軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

目標

俺のすることも、基本的にはリケやカレンと工程は変わらない。その精度であったり、といったことが違ってくるだけである。まぁ、その違いが大きいのも確かなのだが。

火床に入れた板金が赤みを増す。他の2人とは違い、俺はどこまで加熱するのがベストなのか、それがハッキリとわかる。火床から取り出した板金を金床に置き、鎚で叩く。

叩かれた板金はスムーズにその形を変えていく。もちろん、魔力も鎚の一振りごとにこめられる限界量をこめる。

「親方、また早くなってらっしゃる」

「じゃあ、これ以上早くなる可能性も……?」

「あるでしょうね」

「ええ……」

そんな風に呟くリケとカレンの声を余所に、俺は集中を深めていき同じテンポで作業を繰り返す。それはある種の機械のようでもあっただろう。家族の皆には「機械」というものが分からなかったとしても、その動作をするための機構であるという感想を抱いたかも知れない。

やがて、形になったナイフを熱する。ここだ、というタイミングで火床から取り出し、水に沈めるとジュウと音を立ててナイフは硬くなっていく。

ベストな頃合いで水から引き上げ、金床で軽く調整し、エイゾウ工房製の証たる猫のマークを彫り込んでから、砥石でその全身を研ぎ澄ませれば完成だ。

俺はそれを頭上にかざして眺める。

「うん、いい出来になったかな」

火床や炉の火を反射して鈍く輝くナイフ。その身には魔力を湛え、零れだしそうですらある。いや、実際入り切らなかった分は溢れて散っていくので、これ以上こめればその分は零れだすのだが。

出来上がったナイフを俺はリケに手渡した。うやうやしく受け取ったリケはそのナイフを光にかざしたり、ためつすがめつしている。

「あの早さでここまでのものを作られたら、辞めてしまう鍛冶師が多そうですね」

「さすがに量産は出来ないけどな」

「それはそうです。こんなのが世の中に溢れたら大変なことになりますよ」

リケの言葉に俺は苦笑しながら頷いた。鉄をも切れるナイフなんか、世の中にガンガン出回って良いものではないことだけは間違いない。

リケがナイフをカレンに手渡す。リケ以上にうやうやしく、例えて言うならば王から剣を下賜される騎士のようにカレンはナイフを受け取った。

そのカレンも俺のナイフをためつすがめつ、粒子のひと粒すら見逃すまいとするかのように眺める。

「刃には気をつけろよ」

「はい、分かってます」

本当に分かっているのかどうか若干怪しいが、真剣な表情をしているので俺はそれ以上何も言わないでおいた。

日が暮れるまで、とは行かないが結構な時間をかけてナイフを見たカレンは、リケにそっとナイフを返す。

「すみません、長いこと」

「いいえ、いいんですよ」

微笑むリケ。俺はちょっとした悪戯心で混ぜっかえすことにした。

「最初にリケが俺の剣を見たときはもっと長かったしなぁ」

あれはまだ俺が自由市で直販していた頃の話だ。もう何年も前の話のような気すらしてくる。あの時リケに出会っていなかったら、どうしてただろうなぁ。大黒熊のときにあっさり移住していた可能性もある。

「あれは……まぁ、そうでしたけど」

再びナイフを眺めていたリケは俺にナイフを返しながら口を尖らせる。その直後に笑っていたので、ご機嫌を完全に損ねたわけではない……と思う。

ナイフを受け取った俺は、カレンに向き直った。

「さて、それじゃあカレン」

「は、はい!」

カレンはビシッと気をつけの姿勢になった。なにか軍事系の訓練を受けたことがあるのだろうか。いや、単に緊張の表れか。

俺はカレンにナイフを差し出した。怪訝そうな顔をするカレン。

「これを作れるようになれ……とは言わない」

チートの手助けがなければ俺でも絶対に無理だしな、とは言わないでおく。

「目指す先にはこういうものもある、とだけ覚えておいてくれ」

「はい!」

「それじゃ、これはお前のだ」

「えっ!?」

「うちに住んでる“家族”は皆もってる。お前にも渡しておく」

カレンはおずおずとナイフを受け取った。さっき眺めた時以上におっかなびっくり、という感じである。

「『よく切れる』から気をつけてな。扱い方はサーミャかリケに聞くといい。持ち手やなんかは自分でやってくれ」

カレンは手に持ったナイフを見つめながら、静かに頷いたのだった。

その後、「なんですかこれはーーー!」と言う叫び声が表から聞こえてきたが、それはまた別の話というやつである。