軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暖かさ

夕食を終えた後、俺達は居間の片隅に集まった。そこにはどでん、と四角い箱が鎮座している。箱は鋼鉄製で、4本の脚が生えていた。

箱からはパイプが伸びていて、その行く先は壁に空いた穴を経て外だ。

鎮座した箱は言うまでもなく完成したストーブである。パイプからの輻射熱は居間に設置するストーブでは考えないことにした。ストーブにはちょっとした彫刻と、我がエイゾウ工房のマークが刻みこまれている。

ストーブの周りには柵も置いた。クルルは家には入れないから良いとして、ルーシーとハヤテが触れないようにだ。2人とも賢いからある程度理解はしているだろうが、念のためと言うやつである。

一瞬、前の世界で「ひどい火傷にならないくらいの温度の時にわざと触らせる」という方法があったのを思い出したが、それはすぐに頭から振り払う。あまり物騒なことはしたくない。

ストーブの側には割った薪が積まれていて、その分少しだけ居間が狭くなっているが、日々の生活に影響するほどではない。元々それなりに広いからな……。

うちの薪――というか、木材は乾くのが速い。普通よりかなり速いことを知ったのはつい最近の話だ。

居間に設置する前、正真正銘ただの箱と言っていいくらいのときに、試しに薪を入れて燃やしてみたのだが、そのときにリケがボソッと呟いた一言がきっかけである。

「いつも思うんですが、“黒の森”の木は乾くのが速いですねぇ」

その言葉に、俺とサーミャは目を丸くした。長くても1ヶ月くらいで乾くのが普通だと思っていたからだ。実際に庭の片隅に転がしてある伐採した(獲物の運搬台をバラしたものも含まれるが)木材はそれくらいか、もう少し短いくらいで乾燥していたので、建材だの燃料だのに使っている。

家族が住んでいる部屋は建て増ししたので、全てそういった木材でできている。クルルとルーシー、ハヤテのいる小屋もそうだ。

「えっ、そうなのか……?」

驚きながらも、おずおずと聞いたのはサーミャだった。俺は上手く声が出せないでいた。

「あれ、知らなかった?」

リケがサーミャに言った言葉に、俺とサーミャが揃って頭をブンブンと縦に振る。

「普通は早くても半年、大体1年とかそれくらいはかかるわよ」

「そうですね」

ため息をつきながらディアナが言って、リディが引き取る。ディアナが知っているのはなぜなのかはさておき、リディも言っているということは、

「アタイはてっきり分かってるもんだと思ってた」

「同じく」

ディアナのようにため息をつくヘレンとアンネ。知らぬは俺とサーミャだけだったようだ。

家族のみんなに聞いてみると、俺とサーミャ以外は「これは“黒の森”だからだな」と思っていたようである。俺とサーミャは「切り出した木」はここのしか知らないので「木とは押しなべてこういうものだ」――俺の場合はこの世界の、が頭につくが――と思い込んでいただけなのだが、何も言わないので皆は「当たり前過ぎて言わないのだろう」と思っていたらしい。大きな誤解である。

とりあえず薪をストーブに放り込んで魔法で着火し、パチパチと爆ぜる音が静かに響き始めると、自然と乾くのが早いのは何故かという話になった。乾燥が早くて曲がりや歪みが大きくなるということもないし、燃やした時にやたら煤が出るということもないみたいなので困ることは何一つ無いのだが、分からないのは納まりが悪いような心地になるからだろう。俺もその1人だが。

雨が少ないからか? いやいや、それならば街でもそう変わりないだろう、他に早いところはどこだろうか、帝国は比較的早かったけど、この森ほどじゃないわねぇなどと話していると、

「おそらく、この森の樹木は生長に魔力も併用してるんじゃないでしょうか」

と、リディが言った。

「クルルみたいに魔力を併用していれば、水や養分が少なくても大きく育つのは不思議じゃないわね」

「水が少ないから、乾くのも速いってことか」

ディアナが言って、アンネが続き、リディは頷く。

遠くに山はあるものの、平原の真ん中と言っていい場所に広大な森があるのも何かおかしいなとは思っていたのだ。一番の問題は、雨季があるにしても森の規模に比して降雨量は大したことがない。俺は湖で湧く以外に伏流水などがあって、そのおかげで木々がここまで広がったのだろうと推測していた。

実際に掘れば井戸は湧くし、温泉も出た。排水できるところもあるし、そうおかしな推測でもないと思っていたのだが。それでも忌避されるうちの魔力よ……ん? まてよ?

「畑の作物が普通……と言ってもエルフの作物での普通だけど、とにかく特に枯れたりしないのはなんでだろう?」

畑はうちの中庭にある。ある意味一番魔力が濃いところにあるはずなのだ。エルフの作物は魔力があることで成長が早くなり、年に数度の収穫ができるものすらある。

エルフの森以外で育てると普通の作物と変わりなくなってしまうのは、魔力の有無の違いだと、リディが言っていた。

「私達エルフと同じで無尽蔵に吸収しているわけではないからというのも考えられますね」

エルフは生命の維持に魔力を必要とする。街や都でエルフをほとんど見かけないのはこれが理由だ。エルフのリディも故郷の森を追われたあと、都などではなくうちに来たのは魔力のことがあってである。

そして、魔力の濃い“黒の森”にあって更に濃いうちにいても、リディが「魔力酔い」のような事にならないのは、魔力をガンガン吸い上げたりしているわけではないから、だそうである。

エルフの作物も意思があるわけではないだろうが、何らかの仕組みで一定以上の魔力を吸収しないようにしているなら、普通に育ってもおかしくはない。

「ふむ……」

俺は顎に手を当てて唸った。ん? あれ? なんだか、鍛冶場にいるような気になってきたな……。

「あ、そうか」

くるりと見回すと、自分はここにいると言わんばかりにストーブが熱を放ちはじめている。それで俺のところまで暖かい空気がやってきて、火床に火を入れたときのように感じたようだ。

「おおー、ちゃんと暖かいな」

「いいわね、これ」

あまり寒さには強くないらしいディアナが、俺の横に来てストーブに手をかざす。

「あんまり近づきすぎるなよ」

「分かってるわよ」

そう言うディアナに小さく苦笑しながら、開いたストーブの口に薪というご飯を入れてやるのだった。