がった。板部分の先端は剣の切っ先になるので、更に少し叩いて鋭くなるように調整をする。これで基本の形自体は完成した。

そこからいきなり研ぎを入れていく。鋼であれば焼入れや焼戻しが必要になるが、ミスリルには要らない。十分な加工設備と一定以上の腕前があれば、量産に向いている気はする。実際には原材料の流通量が十分でないし、加熱もシビアなので前の世界のようにコンピュータ制御が可能ならまだしも、流石にまだそこまでは文明が進んでいないこの世界では、バンバン量産できるものでもないだろう。

普通の砥石で果たして研げるのか不安だったが、チート最大活用でなんとか研ぐことができる。これもほんの少しでも角度やなんかがズレたりしたら、一発で刃がダメになってしまいそうな感触が指先から伝わってきた。集中を切らさないようにゆっくりゆっくりと研いで、刀身に刃をつけていく。

砥石の上で刀身が動く度に、シャランと涼やかな音が流れ、見学者たちの耳を楽しませている。忍び足をするようにそろそろと刀身を動かして、たっぷりと時間をかけてやっと刃をつけることができた。

「よし、これで刀身はできたな」

「もう振るえるの?」

ディアナが頬を紅潮させて聞いてくる。

「握りに革も巻いてないし、護拳もつけてないが、振るだけなら」

「やってみてもいい?」

「スッポ抜けると危ないから、外でな」

「うん、わかった」

俺はディアナにミスリルの細剣を渡す。

「わ、軽いわね」

「"羽毛のように軽い"とまで言われることもあるが、そこまでではなくても、鋼と比べたら棒っ切れみたいに軽いよな」

「ええ。この軽さなら突きも素早く繰り出せるわね」

「だろうなぁ。じゃあ外に出よう」

俺たちはゾロゾロと外に出た。みんな一様に目が輝いている。当然ながら俺もミスリルなんてものを見るのは 生(・) ま(・) れ(・) て(・) 初めてだ。ワクワクが抑えられない。

まずは何もない状態でディアナがレイピアを振るう。基本的には前後左右に動き回って突きを繰り出す動きだ。軽いからか、それなりに鋭く突いているのに、すっぽ抜ける様子はない。突きの速度もショートソードとレイピアの違いがあるとは言え、相当に速くなっているように見える。さながら舞を舞っているようで、サーミャとリケは動きに見入っていた。

レイピアは「斬り」もできる武器なので、「斬り払う」と言うほど大きくは動かさないが、突く動きに斬る動きも織り交ぜてディアナが動いている。この動きも、いつもの稽古の時よりも随分と速いように思う。

「武器が軽いからか、だいぶ動きが速いな」

「やっぱり? なんだか身体自体が軽く感じるし、レイピアが軽いから体力の消耗も少ないみたい」

「なるほどなぁ」

武器は軽いに越したことはないよな。重さ自体が武器のハンマーなんかはともかくとして、斬る、突くの武器はそこまで重さはいらないからな。

「じゃあ次は的ありでやってみるか」

俺は材木を立ててみるだけの的を用意した。

「これを突いたりすればいいの?」

「うん。倒れるかも知れないから気をつけろよ」

「わかったわ」

ディアナは剣を的に突きつけるように構え、スゥッと息を吸い、ゆっくりと吐く。辺りをただ風の渡る音だけが覆う。おそらくは数秒ほどの時間が数分以上にも感じたとき、

「ハッ!」

気合一閃、ディアナが持てる力の全てをレイピアに注ぎ込むかのように突きを放つ。

レイピアは狙い 過(あやま) たず的の材木にその切っ先を 埋(うず) める。音はしていない。傍から見ていると、材木がレイピアを呑み込んだようにも見える。ディアナは突きを放ったときに負けず劣らずの速度で、レイピアを抜く。

そこにはレイピアの切っ先の形の穴が穿たれていて、さっき突き刺したように見えたのが、「そう見えただけ」ではないことを俺たちに雄弁に物語っている。

「これは……凄いわね……ほとんど手応えがなかった」

「さっき何もないところに突きを放っていたときと感覚的には変わらない?」

「そうね。ほぼ同じだわ」

「なら、上手く行ってるな。貸してみろ」

俺はディアナからレイピアを受け取ると、先端部分を 矯(た) めつ 眇(すが) めつして確認するが、歪みも刃こぼれも皆無である。刀身はこれで完成と言っていいだろう。

だが、俺は1つあることを思いついた。ディアナにレイピアを戻すと、作業場から縄と板金を持ってくる。それをさっき的にした材木にくくりつけた。

「よし。今度はこいつを突いてみろ」

「うん。わかった」

ディアナは素直に頷くと、再び構えて、今度はさっきよりもやや気楽な感じで突きを放つ。チリンと軽やかな音が辺りに響いて、くくりつけられた板金にはやはりレイピアの切っ先の形に穴が空いている。再びレイピアを確認するが、やはり歪みも刃こぼれも、傷すらもついていない。

「これはちょっと、とんでもないものを作ってしまったかも知れない」

俺がそう言うと、見ていた3人は神妙な面持ちで頷くのだった。