軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ひとまずは

「すんなり『お引き受けします』とは言いがたいのが正直なところです」

俺はそう言ったが、カレン伯父とカレンに極端にガッカリした様子はない。

「貴方のところをスパイしてましたけど、弟子入り良いっすか」で「はい」と答える人がそういないことは理解しているようだ。

家族からの反応は無い。放置というよりはまぁ、弟子の話なら判断するのは基本俺だし、口出しするのははばかられる、と思ってくれているのだろう。

「北方から技術力の流出、という面では理解はしますが、一度信用できなくなってしまった方を弟子として置いておけるほどの心の広さは私にはありません。申し訳ないですが」

一瞬だけ逡巡したが、せめてもの礼儀として俺は頭を下げた。

あとはできて腰のものを見せてやるくらいのことで、それもヘレンが守ってくれるだろうという甘えがあってのことだ。あれも後でヘレンにも怒られそうだな。

俺の技術を得る、という点においてはリケも変わらない。押しかけてきたし、ドワーフの弟子入りの風習だと言われたが、インストールに該当する知識は無かったので、疑う余地はいくらでもあっただろう。

まぁ、インストールにはこの世界で生きていく上で困ること以外の知識はあんまりない。

例えば貴族に対して極端に無礼な対応をして、打ち首になってしまわないように、その辺りの簡単なお作法の知識があるし、動物が食べられるかどうか、傷や熱に効く薬草など、生命活動を行う上で重要になりそうな知識もあるのだが、細かい地域や種族の風習、動物の生態については入っていない。

そういうものは自分で調べるなり会得したほうが楽しかろうという、ウォッチドッグの計らいだろうと思うことにしている。

それはともかく、最初はなし崩しではあったが、ゼロスタートからここまでの経緯で信用を得てきたリケと違い、カレンはマイナススタートだ。

少なくともゼロにしてからでないと、受け入れることは難しい。

「……そうですか」

眉尻を下げ、カレン伯父はふう、と息を吐いた。ため息というよりは、つかえたものを吐き出すかのような、そんな吐息。

「本当に申し訳ない」

「いえ、こちらこそ。調子が良すぎました」

再び頭を下げる俺に、カレン伯父も再び頭を下げる。頭の下げあいっこにならぬよう、頭を下げるのは1度だけにしておいた。

頭を上げたときにカレンの様子を窺った。あまりガッカリした感じはない。さりとて、にこやかにしているわけでもないので今どういう感情なのかはよく分からない。

「それではこれにて失礼仕ります。小竜はそのままで結構ですので」

驚くほどあっさりと、北方使節団(のようなものだが)は部屋を出ていった。多少慌てたように番頭さんが付き添って出ていく。もう少し食い下がるなりするものかと若干身構えていた俺は拍子抜けをした。

ハヤテとアラシはカレンに懐いていたし、少し悪いことをしたような気になったが、一度は条件を呑んだのだ、正当な手続きであったと思うことにしよう……。

そうして、部屋に一気に弛緩した空気が流れた。だが、もう1つ確認しないといけないことがある。

「で、だ」

俺はカミロの方を見やった。

「お前はどこまで知ってたんだ?」

言われたカミロは真剣な表情で口ひげを触った。「何をどこまで伝えていいか」を悩んでいるときの奴の癖だ。雰囲気でヘレンが焦れているのが分かったが、ここを急かしてもなぁ。

ややあって、カミロは口を開いた。

「カレン嬢が密偵のようなものだ、というのは知らなかった、てのだけは信じてほしいところだが」

「お前ほどの商人が裏を取らなかったのか?」

「裏は取ったさ」

カミロは苦笑した。流石に俺に紹介するのに、連絡手段欲しさに何もせずにいたわけではないらしい。

「ただ、お前も北方、向こうさんも北方ってことで多少甘かったのは確かだ。そこはすまなかった」

今度は頭を下げるカミロ。俺とカレンたちは同郷の人間ということになっているわけだし、「北方同士ならそういうもんか」くらいで見逃してしまった部分があるんだろな。

「頭を上げてくれ。その辺はお前に任せっぱなしにしている俺も俺だ」

俺もかなり迂闊であったことは間違いない。もう少し前から気にして、早めに指摘ができていれば、ここまでカレンにマイナスをつけることもなかっただろう。

そうすれば最低限、話を前に進められたかもしれないのだ。そこは俺の反省するところだと思う。

「それで、随分とあっさり引き下がったように思ったが」

一旦話を切り替え、俺は先程の様子に対しての疑問をカミロにぶつけた。

「この後、彼らは都に行く予定だからな。とは言え、ここまでさっさと行くとは思ってなかったが」

「ほう。あ、もしかして」

俺には思い当たることがあった。3週間前、最後にここに来たときに少し話した事柄。

「そう、侯爵と伯爵に会いに行くのさ」

「その内容は……」

カミロは首を横に振る。あまり俺が知る必要のないことだ、ということらしい。

「何かあればすぐに教える。なに、今度はヘマはしないさ」

ニヤリと、しかしどこか怒気をはらんだ笑い方でカミロは笑ったのだった。