軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

休めない休日

「あれ? 師匠と先輩は行かないんですか?」

「ん? ああ、俺とリケはお留守番だよ」

目を丸くしてカレンが言い、俺は頷いた。何回か誘われてはいるし、俺もリケも体力的には問題ないのだが、足手まといになるのはな、という事で遠慮しているのだ。俺は一度サーミャと2人で行ったことがあるけど、俺が弓の扱いに慣れていなくて危うく獲物を逃がすところだった。

それでも前の世界で弓を扱ったことがない俺が、完全に狙いを外して明後日の方向に矢を飛ばしてしまうということもなかったから、ウォッチドッグの言う「最低限」の能力は貰えているのだろうと思う。

とは言え、餅は餅屋だ。“黒の森”のプロたるサーミャに一切を任せ、後は希望者で行くのが良かろう、ということでこの体制なのである。

ええ~、とかなんとか言っていたカレンだったが、皆に促されると弓を担いで出ていった。何かあったときのためにと、ハヤテも連れて行っている。

今までなら連絡手段がなかったため、何かあっても俺たちは家でやきもきしながら待っているしかなかった。家の周りくらいなら平気だが、それ以上となると迷うリスクがあるし。

今回はハヤテがいてくれるので、何かあれば彼女が名前の通り疾風の速さで飛んできてくれる。手紙がついていなくて彼女だけ戻ってきた場合は相当の緊急事態が発生した、ということになる。それが分かるだけでもかなりありがたい。

前の世界で親が俺にポケベル(のちに携帯電話に換わったが)を持たせた気持ちが少し分かったような気がした。

「さてさて、俺達もちょっと仕事しますかね」

俺は家の中に戻りながらぐいっと伸びをした。1週間……いや、3~4日もあれば納品物を揃えられるので、かなり余裕はあるが、予め用意しておいて損になるようなものでもない。

時間が余ったらのんびり出かけるなり、カレンに鍛冶の手ほどき――と言っても見取り稽古とリケの指導になるが――なりすればいい。

朝の拝礼は皆が狩りに出かける前に済ませてある。鍛冶場に入った俺は火床に火を入れた。

火床に火が熾り、その熱を上げ、板金を加工するのに適した温度になった。ヤットコで板金を掴み、火床に入れて熱する。やがて適した温度になったら、金床において鎚で形を作っていく。

コンコンと熱された鋼を鎚で叩く音が鍛冶場に響く。やがてそれはリケのものとあわせて合奏のようになっていった。

いくつかナイフを仕上げた頃、リケが火床に入れた板金の様子を見ながら言った。

「そろそろ獲物を見つけた頃ですかね」

「運が良ければそうだろうな」

時間は昼少し前。獲物が見つからなければ一旦昼飯にしようかと言っているだろうが、運が良ければすでに獲物を追っていてもおかしくない。今日は猪と鹿のどっちだろうな。

「まぁ、それが勢子をやらなきゃいけないカレンにとって、運のいいことかどうかは別だけど」

獲物が早く見つかるということは、それだけ早く勢子の役目が回ってくるということでもある。獲物を射手が待ち構えているところに追い出す役目、ということはつまりそれだけ動く必要がある。

最近はルーシーが猟犬ならぬ猟狼として優秀らしいのだが、まず勢子をして森の様子を知るのはうちの伝統だ……と、アンネの時にサーミャとディアナが言っていた。

いつの間に伝統になったのかは知らない。サーミャはともかく、ディアナはこの森に来てそんなに経ってなくないかと思うのだが、あまり森に出ていない俺と違ってディアナのほうが詳しいのは確かだから黙っておいた。

「カレンさん、大丈夫ですかね」

「ここまで来るくらいだし、このところ力仕事多かったけど、すぐへばったりしてる様子もなかったから平気だろ」

カレンはお武家様の出である。うちには伯爵家ご令嬢で体力があるのと、帝国皇女で体力があるのがいる。それにカレン自身もここまで来る度胸もあるわけだし、なんとかなるだろうと俺は思っていた。

「もう……無理です……」

そんな俺の考えは、床に転がったカレンという形で否定された。え、そんなに?

「今日は一段と長く追いましたからね」

リディが静かにそう言った。エルフも意外と体力がある。元々森に暮らす種族なのだから当たり前と言われればそれまでだが。

アンネが苦笑しながらカレンを抱きかかえる。

「私がはじめてやったときはあそこまで長くなかったけど、それでも完全にへばったからね」

そう言えばアンネも床に転がってたな。ここで暮らし始める前だったかすぐだったか。もう随分と昔の話のように思える。

「森の動きは草原や町とは違うからな。慣れてなかったら仕方ない。アタイでも慣れるまではちょっとかかった」

アンネを手助けしながら、ヘレンがそう言った。体力に自信のあるヘレンでそれなら、恐らく並か少し上のカレンでは厳しかっただろう。ちょっとで慣れてしまうヘレンが化け物レベルとも言える。

俺は各々の部屋に引っ込んでいく皆の背中に声をかける。

「夕飯の支度を進めとくから、皆は身体を綺麗にしといてくれな。湯は汲んできてあるから、自由に使ってくれ」

「はーい」と全員から(カレンはかなり弱々しかったが)答えが返ってきて、俺は台所へ向かった。さて、今日は疲労を回復できるようなメニューにしますかね。