軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神竜の爪

「これを少し煮出すだけで大丈夫ですよ」

そう言いながらリディは加工品を作るための鍋(温める必要がある素材も多い)に湯を沸かし、素材を切る専用の包丁で刻んだり、ゴリゴリと乳鉢で細かくすりつぶしたりしたものを湯の中に入れていく。

一見すると薬を作っているようにも見える。実際近いものではあるのだが。

素材が投入された鍋は一瞬温度が下がって、湯が踊るのを止めたが、すぐに投入された素材たちと再びダンスを始めた。

それを見るや、リディは鍋の火を落とす。

「これで後は冷めるのを待てば大丈夫です」

リディの手際が良すぎて、俺とリケ、それに様子を見ていた他の皆は「ほほー」とかなんとか言うばかりで、学ぶスキがあんまりない。

取りあえずどの素材を使ったかは覚えているし、ザックリした工程も見たから、あとはちょっとした試行錯誤とリディに教えて貰いながら、なんとか出来るようになっていくとしよう。

温度が下がってすっかり落ち着いた塗料を刷毛に取って柄にひと塗りすると、うっすらと色がついた。

今のところはなんとなく緑がかっているような、といった塩梅である。白っぽいところを見れば確かに色が付いているが、そうでないところはほとんどわからないくらいだ。

一度で色が乗らないので、この作業は根気よくやる必要がある。俺が刷毛を一度走らせる度に少しずつ、柄に緑色がつく。

そして、塗っては少し乾かすのを繰り返す。幸いというか、鍛冶場は火を扱うので湿度が低くて高温になっており、乾燥するのが早い。

なるべく薄く塗ることで乾燥しやすくし、塗り重ねられるまでの時間を短くする。

それと、我が家には「もう一押し」があった。

「頼んだぞ」

「もっちろん!!」

そう、うちの末の娘こと、マリベルだ。炎の精霊である彼女の手を借りれば、燃えたり、塗料の色が変わってしまわない程度も可能だそうだ。

「そのために特訓してきたからね!」

とは頼もしい娘の言である。こうして娘の力も借りて作業を進めていった。

しかし、それでも一朝一夕で完成するというものでもなく、この日は「なんとなくそれっぽい色になってきた」ところで終わった。

夕飯もサッサと済ませて、翌日に備える。家族の皆も完成が近づいていることが分かっているらしく、いつもは賑やかな食卓が少しばかり静粛な雰囲気で、早めに寝室に引っ込んだ。

翌朝。春の夜明けは爽やかな風を運んでくる。少しばかり肌寒さもあるが、その中にはしっかりと春の陽気が含まれている。

そんな空気の中、娘達と水を汲みに出かけた。今日はきっとあれが完成だろうと思うと、なんとなく足取りも軽い。

それに合わせたというわけでもないだろうが、娘達もウキウキと足取りも軽く湖へ向かった。

滞りなく水汲みを終え、朝食と朝の準備までを素早く済ませた俺たちは、鍛冶場の神棚に向かって二礼二拍手一礼の〝いつも〟の朝の拝礼を済ませる。

なんとなく、今日は女神像もヒヒイロカネもアダマンタイトも明るく輝いて見える。

俺は自分の頬を張って気合いを入れた。

やること自体は昨日と同じだ。塗って乾かして、また塗る。今日は全体の様子を見つつ、リディにもバランスを確認して貰いながら、作業を繰り返していく。

やがて、俺の手には爪が一つ無いドラゴンの手が乗っていた。

「おお……」

まるで血が通っているようにも見える。ある程度デフォルメをしているから、生きたドラゴンから切ってきたよう、とはいかないが、多少動いても違和感がないほどだ。ちょっと気合いを入れてやり過ぎたかも知れない。

いや、ここに入る刃のことを考えれば、これくらいの柄でなければ見合うまい。

「出来たの?」

「もうちょいだな」

こっちで作業に一区切りついたことを見てとったディアナに、俺は答えた。

そう、最後の重要な作業が残っている。

俺は神棚に飾って(祀って?)いたオリハルコン製の刃を持ってくると、柄に差し込んで、目釘で留める。留めたところを樹鹿の角で作った蓋で埋めて、一見すると目釘がそこにあるようには見えなくした。

「これで完成だ」

ワッと、鍛冶場に歓声が広がる。そして、リケが言った。

「これには名前をつけるんですか?」

「名前か……」

これまであまり名前をつけては来なかった。俺の刀である〝薄氷〟は刀であることもあって銘をつけたが、それ以外にはほぼない。

しかし、オリハルコンという最上の素材を使ったものでもあるし、今のところ俺が作れる最高峰と言っていいものでもある。

何か名前をつけるのも、おかしい話ではないだろう。しかし、あまり捻った名前でも分かりづらくなってしまう。

ここはストレートにつけるか。

「そうだな、竜の……」

いや、素材を考えれば少しだけ「盛って」も文句は出るまい。

「これは〝神竜の爪〟と名付けようか」

そして再び、鍛冶場には歓声が広がるのだった。