軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

北方からの

「北方から、ですか」

「ええ」

俺が思わず言うと、カタギリさんは頷いた。カミロが口を開く。

「彼女は俺の北方との取引先の縁でな。前に“コメ”が欲しいって言ってただろう?」

「そうだな」

元日本人として食卓に欲しいものナンバーワンと言って過言ではない。品種の差なんかで前の世界のものと味は比べるべくもないとしてもだ。

「『南の商人が“コメ”を欲しがるってなぜだ? そう言えば、最近北方の食品を欲しがってたな』ってところで興味を持たれたらしい」

「なるほどね」

俺は小さく溜息をついた。完全に俺が藪を突いた結果だな。

「それだけではないですけどね」

カタギリさんが透き通ったガラスの鐘のような声で言った。

「エイゾウさんが作った品を見て、一度特注品を拝見したいと思いまして」

カタギリさんは俺の家名を言わなかった。当たり前だが、どの土地でも家名を知っていたらそちらで呼ぶのが通常の礼儀である。

俺だって公式の場ではマリウスのことは“マリウス”ではなく、“エイムール伯爵”と呼ぶ。

なのに、タンヤを言わなかったのは俺の家名を知らないということだ。鍛冶屋だから無くても不思議はないし。

「失礼ですが、それは刀ですよね?」

カタギリさんは俺が傍らに立てかけておいた“薄氷”を指さす。

「ええ」

「拝見しても?」

「どうぞ」

俺は薄氷をカタギリさんに手渡した。俺の側で小さく金属音がしたのはヘレンが自分の得物に手をかけたのだろう。

カタギリさんは「では」と恭しくお辞儀をして、薄氷を鞘から抜いた。仄青く光る刀身が姿を現し、そこだけ温度が下がったかのようである。

「すごい! 青生生魂(アポイタカラ) なんですね!」

「ええ。ちょっとした伝手で手に入れましてね。まぁ、このカミロからなんですが」

正確には情報はマリウスが入手してくれて、そこから先を俺が金を払ってカミロに任せた形である。

「ここまで出来る人がいたんですね……」

ウットリとした表情で薄氷を見つめるカタギリさん。リケがウンウンと腕を組んで大きく頷いている。

「ありがとうございました」

「いえいえ」

かなりじっくりと見た後、頭を下げながら、鞘に収めた薄氷をカタギリさんは差し出した。俺が受け取って再び傍らに置くと、小さく息を吐く音が聞こえた。

「で、通信手段と交換ってこれだけなのか?」

俺はカミロに向かって言った。彼はわざとらしく肩をすくめる。

「まさか」

「だよな」

これだけのために、わざわざここまでは来ないだろう。カタギリさんがモジモジしながら、話を続ける。

「大変不躾なお願いですし、この子達を取引の手段にするのは正直気の引ける部分があるのですが……」

少しの逡巡。北方からここまではインストールの知識によれば結構な距離がある。そこから出向いたのだ、希望があるなら早く言っても良さそうなのだが、それが出来ないのだな。

「エイゾウさんの工房にお邪魔できませんか?」

カタギリさんは真っ直ぐに俺の目を見ながら言った。ドデカい溜息が周囲から聞こえる。

「それが小竜を貸し出す条件、だそうだ。彼女は今お前の工房の場所は知らないし、1人で行けるほど腕が立つわけではない」

口ひげを触りながら、カミロが付け足す。なるほどね。

「カタギリさんの武器を打ってくれ、という依頼では無いんですね?」

俺を見るカタギリさんの目を、俺も真っ直ぐ見返しながら聞いた。武器を頼むのであれば、1人で来いというあの条件に引っかかるが、そうでないなら、こちらの胸三寸の問題だ。

「ええ。それは間違いなく。と言うより、エイゾウさんに作ってもらっては困るんです」

カタギリさんは小さく眉根を寄せた。多分俺も同じような顔になっているに違いない。彼女は顔を伏せながら続ける。

「と、言われても分からないですよね。私に教えてくれ、とは言いません。側で見るだけでも結構ですので、私の手で一振の刀を作れるようにならなければいけないんです」

そう言って、顔を上げた彼女の顔にはもう逡巡の色はなく、決意だけが漲っていた。