軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

罠の算段

罠、というか警報の設置をすることにはなったが、昼飯の前にはクロスボウの修理を済ませているとは言え、納品物をリケに任せっきりにするわけにもいかない。

弟子なのだから任せても良いのでは、という向きもあろうし、実際に当のリケがそう言ってたりはするのだが、自分の仕事だからというところがどうしても抜けきらない。

前の世界で「自分でやった方が早い」と後輩に任せず、ちゃちゃっと自分でやってしまったりしたが、あれに似た感覚ではある。「あまり良くないですよ、それ」と後輩に叱られたりもしたのだが、なかなか抜けきらないところだ。

まぁ、納品物は単に金品との交換以外にも、情報を得るための材料でもある。この世界における世間的な「今の」情報は、マスメディアやインターネットのないこの世界では、カミロが教えてくれるものがメインになってくる。街や都へはあまり行かないし。

カミロは元々行商をメインとしていて、今は店を構えてはいるが、あちこちに人をやっていたりするので、市井の情報が集まってきやすい。

そもそも彼のような商売をする人間にとっては、そういった情報は商売の上でも重要になってくる。

それに、彼の情報源は貴族の方にもいる――王国だと主にマリウスと侯爵だが――ので、どちらの情報も得られるというわけだ。

そんなわけで、2~3週間おきのニュース番組として彼が整理してくれた情報が役に立っているのだが、それをしてもらえるだけの働きは自分でやらなきゃ、と俺は思っている。

それで今、俺は“いつもの通り”に板金に鎚を振るっているわけである。外に出て飯を食っているときは、少し肌寒さを感じたのだが、今はその全く反対だ。

今日は炉の方を動かしていない(仕上げる短剣も十分な数が揃っている)ので、その分はマシだが、火床だけでも結構な温度になるし、その上全力で鎚を振るうのである。かなり汗をかいている。

今のところ、汗をかいた先から冷えていくということもないので、湯冷めのような状態を気にする必要はなさそうだが、暑さが続くのもなぁ、といったところだ。

しかし、これはこれで「作業をしている」という気になっていい。無心で鎚を振るうのも嫌いではない。ややワーカホリックにも思えるが。

「ああ、そうか」

そして数本のナイフを仕上げ、合間に水分補給をしながら、俺は思いついた。

「アラシにカミロの情報を持ってきてもらえばいいんじゃないか」

アラシもハヤテに会えるし、俺は1週間前後のスパンで定期的に情報が得られる。悪くないアイディアのように思えた。

この辺の話は一度ディアナやアンネに聞いてみるのが良さそうだ。俺はそう判断して、自分の作業に戻った。

「うーん。アイディアは良いと思うんだけどね」

1日の作業を終え、温泉で身ぎれいにし(湯冷めしないよう素早く家に戻った)たあとの夕食。話を切り出した俺にアンネが首をひねった。

「なんか気になることが?」

「小竜が定期的に行き来してるとこって怪しまれるかも、ってことでしょ」

アンネの代わりにディアナが答えて、続けた。

「私なら、どこまで行けるかはともかく、気になったら後を追うわね」

「“黒の森”まで入ってくるかなぁ……」

「そこは賭けになるでしょうね」

引き取ったのはアンネだ。今度は彼女が続けて言った。

「あの人の場合は元々それなりに名の知れた行商人だった上に、店を構えて大きくしていってる。そんな商人がやりとりをするのに小竜を使うことは十分にあり得るから、そもそも不審がる人が少ないかも知れない」

一瞬、弛緩した空気が流れかけるが、アンネは更に続ける。

「ま、逆に言えばそこで不審に思う人はそれなりの手練の可能性があるってことだけど」

俺は部屋の温度が下がったような感覚を覚えた。

ゴクリと生唾を呑んだのは俺か、はたまた別の誰かだっただろうか。「あってもおかしくないこと」を不思議に思う人間が普通でないのは確かだ。

ストーブの中で薪が爆ぜる音がやけに大きく聞こえる気がする。

そこへ、呑気な感じでサーミャが言った。

「じゃ、罠を張るのは正解ってことだな」

「あ、そうね。それは確かに」

アンネが頷く。

こっちには“森のプロ”(リディのことだ)と“黒の森のプロ”(もちろんサーミャ)がいるし、それに伴う道具は俺が作る。それなりの手練でも引っかかる罠ができるだろう……できて欲しいな。

「そういうのは役に立たないに越したことはないし、カミロさんの持っているものだけとは言え、定期的な情報に魅力があるのも確かね……」

おとがいに手を当て、アンネがつぶやく。ディアナが小さく手を挙げる。

「私が兄様のところに手紙を出して、送ってもらうようにしようか?」

「そっちからのも届けてもらうのか」

「うん。結局カミロさんのとこ経由なのは変わらないけど」

「ヤツもマリウスの情報は無下にしないだろ」

「そうね。それをしたら立場上あまり良くないしね」

その後、あれやこれやをみんなで話し合った。うちの家族はこういうときも結構生き生きとしている気がする。自分たちの生活に直に関わってくるからだろうか。

最終的に、次の納品の時にカミロに打診することにした。OKならディアナからマリウスに宛てた手紙も届けてもらう。

その手紙では、マリウスには俺たち(公式には帝国の第七皇女たるアンネも含めて)に教えて良い範囲で適宜情報を送ってもらうよう要請する。伯爵閣下を顎で使う感じになってしまわないかと、スパイの嫌疑がかかってしまわないかが心配だったが、

「妹に手紙を送る兄で通るでしょ」

とディアナが気楽な様子で言ったので、そこは気にしないことにした。そもそも今更でもあるしなぁ。

もちろん、カミロにもマリウスにも相応の謝礼は払うつもりだ。

罠の設置は急ぐものでなし、次の納品後か、もしそこで気温やら何やら的に厳しそうであれば、春になってからでも良かろうということになった。

しばらくはバタバタと“しない”、のんびりした生活になりそうだな、そんなことを思いながら、俺は晩飯の片付けを始めるのだった。