軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

僅かな平穏

とりあえず他に用事も無い。俺たちは今日のところは帰ることにした。

「次はまた2週間後でいいか?」

椅子から立ち上がりながら、カミロに尋ね、彼は頷いた。

「ああ。何かあったら連絡する」

「分かった」

今度は俺が頷いて、納品したものから購入したものを差し引いたぶんの代金を受け取って、部屋を出た。

いつものとおりに丁稚さんにチップを渡し(ハヤテのぶん今回からわずかばかり額を増やした)、娘たちをお迎えしたら、クルルに買ったものを満載している荷車を繋いで出発である。

この間、皆ほとんど何も言わなかった。丁稚さんが小首を傾げるほどだったので、相当に静かだったことは確かだ。

リケが手綱を操るとゴトゴトと音を立てて、荷車は街路へと出ていった。

街路は来た時と同じく人でごった返している。空の女神様はいよいよ今にも涙を零しはじめそうで、早めに用事を済ませようとしているのか、両手に荷物を抱えた人が多い。

クルルがその人の波を上手にかき分けながら、荷車は街の外へと出ていった。

「さて、それじゃあリディ」

街の入口の衛兵さんに挨拶をしてしばらく。俺はリディに声をかけた。リディはこちらに顔を向ける。

「ちょっと見てくれないか」

「……ああ。わかりました」

一瞬頭に疑問符を浮かべたリディだったが、俺がついとハヤテに手を伸ばすと頷いた。

カレンがいないことを理解しているのかいないのか、ハヤテは俺の腕に乗り移ってから落ち着いている。

リディがそっとハヤテに手をかざした。ハヤテは小首を傾げているが、特に嫌がる様子はない。

しばらく撫でるように手を動かし、リディは手を遠ざけた。

「どうだった?」

「大丈夫そうです」

俺はほっと胸を撫でおろす。ハヤテは翼の手入れを始めた。それを見ていたディアナがおずおずといった感じで尋ねてきた。

「今のは何をしたの?」

「ハヤテに何か魔法がかかっていないか確認して貰った」

俺が気にしたのは、ハヤテの視覚なり聴覚なりを共有する魔法がかかっていないかどうかだ。

もし、そのたぐいのものがかかっていたら、俺達のことは筒抜けになるかもしれない。まぁ探られて痛い腹でもないし、気にしなければそれまでなのだが。

「この子には何もかかってませんでした。もし“遠見”の魔法を使われたら、この子は関係ないですが、あの場所に限っては大丈夫だと思います」

リディは荷車の上の皆に聞こえるくらいの声で言った。

「あの場所に限って、ってのは? あそこにまだ何かあるのか?」

そう尋ねたのはヘレンだ。他の家族も思ったらしく、ウンウンと頷いている。

「あそこは魔力が濃いので、その場で魔法を使ったりするぶんには都合がいいんですけど、“遠見”みたいな離れた場所から使う魔法の場合、かき乱されやすいんですよ」

「はー、そういうのもあるのかぁ」

感心したようにヘレンが言う。なるほどなぁ。あの場所……つまり、我が工房は魔力が強くて木々も避ける(草は少し生えている)ほどで、普通の動物は近づかないし、“人避け”の魔法のおかげで普通の人間は分かっていても近寄れない。

それだけでも十分な防犯なのだが、遠距離からの監視などにも対応しているとは。

アンネが口を開いた。

「じゃ、仮に“遠見”の魔法が使えるからいいやと思ってさっさと帰ったんだったら」

「今頃がっかりしてるかも知れませんね」

ニッコリとリディが微笑む。“遠見”の魔法はある程度場所を知っていないと使えないらしい。仮にリディが“遠見”を使えたとしても、極端な話ここから北方を見に行くことはできない。

カレンをうちに寄越したのは、その辺の意図もあったのかも知れない。リディはそう付け足した。

「まぁ、とりあえずは何事もなさそうで良かったよ」

「そうねぇ。それはともかく」

俺の言葉に、ディアナが反応する。

「家についたら、説明してくれるんでしょうね?」

表情はにこやかだが、確実に、ハッキリとした迫力のディアナに俺は頷くしかなかった。